『Sky 星を紡ぐ子どもたち』に込められた音楽のこだわり サウンドデザイナー・水谷立が音色にのせた作品のメッセージ

 マルチプラットフォーム対応の『Sky 星を紡ぐ子どもたち』(Sky)が、2023年7月18日で正式リリースから4周年を迎えた。

 『Sky』とは、7つの地方を舞台に“星の子ども”を操って星座を空へ送り届けるソーシャルアドベンチャーゲームだ。オンラインプレイに対応しながらも、そこには他者との戦闘やライバル関係になるといった競合の概念は無く、他者との交流によって生じる友情や、見知らぬ者同士が手を取り合う温かみといった部分が色濃く描かれている。唯一無二と言っても過言ではないゲーム体験を有する本作は、2023年5月時点で累計ダウンロード数2億6000万を突破。PC版の配信をはじめ、本編に基づくアニメーションプロジェクトも発表されるなど、リアルタイムでコミュニティに話題を提供している。

 そんな『Sky』の印象的なサウンドデザインを手掛けたのが、本作の開発会社であるthatgamecompanyに所属する水谷立(みずたに りつ)氏だ。10年以上のキャリアを経て、水谷氏は2016年にthatgamecompanyへ入社。『Sky』の開発に携わっただけでなく、日本市場に特化したプロモーションを手がける“ジャパン・ブランド・リード”も兼任している。今回は海外のインディーデベロッパーで働く意義をはじめ、『Sky』に込められたサウンドデザインへのこだわり、4周年を迎えた『Sky』の展望を水谷氏に伺った。

『Flowery』に衝撃を受けて渡米

ーーまずは水谷さんのご経歴について教えていただきたいです。

水谷:thatgamecompanyの水谷立と申します。2004年にスクウェア・エニックスでサウンドエディターという職種でキャリアをスタートして以降、様々なプロジェクトでサウンド開発に携わりました。12年ほど在籍したのち、2016年の夏にthatgamecompanyへ入社して今にいたります。

ーー海外のインディーデベロッパーであるthatgamecompanyへ入社した決め手は何だったのでしょうか。

水谷:一言でまとめると、「thatgamecompanyの作品をプレイして衝撃を受けた」というのが大きな決め手でした。『Flowery』というアドベンチャーゲームが発売された際、初プレイ時にサウンドデザインやゲームデザインといった総合的な演出面にものすごく衝撃を受けて。エンドクレジットを見た時に、「羨ましい。この作品を手がけたチームと一緒にものづくりをしてみたい」と強く感じたんです。そこからthatgamecompanyが開発スタッフを募集していると知り、後先考えずに飛び込んでいきましたね。

ーー衝動的なものだったのですね。海外企業でゲーム開発に従事する際、コミュニケーション面で苦労した点や工夫した点があればお聞きしたいです。

水谷:衝動的に飛び込んだので、やっぱり色々な苦労がありましたね。一番大きな点は英語でのコミュニケーションでした。私は日本で生まれ育ち、そのまま日本の企業に就職したものですから、それまで海外暮らしの経験がまったく無かったんです。thatgamecompanyの作品とチームへの憧れだけで海を渡ってしまったので、当初は英語もあまり話せる状態ではありませんでした。会議中も辞書を開いて言葉の意味をチェックするなど、スムーズなコミュニケーションが取れるまでかなり時間がかかりました。

ーー言語の壁を乗り越えるのに苦労されたのですね。開発環境の違いなどで驚いたことはありましたか?

水谷:私が入社して間もないタイミングでしたが、ゲームで音を鳴らすためにプログラムにアクセスする必要があり権限について質問をしたところ、「好きなようにやっていいよ」と言われて驚きましたね。まだthatgamecompanyに入って1週間経ったかどうかの時期だったので、開発スタッフからすれば「よく分からない人がやってきた」という段階だったと思うんです。それでも入社した時点でオープンに接してくれたと言いますか、「ソースコードにアクセスして音を自由に組み込んでOK」と言ってもらえて、まったく環境の異なるところへ来たんだという実感が湧きました。

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