日本と中国で根本から違う「ゲーム作り」の考え方  『原神』『崩壊』で約5400億円の売上を叩き出したmiHoYoの快進撃から読み解く

日本と中国で根本から違う「ゲーム作り」の考え方

あまたの“9章までやれおじさん”を生んだ「メインストーリーチャプターIX」の衝撃

 2018年12月、メインストーリーチャプターIX(9章)のためのショートアニメ「最後の授業」が公開された。このアニメ作品こそが、あまたの「9章までやれおじさん」ーー9章までとりあえず遊ぶことを推奨するプレイヤーたちを生み出したのである。この動画はキャラクターガチャの売上にまで影響し、本作の存在を決定的なものにした。何よりこの経験は、仮に『崩壊:スターレイル』が今後どこかのタイミングで失速しても、開発チームの「必ず巻き返せる」という自信に繋がるはずだ。デベロッパーにとって、この感覚は相当大きなアドバンテージになる。

 なお、個人的な話をさせてもらうと、筆者もこのときに同章の重要人物である「無量塔姫子」に特別な感情を持った。以降、『崩壊:スターレイル』で彼女の名前を見つけたときは狂喜乱舞し、CVに「田中理恵」とクレジットされていると分かって涙腺が緩んだ。そしてもちろん、彼女はスターレイルにおける私のパーティで最前線を張っている。

【ネタバレ注意】崩壊3rd公式アニメ「メインストーリーチャプターIX 最後の授業」

 また、miHoYoの作品は日本の声優の地位を相対的に引き上げているようにも感じる。『崩壊3rd』の場合、グローバル版のチャンネルにも日本語吹き替えの動画がアップされている。その事実ひとつとっても、同社の「ACG(アニメ・コミック・ゲーム)」への深いリスペクトと理解が感じられる。そして、日本の声優もそれに完璧に応えてみせるのだ。上の動画の3:55〜のシーンに注目してほしい。田中理恵による魂の熱演。わずかに歪む激烈な咆哮。控えめに言って、このシーンに対してこれ以上の演技を想像するのは難しいと思わされる。

 ちなみに『原神』でも同様の現象が起きていて、こちらは非公式なのだが、日本の声優にフォーカスした動画が英語圏で数百万PVを稼いでいる。日本語は話者数と使われるエリアが限定的だが、miHoYoのコミュニティではその力学が覆っている。

 さらにその後、『崩壊3rd』の9章がもうひとつ上の次元で決着するのが、チャプターXXV。すなわち、メインストーリーの25章だ。この章は、ACG史上屈指の名場面を生んだ『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST(2009年版)』の第62話に通ずるものがある。あまり深くは語らないでおくが、25章の展開は「立てよド三流――」のシーンと構成が似ているのだ。

【ネタバレ注意】崩壊3rd公式アニメ「永遠なる薪炎」

 さらにmiHoYoは「アニメ」を作るだけでは飽き足らず、その情熱は音楽にまで伸びている。自社の音楽スタジオ「HOYO-MiX」を抱え、『原神』しかり『崩壊』シリーズしかり、オリジナルサウンドトラックをもとにコンサートが度々開催される。両作品のベテランユーザーは折に触れ、その完成度の高さに打ち震えているのだ。特筆すべきは、楽曲のアレンジ力。ここでも『崩壊3rd』を例に挙げよう。同作の登場人物であるメビウスのイメージトラック「Devouring Snake」、同じくパルドフェリスの「Elastic Force」は共にエレクトロニック・ミュージックを基調としている。もっと細かく分類すれば、前者はNeurofunk DnB(Drum and Bass)、後者はFuture Funkといったところだろうか。

 それらがオーケストレーションとして解釈されるとどうなるのか。その答えを下の動画で確かめてもらいたい。

崩壊3rd 「純真なる夢歌」オンラインコンサート

 「劇伴」としてだけでなく、それをリスニングミュージックとして体感でき、あまつさえオーケストラエディションではまた別の解釈で聴ける。サウンドトラックをエッジの効いたダンスミュージックに変換するだけでなく、そこからさらにクラシックの方面に橋をかけた。

 これがmiHoYoの「ゲーム」なのだ。David Jiangが言うところの、「テクノロジー会社が提供するエンターテイメント」なのである。「『原神』の開発費は110億円!」と度々喧伝されていたが、それ以上にソフト面の総合力に注目すべきなのではないか。投資金額で定量化できない部分にこそ、miHoYoがmiHoYoたる所以が隠されている気がする。同社の「Tech Otakus Save the World」という社訓は、いまやわずかなノイズもなく真っすぐに我々の胸に届く。

 余談だが、筆者が最もおススメしたい『崩壊3rd』のコンテンツは「古の楽園」である。「9章までやれおじさん」たちの先で待つーー。

■関連リンク
『原神』公式WEBサイト
『崩壊3rd』公式WEBサイト
『崩壊:スターレイル』公式WEBサイト

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