にじさんじ・朝日南アカネの卒業に寄せてーー不器用で、旅が好きで、どこまでもファンに真摯だった彼女の足跡を記す
ショート動画や先輩ライバーとのコラボが話題に Nornisメンバーとしても活躍
3D酔いしやすい体質も災いし、2021年以降はゲーム実況をほとんど行っておらず、ゲーム配信をする際には自分のペースでもできるゆったりとしたゲームを選んでいた。
それゆえに、彼女の活動はゲームを使った生配信ではなく、それ以外の歌動画・ショート動画などがメインコンテンツとなっていった。
そもそも朝日南アカネはデビュー当初から、「ホラゲでビビった朝日南アカネは何メートル飛ぶことができるか?」「二人羽織で同期・北小路ヒスイとゲ一ムをしたら上手くプレイできるか?」といった、想像の斜め上をいく企画を口にしたり、突如としてお面を工作したりするようなタイプだった。
そんな意外性・とびぬけたアイデアをもった彼女に目を付けたのは、同じ事務所の先輩であるグウェル・オス・ガールだ。2021年7月21日に初めての共演動画を投稿して以降、さまざまな動画で共演。動画は主にグウェルのチャンネルで投稿されており、意外なほどにバラエティ向きなキャラクターを見せていた。
また、朝日南アカネはYouTubeだけでなくTikTokにも多くの動画を投稿しており、TikTok限定の動画も多数あった。進撃の巨人を使った小ネタ動画、「おバズり申し上げます」がフックとなった虎韻「2022」を使った動画など、TikTokを通じて薄々と滲み出る奇抜な一面を感じ取ることができた。
そんなユーモア溢れるノリ・TikTokの文化に感化されてか、2022年1月18日に投稿された「『神っぽいな』ハモリに合わせて一緒に歌って?」を皮切りに、彼女のチャンネルでは歌のshort動画が多数投稿されることになる。
それも、スタンダードな「歌ってみた」ではなく「一緒に歌おう」動画ともいえる内容で、朝日南が複数人出てきてハモりながら歌うもの、自身はハモリパート(副旋律)を歌って見ている視聴者に主旋律(メインメロディ)を歌わせようとするもの、1人でいくつものキーを歌うものなど様々。
すこし挑戦的な企画内容が受け、100万以上の再生回数を誇るバズを起こすこともあり、そうしたコンテンツが彼女のボーカルセンスをより広める一助になったのは言うまでもない。
「歌を去年(2019年)突然始めたことで、今は好きですけど、元々は歌うことは苦手であった。」
「いろいろあって歌を始めたんですけど、歌い方講座などをやりながら、自分の成長を見せていければと思います!」
この発言は、朝日南アカネの初配信でのことだ。
その後、彼女はshort動画で歌を歌おうと促すような動画を制作していくことになるが、これは彼女が初配信時に立てていた目標を形にしたものだと気付くはずだ。
さて、このときの朝日南の言葉を全うに受け取ってみると、彼女が歌に力を入れ始めてからまだ3年と少ししか経っていなかったことになる。
クリーンな声をまっすぐに歌い上げていく朝日南アカネのボーカルスタイルは、混じり気のない純真無垢なヒロインを思わせ、さまざまなタイプな楽曲を歌っていく表現力もあった。クリーンで純真さあるイメージから、さまざまに変化する歌声とのあいだに大きなブレを感じて彼女にハマってしまった、そんなファンは多かったはずだ。
Nornisでは戌亥とこ、町田ちまと共に活動し、よりその魅力を発揮していた。細く柔らかな声質の町田ちま、スモーキーで低めのトーンが強い戌亥とこ、その2人のあいだを繋ぐような歌声は、先輩2人にも負けない強い個性を持っていた。
そんな朝日南アカネのボーカルを存分に楽しむのには、オリジナル楽曲がふさわしいだろう。2021年12月15日、自身の誕生日にリリースした「カナリア」と、Nornisそれぞれのソロ楽曲としてリリースされた「Unchained」の2曲だ。
一音に一語ずつしっかりと唄い、濁りの少ないクリーンな歌声で憂いを表現するボーカル。「何者」かを捉え切れていない焦りや悲しみ、不器用に生きている自分の拙さを抱えながら、それでも生きていくのだと強かに声をあげる。
澄んだ美しい声でさえずることで知られるカナリアを自身にかさね、どんな時でも音楽や歌を歌うことを忘れないというメッセージを彼女はここで記したのだ。
自身の3Dお披露目ライブを「カナリア」と冠したことからも、そのイメージを一貫していたのが分かる。
ソロ2曲目となった「Unchained」は、彼女にとってのチャレンジな1曲。
SixTONES、King & Prince、NiziU、TWICEといったアイドル~ボーイズ/ガールズバンドの楽曲で作詞・作曲を務めるMayu Wakisakaが、この楽曲のメインコンポーザーとして楽曲を制作した。
このことからも分かるように、「ボーカルユニット」として歌声に対するイメージが強いNornisのソロでありつつ、ダンスポップな1曲となった。J-POPにボカロP、ロックバンドも好きな彼女にとって、K-POPへの愛情もひと際に強く、そちらを意識したソロ曲となったのだ。
先にも話したように、国内・海外旅行を楽しむことの多かった彼女にとって、こういったグローバルなポップ・ミュージックを歌えることは一つの喜びだったはずだ。
にじさんじ新ユニット「Nornis」インタビュー 町田ちま&戌亥とこ&朝日南アカネに聞く、それぞれの“歌”と関係性
Rain DropsやChroNoiR、ROF-MAOなど、ユニットでの楽曲リリースが活発なにじさんじから、このたび新たなユニッ…
Nornisがデビューした際、筆者はRealSoundにて3人にインタビューし、朝日南アカネからも彼女と歌の関係性について話を聞く機会があった。
このインタビューから「メンタルコーチ・戌亥とこ」が始まり、「知性担当・町田ちま」「愛嬌担当・朝日南アカネ」が生まれ、ついにはライブグッズ化にまで至ったのは非常に思い出深い。
こういった経緯もあり、筆者としても彼女の卒業は非常に寂しい気持ちになったのが正直なところだ。
彼女の配信や言葉からそういった節を感じることが一切無かったこと、Nornisとしてのライブを完遂して「さぁ、これから」といったタイミングであったこと、さまざまな状況からみても「そんなまさか」というようなニュースで、深く強い衝撃をうけた。
彼女はロックバンドが好きであり、歌配信やお披露目配信でも「邦楽ロック」にフォーカスを置いた選曲をしていたことも、ロック好きな筆者がシンパシーを感じた一因なのだが、2020年のコロナ禍直前に開催された『BLARE FESTIVAL』におけるcoldrain・MASATOのMCは、朝日南アカネを愛してきた人の心にいま刺さるかもしれない。
いまは朝日南アカネが残した足跡を思い出しながら、彼女のようにまた自身も強く一歩を踏みしめて生きていく。そんな風に日々を過ごしてみようと思う。