これは音楽制作に“没頭”できるデバイスだーーAbleton第三世代『Push』スタンドアローンモデルを徹底レビュー
Abletonが今年5月に最新ハードウェアとなる第三世代『Push 』(以下、『Push 3』)を発表した。2015年に発表された第二世代『Push』(以下、『Push 2』の後継モデルとなる『Push 3』では、PCに接続せずとも使用できるスタンドアローンモデルと、PCと接続して使うことを前提としたコントローラーモデルの2機種がラインナップされている。
今回は発表直後から大きな注目が集まった『Push 3』のスタンドアローンモデルを試用できる機会を得たので、筆者が実際に使ってみて感じた点・気になった点をレビューしていきたい。
プロセッサー(Intel® 11th Gen Core™ i3-1115G4)、メモリ(8GB RAM)、SSD(256GB)、Wi-Fiが組み込まれた、独自設計の専用コンポーネントが内蔵されている『Push 3』スタンドアローンモデル。本機にはAbletonの人気DAWソフト『Live Intro』がプリインストールされているため、同エディションに付属するインストゥルメントとエフェクトを使ってすぐに音楽制作を始めることが可能だ。
また『Live』には「Intro」のほか、「Standard」、「Suite」の上位エディションが存在するが、すでにそれらのライセンスを所有している場合は『Push 3』でもライセンスを認証することが可能。 これにより、所有するライセンスに付属するインストゥルメントやエフェクトが使用できるほか、制限なくトラック数を作成できるようになるなど、『Push 3』のポテンシャルが拡大する。
『Push 3』は、長期使用を想定した製品になっており、このモデルに搭載されているコンポーネントは、将来的により強力なバージョンへのアップグレードが可能になるとのこと。さらに、プロセッサーを搭載しないモデルを購入した場合でも、あとからコンポーネントを追加することでスタンドアローンモデルへのアップグレードが可能という点もうれしい(アップグレードキットは2023年末販売予定)。
『Push 3』の基本的なワークフロー自体は、前身モデルの『Push 2』と大きく変わらない。しかし、PCに接続する必要がない『Push 3』スタンドアローンモデルでは、コントローラーモデルと比べて他のことに気を取られることが減り、音楽制作に集中しやすくなるというメリットがある。実際にスタンドアローンモデルを試してみたところ、制作中に気がそぞろになりがちな筆者も音楽制作にかなり没頭して取り組めた。時間対効果を考えた場合、締め切りに間に合わせる必要があるプロの音楽クリエイターや、普段は別の仕事をしているため制作時間が限られるセミプロクリエイターにとっては非常にパフォーマンスが高いツールだと感じる。
従来の『Push』の場合、ライブ会場で使用するには少なくとも自分のスタジオから『Push』とPC、オーディオインターフェイスを持参する必要があった。しかし、オーディオインターフェイスを内蔵する『Push 3』スタンドアローンでは、PCとオーディオインターフェイスを持参する必要がなくなる。移動時に持ち運ぶ機材を大幅に減らすことができるのは、大きなメリットだろう。
とはいえ、ミニマルなセットアップだけがメリットというわけではない。例えば、ADAT対応の外部オーディオインターフェースを接続することで、入力数を最大10チャンネルまで拡張できるほか、フットスイッチ端子からCVやゲート信号を送ることで、モジュラーシンセなどの操作もおこなえるなど、外部機材との接続性も高い。こうした拡張性と携帯性の両立により、スタジオの内外で自分のセットアップの中核を担う機材として使用することが可能だ。
Wi-Fiに接続することで自分の「Abletonライセンス」に紐づいたAbletonの「Pack」(サウンドやサンプル素材集)をダウンロードして使用できることも『Push 3』スタンドアローンモデルが持つ特徴のひとつに挙げられる。さらに、『Push 3』と『Live』をペアリングすることで『Push 3』側からLiveセットをダウンロードし、『Live』でも開けるようになるほか、逆に『Live』から『Push 3』にLiveセットやサンプル、プリセットの移行がワイヤレスで可能になる。通常このような機材間のデータ移行作業を行う際、SDカードなどの記録メディアを使用するハードウェア機材が多いだけに、実際に使ってみるとこの双方向性の高さがすごく便利な機能だということが実感できる。