「『マンガワン』をかっこいい場所にしたい」 放送作家・白武ときお×『チ。-地球の運動について-』など手がけた編集者・千代田修平が語る“ヒットの法則”

白武ときおと編集者・千代田修平のヒットの法則

「千代田が担当しているから間違いない作品」が理想

白武:千代田さんは売れる漫画と10年後に残る、時代の洗礼を経ても残る作品でいうと、気持ちはどっちのタイプなんですか?

千代田:そうですね。どっちと言われたら、残るほうがやりたいですね。でも、会社員としては売らなきゃいけない。

白武:ですよね。

千代田:だから、正直、売ってない編集に対しては「売れよ」と思うこともあるのですが、やっぱり売れるだけではなく、どっちも兼ね備えた漫画がいいなというのが本音です。漫画編集者の役割は大きく分けて2つ、面白い漫画を作ることと、それをめっちゃ売ることだと思っていて、この2つが達成できるんだったら、本当にどんな手を使ってもいいんじゃないかとすらと思うんですよね。

白武:なるほど。ちなみにその売るというのは、紙のときと違うもんですか? アクセス数などがリアルタイムでわかることと、紙の時の評価軸って。

千代田:違いますね。有料チケットで稼ぐとか、単話売りで稼ぐとかのようにコミックスが売れること以外での稼ぎ方も結構あります。ただ、僕は未だにコミックスが売れることを重視していて、それは正直、僕が1番わかっている方法だからというだけなんですけど。

白武:僕たちくらいの30歳前後の年齢だと、デジタルとこれまでの作り方の世代の人たちとの交差点に立ちがちかなと思います。千代田さんは、紙の漫画とWEB漫画、僕はテレビとYouTubeみたいな。これまでの時代のことは積み上げてきた人が強いし、新しいことは次の世代が強い。そういう新しいツールを使いこなす人が上がってきたら、一気に捲られるなと。

千代田:本当にそうなんですよね。その危機感はめちゃくちゃあります。

白武:いまは漫画が「0円で読める」のが当たり前、みたいになってますよね。それに上手く乗っかれてないんですよ。有象無象すぎるから、どの漫画が良くてなにが悪いかがわからない。だから、テレビで取り上げられていたら面白いという感覚なのかなと。ラジオの場合だと「オールナイトニッポンを担当しているってことは、ふるいにかけられてるはずだから聞いてみよ」と思うようなものというか。知らないジャンルだとやはりそういう基準でものを選んでしまいますね。

千代田:わかります。これからのコンテンツが溢れかえる時代、有象無象のなかでどうやったら読まれるかをよく考えます。

白武:どうしたら読まれるんですか?

千代田:キュレーターがすごい大事になってくるだろうなと思います。これまでって、キュレーターの役割を雑誌が担っていたと思うんですよね。「ジャンプに載ってるから面白い」「スピリッツだから面白い」みたいな。それがいまは薄れてきてる、誰もレーベルなんか気にせずに読んでると思うんです。むしろいまは漫画YouTuberが紹介したり、漫画好きな芸人さん……たとえばかまいたちの山内(健司)さんが紹介してたから読む、みたいな。

白武:『ジャンプ+』で新しいのが始まったら、あっちを読むか、みたいな?

千代田:そう。『ジャンプ』はレーベルの強さをしっかり保持している。『ジャンプ』『ジャンプ+』はキュレーターとしての信頼がまだものすごくあって、そこも強いんですよね。なので、僕は「マンガワン面白いよね」と言われることがいま一番やりたいことです。

白武:それは、千代田さんがキュレーターみたいになるという手もありますか?

千代田:正直それは理想のひとつで。「編集者買い」というか、千代田が編集を担当してるから、たぶん面白いんじゃないかなと思ってもらえたら嬉しいです。そのためにはきっちり必要とされるものを出していかなきゃいけないと思うんですけど。

白武:そういう立場の編集さんは、過去もいたりしたんですか?

千代田:やっぱり、林さんとかそうなんじゃないですかね。逆にそれ以前だとあまり思いつかない。本来黒子である編集者が前に出るというのは、ほんとにここ10年くらいのムーブメントだと思うんで。まだそんなにいないけど、そういう編集者になっていきたいです。

白武:たしかにこれまではなかったですね。『チ。』や『日本三國』とか、面白いと話題になってるものを見ると千代田さんに辿り着いたので、初めての経験でした。今後これに注力していきたい、ということはありますか?

千代田:『マンガワン』をかっこいい場所にしたいですね。

白武:どうなるとかっこいいですか?

千代田:僕が就活していたころ、7年ぐらい前は『マンガワン』がめっちゃかっこよくて、面白いことをしていたんです。当時、漫画アプリが続々と出始めたころだったのですが、ほかのアプリが紙の雑誌で読める漫画をWebでも読めるようにするのがメインの役割って中で『マンガワン』だけはちょっと違った。ただ”漫画が電子でも読める”ということだけでなく「新しい、おもしろい場を作る」という気概が感じられたんです。それを見て、なんとなく『ニコニコ動画』が立ち上がったころと同じ雰囲気を感じたんですよね。

白武:その「場」というのは、『ニコニコ動画』で無名の一般ユーザーが投稿するみたいなことですか、それともNetflixが『ストレンジャー・シングス』みたいなオリジナルコンテンツを生む感じですか?

千代田:それでいうと前者の方が近いのかなと思います。以前の『マンガワン』には2ちゃんねる的なノリがあったんです。始まりがWEB上の『新都社』などで漫画を描いてる人のことを面白いと思った方々が立ち上げた編集部なので、ウェブ漫画というカルチャーがすごく流入していました。コメント欄の効果もあってか、「マンガワン民」みたいなコミュニティの意識が高かったように思います。

白武:なるほど。

千代田:「新しいカルチャーを作るぞ」みたいなものは、唯一『マンガワン』からだけ感じました。

 そこから少し毛色が変わってはしまいましたが、作家さんをスカウトするときにずっと伝えていますね。「あなたの作品でマンガワンをかっこいい場所にしたいんです」って。

白武:すごい素敵ですね。面白い漫画を作ることと、面白い漫画ができるプラットフォームを作るのは違うことなのか、1つの作品でガラッと景色が一変するかもしれませんよね。楽しみです。千代田さんは、ぼくからのすべての質問に対してすでに考えられた、説得力のある回答があって驚きます。またお話聞かせてください。

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