恋愛リアリティ番組は「中年・シニアが主役の時代」に突入か Netflix『あいの里』の“キラキラしない恋愛”を伝えた功績

Netflix『あいの里』の功績

 Netflixの恋愛リアリティ番組『あいの里』が、5月30日にフィナーレを迎えた。35歳から60歳の男女が、自給自足で古民家での共同生活を送り「人生最後の恋」を探す。またたく間に人気を集め、配信中はNetflixの視聴数ランキングにも入り続けた。「キラキラしていない恋リア」として話題を呼び、恋愛リアリティ番組でありながら、若者だけではなく、出演メンバーと年齢の近い中年〜シニア層の視聴者も集めた。

 数ある恋愛リアリティの中で、『あいの里』がここまで話題となった理由には、同番組がここ数年の恋愛リアリティ番組の定番を打ち壊し、ヒューマンドラマとして視聴者に受け入れてもらうための仕組みがあった。

「重みあるバッググラウンド」を語ったシニアメンバーたちの功績

 これまでの恋愛リアリティ番組といえば、出演者は恋愛アクティブ層とも言える20代〜30代前半までの若者が中心だった。しかし平成のリアリティ番組は、テーマに「恋愛」を冠してしまったことで、視聴者が若年層に狭まっていってしまった。「恋愛は若者の特権」というイメージから、出演者も若者がお決まりだったわけだが、時代は変わり3組に1組が離婚を経験する時代。晩婚化も進み、未婚の中年も増えた。そんな現代のリアルを模倣するべく、『あいの里』のメンバーは35〜60歳という、これまでにない年齢層でメンバーが集められたわけだ。

 ほか配信サービスでも“離婚歴のある男女”を集めたリアリティ番組もあったが、『あいの里』はあえてそこにこだわらない。人生経験も恋愛遍歴も様々な男女が集まり、生活や恋愛を通してそれぞれのバッググラウンドが語られた。番組前半では、バイタリティと行動力のある若者カップルが早々にゴールを決めていったが、結果的に盛り上がりを見せたのは、中盤以降にエンジンがかかった中年〜シニア層の恋愛だ。

 若者メンバーの恋愛にも、熱さや青さといった見応えはあったが、人生の後半に差し掛かるシニアたちの恋愛には、若者にはない重みを感じた視聴者も多かったようだ。結婚歴のあるメンバーたちには、離婚理由や現在の家庭事情などそれぞれの複雑さがあり、MC陣からも「ただ好きなだけで恋ができないもどかしさを感じた」との意見があがった。

 結果的にシニアメンバーの恋愛は、時にお互いに化かし合いながら駆け引きを楽しむ若者の恋愛模様とはまた違った感動を与えた。結婚、出産、子育て、そして離婚……長い人生を振り返りながら「余生を共に添い遂げられる恋を探す」というテーマ性は、『あいの里』が恋愛リアリティ番組としてだけでなく、ヒューマンドラマとして受け入れられた大きな要因だろう。さらに老後の介護や資産問題といった、お互いの人生の終焉までを見据えた現実性のある発言は、リアリティ番組に期待される「リアルな恋愛」として映ったようだ。

元祖『あいのり』制作陣の粋な編集による優しいリアリティ

 『あいの里』を手掛けたのは、日本の恋愛リアリティ番組の元祖とも言える『あいのり』制作陣。ここ数年の恋愛リアリティ番組と言えば、生活の覗き見感や視聴者それぞれの感想の多様性が重視され、ナレーションや過度な編集は控えられたものが多かった。しかし、あいの里はもともと地上波テレビで放映されていた『あいのり』にならい、ナレーションや適切なツッコミの入った編集がVTRに挿入されていた。

 恋愛リアリティといえば、出演者に対する過度なアンチが心配されることも多々ある。しかし、MC陣からだけでなくナレーションからもツッコミが入ることで、考察によるアンチコメントも抑えられた。編集が入ることで、リアリティ番組としての色合いは薄くなるようにも思えるが、出演者たちの多様な人間らしさがそこをカバーした。

 メンバーの中には、恋愛リアリティではお決まりのツッコミどころの多い「おとぼけキャラ」もいたが、番組内ですでにしっかりツッコまれていたおかげで、行き過ぎたアンチがつくこともなかった。

 ここ数年のリアリティ番組は、SNSなどを利用して考察や感想の意見交換をすることが定番の楽しみ方となっている。しかし、行き過ぎた恋愛考察や出演者へのアンチを冷めた目線で見ている層も存在し、その事実が視聴者層を狭めていた側面もある。SNSには恋愛模様を考察する声よりも「予想以上に泣ける」など意外性のある意見が目立ち、その発信が新しい視聴者層を呼ぶことに繋がったといえるだろう。メンバーの人間性を活かした温かみを感じる編集は、結果的に既存の恋愛リアリティファン以外の視聴者からも評価された。

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