まるで『ゼルダBotW』? 「ぼくなつ」シリーズの精神的続編『なつもん!』が支持を集める理由
変わらない“ぼくなつイズム”。『なつもん!』が支持を集める理由は?
ゲーム市場では近年、ほのぼの系タイトルが定期的に発表され、ときに話題を集めている。「牧場物語」シリーズからは、2021年2月に『牧場物語 オリーブタウンと希望の大地』が、2023年1月に『牧場物語 Welcome!ワンダフルライフ』がナンバリング作品として、2022年11月には『ドラえもん のび太の牧場物語 大自然の王国とみんなの家』が派生作品として発売された。
これらと「ぼくのなつやすみ」や、それに類するタイトルを同一と扱うのはいささか乱暴ではあるが、「ほのぼの系」というくくりで考えれば、ある意味で親戚的なタイトルとして位置づけることできるだろう。実際に『なつもん!』の開発には、「牧場物語」シリーズの生みの親である和田康宏氏とトイボックスがクレジットされている。
「ぼくのなつやすみ」に類するシリーズからは、2021年7月に『クレしん オラと博士の夏休み』が発表され、一定の評価を獲得した。同作もまた、『なつもん!』と同様に、ミレニアムキッチンと綾部和氏が企画・制作として携わっている。
しかしながら、成功した精神的前作『クレしん オラと博士の夏休み』と『なつもん!』のあいだには、さまざまな違いがある。先述したシステムの変化はその一例だ。なぜ同タイトルは小さくない路線変更を施しながらも、シリーズファンから一定の支持を獲得するに至ったのだろうか。そこには、変わらない“ぼくなつイズム”の存在がある。
ひとつめは魅力的なサブキャラクターたちだ。『なつもん!』には、主人公の家族やよもぎ町に暮らす人々など、さまざまなサブキャラクターが登場する。彼らは全員が個性豊かに描かれており、それぞれの形で物語に関わってくる。そこにあるのは、夏休みを舞台にしたヒューマンドラマだ。読書が好きでいつも本屋で店番をしている中学生の女の子、探偵が大好きな子どもグループのリーダー、謎の工場に勤務する寂しがり屋のおじさん、なかにはサブキャラクター同士の恋愛模様もある。彼らなしで『なつもん!』に描かれている夏休みは語れない。それだけ同タイトルにとって重要な部分を担っているのが、サブキャラクターたちの豊かな個性なのだ。
また、彼らの人間性、世界観の演出には、“ぼくなつイズム”を継承したテキストの影響も大きい。たとえば、プレイヤーが思い思いのタイミングで書く(描く)絵日記には、「かんたん!」「ノーマル」「ぐるんぐるん!」からなる、3タイプの自動生成の文章が用意されている。特筆すべきは、3つめの「ぐるんぐるん!」について。そのネーミングセンスもさることながら、実際に表示される文章は、まさに「ぐるんぐるん!」。そのテキストが主人公・サトルの性質や子どもらしさを的確に表現しているのだ。
そのおかげもあり、『なつもん!』では、本来であれば煩わしい工程ともなりかねない「街の人々との会話」「絵日記をつけること」が、ゲームを進めるうえでの大きな楽しみとなっている。テキストの雰囲気という繊細な箇所において、容易に“ぼくなつらしさ”を再現できているのは、ひとえに綾部和氏の力量といったところだろう。こうしたテキストの存在に対し、ニヤニヤしてしまう古参プレイヤーも多いのではないだろうか。
さらにシステムやシナリオの面では、ストレスの少ないUIや、適度に現実離れしたアクション、自由さを縛りすぎない程よい導線なども没入感に影響を与えている。「なにもかもでき過ぎないこと」がオープンワールドの人を選ぶ部分を緩和しつつ、自由な夏休みライフを損なわない、『なつもん!』ならではのエッセンスとなっている。
くわえて、「20世紀の夏休み」をサブタイトル・舞台としたこともプラスに働いただろう。こうしたゲーム性を持つタイトルは、実際にいま学生であるプレイヤーに主に遊ばれているわけではない。そのような時代を終えた20代後半や30代、さらには40代といった層が、ボリュームゾーンであるはずだ。彼らがこれらのタイトルを通じてみつめているのは、自身の青春である。そこにあるどのような要素よりも、懐かしさを感じられるかが大切であるはずなのだ。その意味において、「20世紀の夏休み」は彼らの青春そのものだ。「リアルさだけにこだわらない、レトロゲームのような佇まい」「あふれるノスタルジックさ」もまた、「なつもん!」が支持されるひとつの理由であるだろう。
まだまだ広がりを見せそうな「なつもん!」のトレンド。シリーズの歴史に新たな1ページが刻まれそうだ。
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