AppleがVRデバイスを発表? 『WWDC 2023』はVR業界への“リベンジマッチ”となるか
その後低迷した「Apple × VR」のゆくえ
2017年を起点としたAppleのVR施策だが、その後の展開は思うようには行かなかったようだ。ユーザー数が伸びなかったのか2020年5月、Valveは「SteamVR」のmacOSサポートを終了。AppleのWEBサイトに掲載された「HMDの写った画像」も順次差し替えられ、ここ数年のAppleはこうしたVRデバイスへの言及を避けている。一方でAR関係のアップデートは続いており、最新の「ARKit 6」では4Kビデオへの対応、LiDARスキャナの深度情報活用API、カメラでのモーションキャプチャなどが追加された。
AppleのVR施策はうまく行かなかったものの、関連テクノロジーといえるARにおけるアップデートは続いており、くわえて2017年から今に至るまで「AppleがVRデバイスを発表する」という噂は断続的に報道されている。「AppleのVRデバイスはrOS(Reality OS)と呼ばれるOSで動作する」「Appleがペーパーカンパニーを通じて『Reality OS』の商標を登録」などという噂がそれだ。
さらに昨年、Appleの内部情報に詳しいミン・チー・クオ氏は、Twitterで「Appleのヘッドセットは量産に時間がかかるため、『WWDC 2022』で発表されることはないでしょう」と語った。クオ氏の言葉を信頼した上で考えるならば、「AppleがVRデバイスを作っていることは確実だが、昨年の段階では発表時期を選んでいた」というわけだ。
(2/2)
I'm sure that if Apple announces AR/MR headset and its OS at WWDC, competitors will immediately kick off copycat projects and happily copy Apple's excellent ideas, and hit the store shelves before Apple launches in 2023.— 郭明錤 (Ming-Chi Kuo) (@mingchikuo) May 31, 2022
このあと「Apple製VRデバイス」が発表されるかはわからない。これらはいずれも”噂”である。ただし、Appleが市場にVRデバイスを投入することのメリットについて考えてみると、昨今のコンシューマー市場における高性能コンピュータの需要は「ゲームを快適にプレイすること」に傾いており、ゲーミングPCの市場は活況にある一方で、Appleのハードウェアはそこから取り残されている。VRデバイスやゲームを取り巻くコンピュータは「Windows一強」の状況が続いており、AppleのVRデバイスが普及すればこの状況を打開できるかもしれない。
Appleは2020年、MacのアーキテクチャにApple Siliconを採用し、iOS・iPadOS・macOSの動くハードウェアを自社開発のプロセッサに統合した。Mac用のグラフィックスAPI「Metal」もこれに対応しており、昨年発表された「Metal 3」はApple Seliconへの対応力を向上、これに対応する形でカプコンがMac版『バイオハザード ヴィレッジ』を発売するなど、AppleはMacのグラフィックス能力を積極的にアピールしている。
Appleが仮にVRデバイスを発表する場合、これがApple Siliconを搭載していることは確実だろう。NVIDIAやAMDなどのグラフィックチップに頼らず、スタンドアローンなアーキテクチャのVRデバイスを制作し、これがMac・iPhone・iPadと連携してVR体験を提供するならば、これは非常に快適な体験となるだろう。そしてこれは既存のPC(つまりWindows)と接続して使うVRデバイスでは実現できないものだ。Appleはこのユニークさを武器にして、2017年のリベンジを掲げるのかもしれない。
(画像=Apple『WWDC 2017』当時のプレゼンテーションより)