2010年代の3DCGブームと現代のメタバースの発展を結ぶのは“GPUの技術革新”だった

GPU技術革新の歴史

NVIDIAが開発した「CUDA」プラットフォームがGPU活用の常識を塗り替える

 こうした3D表現が2010年代にエンターテイメントで大きな躍進を遂げた背景には、いくつかの技術的な進歩がある。一つは、ステレオスコピック(立体視)3D映像の技術向上だ。『アバター』や『ニンテンドー3DS』ではこうした技術が大きく活用され、新しい映像体験が提供された。

 そしてこの時期、グラフィックスプロセッサ(GPU)と、Microsoftの開発したグラフィックス用API「DirectX」が相互に進化し、大幅な性能向上を果たしていた。GPUは3Dグラフィックスの計算に特化したプロセッサで、その性能の向上によりリアルタイムでの高品質な3Dレンダリングが可能となる。

 90年代から続くこれらの技術の進化は、Windows PCでリッチなゲームを開発・動作させること、より高度な映像表現を実現することを目的としたものであり、2000年代にはあまたのメーカーがGPUの開発を行っていた。2000年代末期には多くのメーカーが淘汰され、2010年代にはNVIDIAとAMDがGPUの開発における主導的な役割を果たすこととなった。彼らの技術向上によってPCゲームの映像表現は大きく進化し、やがてこうした映像表現がエンターテイメントの世界にもたらされ、大きく花開いたのが2010年代だったということだ。

NVIDIA GPUs: 1999 to Now

 そして、このGPUの能力は2010年代以降、グラフィックス処理以外のさまざまな場所で活用されることになる。GPUは高速な並列処理を得意とするプロセッサで、この処理能力をグラフィックス以外の分野に転用できないか?というアプローチが2003年ごろから考えられており、「GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)」という概念が提唱された。これは従来CPUが行っていたような計算処理にもGPUを使い、その高速性や並列処理性能をグラフィックス以外の領域で活用するという試みだ。

 NVIDIAはGPGPUを実現するために、2007年「CUDA」プラットフォームを開発。その後2010年代に発表したGPUアーキテクチャはいずれもGPGPUとしての活用を想定したものになっていた。CUDAはGPUのパラレル計算能力を一般のプログラムからも利用できるようにし、2010年代にはビットコインのマイニングやビッグデータの活用など、グラフィックスとは離れたさまざまな領域でのGPUの利用が広がった。

 GPUと、そしてGPUが得意とする並列処理は脚光を集め、2010年代中盤にはこれを活用した人工知能のディープラーニング(深層学習)がクローズアップされる。深層学習がもたらしたエポックな話題として思い出されるのはやはり「AlphaGo」だろう(「AlphaGo」が演算にGPUを用いたのは初代のみで、後続のバージョンはGoogleが独自に開発したプロセッサによって稼働しているものの、アプローチとしては同一のものだ)。強化学習によって生まれたプログラムが人間のプロ棋士を打ち破り、人工知能の能力を世に知らしめたことは驚きを持って迎えられた。

 このように、ゲームや映像の世界で活用されてきたGPUの技術は、2010年代の3Dブームを牽引するばかりでなく、現在多くの人々が活用しているAIや仮想通貨の世界においても重宝されることとなった。

 現在、NVIDIAはアメリカの航空機・宇宙船の開発会社であるLockheed Martinと共同で、地球の大気をAIによって予測・再現したメタバース空間を作成するプロジェクトを実行している。仮想空間に地球のデジタルツインを作り、環境条件やその変化を観察するという試みで、複数のソースから生まれる複雑な状況を予測するには、人工知能のアルゴリズムや機械学習の技術が必須だ。そしてこの演算を実現し、視覚的に表現するためのあらゆる場面において、GPUは必須になっている。

Real Time Wildfire Intelligence with NVIDIA and Lockheed Martin

 駆け足だったが、ここまで「3D表現の発展とGPUの活用シーンの変化」について辿ってきた。こうして見てみると、GPUという製品はそもそも「コンピュータ上でマルチメディア表現を行いたい」という要望に答える形で生まれたわけだが、「リッチなゲームを作りたい・遊びたい」という制作者とユーザーの思いに答えてその性能を高め続けた結果、それ以外の用途でも活用されることになったというのは面白いことだ。こうした要望がなければ高い性能を持つこともなかっただろうし、かといってそれが産業用のプロセッサとして開発されるような製品だったなら、ここまでわかりやすく一般用に普及することもなかっただろう。需要に応じて発展の方向性を見定めたGPUメーカーの慧眼にも驚くばかりだ。

〈サムネイル:「Meet NVIDIA—The Engine of AI」〉

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