『POKOROCK ’23』が伝えた“バーチャル音楽と文化の最先端” VR未経験者こそ一見の価値アリといえる理由

『POKOROCK』が伝えるバーチャル音楽と文化

 8月19日から20日にかけて、VTuber・甲賀流忍者ぽんぽこの「ぽんぽこちゃんねる」で24時間生配信企画『ぽんぽこ24 vol.7』が開催された。毎年夏におこなわれ、企業・個人を問わず多くのVTuber/タレントが参加することで知られている、一大イベントだ。

 今回紹介する『POKOROCK ’23』は、20日の14時から開催された『ぽんぽこ24 vol.7』の企画。参加者には、おめがシスターズやMISOSHITAのようなVTuber/VRクリエイターが参加している。本稿では、ぽんぽことピーナッツくんの二人が『POKOROCK ’23』とその後のCMで、いかにしてVTuberやVRChatのクリエイターを含むバーチャルシーンの音楽や文化を伝えていったのかを語っていきたい。

「ぽめるず」の愛くるしい見た目に秘められた確かな実力

ぽめるず

 まず紹介するのは、VRで活動するアイドルグループ・ぽめるずだ。3匹のポメラニアン、ぽめまち・ぽめりー・ぽめさきによって構成されたアイドルという、一見“イロモノ”にも思えるグループだが、その歌唱力は抜群。マスコットキャラクターのような愛くるしい見た目、かわいらしいMCとは裏腹に、ロック調の楽曲に合わせて三者三様の歌声でステージを彩った。

 見た目と歌声のギャップで観客の度肝を抜くだけではない。楽曲の間奏パートを挟んで、なんと人間の姿に変身するという演出を見せてくれた。ポメラニアンから人間の姿へ“羽化”するという離れ業は、バーチャルだからこそ成立する表現といえるだろう。

ぽめるず

 数多いる『VRChat』アイドルの中では、今年の3月に始動したばかりと結成して日の浅いアイドルグループ・ぽめるず。だが、その歌声とエンターテインメントとしての高い完成度を見れば、今回の出演やトップバッターを務めたことにも納得だ。

正統派のロックンロールを、最新のテクノロジーで届ける「JOHNNY HENRY」

JOHNNY HENRY

 つづいて登場したのは、JOHNNY HENRY。『POKOROCK』の名にふさわしく、正統派なスタイルで見たものを熱い気持ちにさせてくれるブルースロックバンドだ。

 エルビス・プレスリーを思わせる風貌のフロントマンであるボーカル/ブルースハープ・YAMADAを筆頭に、ギター・藍葉じるあ、ベース・Moiri、ドラムス・YukiHataによる4ピース構成の彼ら。4人それぞれが遠隔でリアルタイム演奏を披露するというバーチャルらしさながら、まるで同じステージに立っているかのような完璧なパフォーマンスを見せてくれた。

JOHNNY HENRY

 「ロックンロールをやりに来ました」という言葉を皮切りに人気曲「Emotion」でライブをスタート。サビでは思わず縦ノリで飛び跳ねたくなるような楽曲で場をあたためると、つづけて披露されたのは、80’sを彷彿させる往年のブルースロック曲「愛にすべてを」だ。どこか懐かしさを感じさせる曲を、最新のテクノロジーを駆使して披露するからこそ、彼らの個性が際立つ。

JOHNNY HENRY - Emotion (Official Music Video)

『VRChat』で聴衆を魅了し続けたロックバンドの楽曲は、『VRChat』をやっていない人にもきっとその魅力が伝わるだろう。

暗闇の中でもがき続け、切り拓く姿を見せた「MISOSHITA」

MISOSHITA

 ロックンロールによる熱い演奏を楽しんだあと、暗転を挟むとステージの雰囲気はがらりと変わる。妖しさを感じさせる空模様のもと、地面から飛び出した光の柱。そこから登場したのは、VRの黎明期から“Metaverser”を自称して活動するアーティスト・MISOSHITA(ミソシタ)だ。

 エレクトロニックな「Struggle for life」のトラックに乗せて披露されるエモーショナルなポエムコア。現実の苦しみを歌いながらも、〈Creationがweapon STAY GOLD〉と、創造することで自身のレゾンデートルを証明し続ける姿を我々に見せてくれる。

MISOSHITA

 つづけて「テクノロジーとカルチャーで未来を創るんだ」と語り、「ミッドナイト・ファイティングブリーフ」を披露する。〈諦めんなよ 走るしかねえんだ〉という言葉を残し、暗闇から光を飛び越えて空高く舞い上がろうと、まい進を続ける。常に最先端を切り拓きつづけるMISOSHITAの姿を、ぜひその目で見てもらいたい。

MISOSHITA

「おめがシスターズ」が双子ならではの美しいシンクロで“聴かせる”

おめがシスターズ with ほんわかバンド

 

 その後登場したのはおめがシスターズことおめがレイ、おめがリオの二人。昨年同様、ほんわかバンドを率いての参加だ。

おめがシスターズ with ほんわかバンド

 普段はユーモラスな振る舞いで元気づけてくれる彼女らだが、このステージでは双子ならではの美しいハーモニーを披露してくれた。「シンクロニティ」という楽曲名の通り、ユニゾンとハモパートを行ったり来たり。ミクスチャー・ロックバンドBACK-ONが作詞・作曲を担当し、ミクスチャーらしくラップパートも交えた一曲だ。

おめがシスターズ with ほんわかバンド

 演奏を終えると、なんとここで本邦初公開となる新曲を披露するという。「おめシスとほんわかバンドのみんなとの縁があってできあがった楽曲です」という言葉とともに披露されたのは「モンスターカミング」。

おめがシスターズ with ほんわかバンド

 芯のある凛とした二人の歌声からスタートした楽曲は、ピアノサウンドもふんだんに取り入れたバンドサウンド。「ハイ!ハイ!」と掛け声を上げてステージを盛り上げた。残念ながら、最後のキメで配信の音が途切れるという不運に見舞われてしまったが、俄然フルで聴いてみたくなるというものだ。おめがシスターズのチャンネルにMVがアップロードされるのを楽しみにしよう。

TORIENA with BCは僕たちの常識を破壊し、暴力的なまでの個性で“ブチ上げる”

TORIENA with BC

 最後に紹介するのは、TORIENA with BC。ボーカル・TORIENAにくわえて演出・技術担当として三日坊主、ちゅーたなの二人が参加したグループだ。

 幻想的な音と共に登場したTORIENA。最初の楽曲「Break Me Down」が始まってすぐ、一転してオランダ発祥のテクノジャンル・Gabba(ガバ、ハバ)を思わせる圧倒的なハードなテクノサウンドで観客を釘付けにする。

TORIENA with BC

 背後では巨大なTORIENAーー「DEKAENAちゃん」がダンスし、肉が躍り狂う。さらにはステージ上全てのオブジェクトがピンクと水色に塗りつぶされるという、圧倒的にオリジナルな世界観を披露する。そこに合わせられるバチバチのドロップ、キック、歌声でコメント欄は“ブチ上がり”状態。

 つづいて、ステージ全体が線画調に変化し、2曲目「デコイ」のパフォーマンスが始まる。掴みは抜群という中で、丁寧に作り込まれた、まるでMVをそのままワールドに持ち込んだかのような演出の数々は圧巻。

 

 この2曲、じつは今年の11月に開催されたイベント『SANRIO Virtual Festival 2023 in Sanrio Puroland 』でも披露されており、当時大きな話題となった。しかも、そこで出演したステージ「B4 CHILL PARK」にはTORIENA with BCをはじめmemex、キヌ、ピーナッツくんなど錚々たるメンバーが名を連ねており、それも相まって「B4がやばい」と多くの人が口を揃えるほど。

 昨年の『POKOROCK』においても、キヌがワールド全体を利用した大掛かりかつ大胆な演出を披露したことは記憶に新しい。そうした中で、「B4 CHILL PARK」を盛り上げたピーナッツくんとTORIENA with BCらがついに邂逅を果たした形だ。

【VR Live】kinu 4th live "Future"

 余談だが、ラストのシーンに登場する「巨大ネズミ」や「机」などはTORIENA自らが製作したものだとちゅーたなが明かしている。TORIENAはパフォーマーであり、作詞作曲家であり、プロデューサーであり、そして凄腕のモデラーでもあるというのだから驚きだ。

(参考:ちゅーたな氏のnote「サンリオVfes2023 TORIENA with BC の破壊」

memexや青色クラブ、貝と蜃気楼にVRTRPGまで 奥深いバーチャルの音楽と文化

 黎明期から進化を続けるバーチャル界隈の音楽シーンをこれでもかと濃縮した『POKOROCK ’23』。ディレクターは『VRChat』で活躍しているアーティスト、AMOKAのもいさんが務めており、音楽イベント『Virtual Reality Music Festival』においてオーガナイザーを務めていた人物を積極的に起用していたり、黎明期から近年まで、クオリティの高いアーティストをしっかりとピックアップしたりと、攻め続ける姿勢をやめないぽこピーふたりの人選・センスはさすがの一言に尽きる。

【#VRMF 2022】Virtual Reality Music Festival 2022 Live Stream

さらに、メインステージが終わったあとにはぽこピーの二人によるパフォーマンスも披露され、その後流れたCMでは多くのアーティスト・ワールドがピックアップされている。

 TORIENA with BC、キヌと同じく「B4 CHILL PARK」でテクノロジーと音楽を見事にかけあわせたプロジェクトを披露していたアラン、ぴぼによる二人組のユニット・memexから、DJやダンサーが活躍する「青色クラブ」といったバーチャルのハコ紹介、リアルのライブハウスにアバターを顕現させた「貝と蜃気楼」まで、『VRChat』を始めとするバーチャルシーンで活躍するさまざまアーティストが順に登場。どれもが短い時間ながらキャッチーかつハイクオリティで、『POKOROCK ’23』でバーチャル音楽シーンが気になった人に「スターターデッキを与える」と言わんばかりのチョイスだった。

 さらには、VRでTRPGが遊べ、ストーリーの進行に合わせてリアルタイムで場面作成が可能という、『VRChat』ユーザーでも驚くようなギミックが詰まったシステム「CatsUdon」や、一緒にゲームで遊ぶ仲間と出会える「週末VRCゲーム部」といった音楽以外のワールド・コミュニティも紹介された。『VRChat』で熟成された文化を幅広く紹介する「ぽんぽこ24」のCMシリーズはどれもユニークで、こちらも一見の価値アリだ。

 『POKOROCK』に限らず、「ぽんぽこ24」の間に放映されるCMを見て、少しづつ『VRChat』やバーチャルの世界に興味が湧いてきた方も多いのではないだろうか。もし今回の記事を見てピンときた人は、デスクトップ版から構わないので、ぜひとも『VRChat』の世界に飛び込んできてもらいたい。

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