テレビとSNSで“ギスギスしない笑い”を広く届けるためにーー『有吉の壁』など手がける橋本和明 × 伊吹が語り合う「飽くなき探究心」

 『有吉の壁』(日本テレビ系)や『マツコ会議』などを手掛ける橋本和明氏が、2022年末に日本テレビを退社し、2023年には自身の会社「WOKASHI」を立ち上げ、Netflixで『名アシスト有吉』を手がけたことも話題となっている。

 そんな橋本がこの春、「株式会社 QREATION」への参画を発表した。同社は橋本の日テレ時代の後輩である米永圭佑氏が立ち上げ、SNSフォロワー230万人超えのZ世代クリエイター・伊吹が取締役として所属する会社だ。

 テレビマンとして長年活躍してきた橋本が、なぜこのタイミングでSNSを主戦場とする伊吹たちと組んで新たなコンテンツ作りを行うようになったのか。そして、二人が考える“いまのコンテンツに求められるもの”とは。過激な表現が衆目を集めやすくなった近年の“作り手に問われるスタンス”についての話は、あらゆるクリエイター・メディアに響くメッセージとなっているはずだ。(中村拓海)

QREATIONに入った理由は“あの”韓国ドラマ?

橋本和明

――まずは、橋本さんが日本テレビを退職してQREATIONに参画した理由を教えてください。

橋本和明(以下、橋本):大前提として、日本テレビはいまも大好きな会社なので、何かが嫌になってやめたわけじゃないんです。ただ、昨年(2022年)『Z STUDIO ひまつぶ荘』でSNSクリエイターの方と番組を制作した時に、ふと「テレビってどういうメディアになっていくんだろう?」と思ったんです。マスメディアのあり方も、そこでディレクターがやることも、時代によって変わってくる。SNSとも連携していろいろなクリエイティブができる人にならないと、10年後に生き残っていられないなって。

――なるほど。それで新しい世界に。

橋本:44歳って体力も気力も残っていて、ギリギリ新しいことを始められる年齢だと思うんです。だから、「外の世界を見るならいまだ!」と日本テレビにわがままを言って武者修行に出してもらいました。

 それに、僕の行動が将来の後輩テレビマンのためになったら……という気持ちもあって。偉大だなと思う先輩は佐久間(宣行/元テレビ東京・現在はフリーのテレビプロデューサー)さんなんですが、『オールナイトニッポン0(zero)』のパーソナリティーなんて、さすがに僕らにはできないですから(笑)。でも、佐久間さんとは違う道として「裏方として新しい時代を切り開く人」になりたいという気持ちは持っています。退職しても日テレと様々な形で連携させていただいていて、後輩からは“辞めたのに日本テレビによく出入りしてるおじさん”だと思われているでしょうね(笑)。

――橋本さんはそこから、個人会社『WOKASHI』を立ち上げられました。

橋本:いとをかしの“をかし”を取って名付けたんです。趣あって面白いものをたくさん作り出していきたいなという思いを込めて。ただ、日テレが家族的な会社だっただけに、孤独を感じる日々で……。そんな時、韓国ドラマの『梨泰院クラス』にどハマりしてたのを思い出して。若者が起業に取り組む姿に、「こんな青春うらやましいな」「いまの若者って、こんなにキラキラしているんだ」と魅了されました(笑)。「自分もそんなことしてみたいな」とおじさんなのに図々しく思っていて。そんな時にQREATIONができたので、あっさり参画を決めました。チームでしかできないことをここならやれるだろうと。

伊吹:本当に、橋本さんに入ってもらってよかったです。

橋本:取締役(伊吹)の顔色をうかがいながらやってます(笑)。

伊吹:いやいや(笑)!

橋本:うそうそ、自由にやらせてもらってますよ。

伊吹(伊吹とよへ)、橋本和明

求めるものは、“ギスギスしない笑い”

――テレビの世界で活躍されてきた橋本さんから見て、WEBコンテンツというのはどのように映っているのでしょうか。

橋本:驚かされることばかりです。「あえてカメラを傾けて臨場感を出して撮るんだ!」とか、流派がまったく違うんで。リアルへの感覚が鋭いんですよね。TikTok作ったら絶対に伊吹くんに負けるんですよ。自分の感性が若いと勘違いしているおじさんは多分面倒くさいんで、そうはなりたくないですね(笑)。でも一方で自分しかできない武器もあると思っていて。どういうフレームで企画を見せていくかとか、やったことない仕掛けを作るとか。だから、TikTokクリエイターのみなさんの能力をどう引き出して面白くできるかが、自分の役目だと思っています。

――伊吹さんから見た橋本さんの印象はいかがですか?

伊吹:橋本さんとお話しさせていただいた時にうれしかったのが、僕らの仕事をリスペクトしてくださったことです。やっぱり年代が上の方だと、頭ごなしに言われたり、実績をもとに強く当たってくる人もいるんです。でも、橋本さんは年下の僕にも、「これってどう思う?」とフランクに聞いてくださって。本当に、一人ひとりの能力を大事にしようとしてくれているんだなというのが伝わってきました。主戦場はちがえど、クリエイティブという点で議論できるポイントはたくさんありますしね。

伊吹(伊吹とよへ)

橋本:僕たちの根底には、飽くなき好奇心があるんですよ。再生回数や視聴率が気になるのは、「なんでこんなに人が映像を見るのか?」を探求したいから。逆に、そこにしか2人とも興味がないのかも(笑)。

――「なんでこんなに人が映像を見るのか?」を追求している二人だからこそ、違ったジャンル・世代を出自としていても、お互いをリスペクトして同じ方を向けるんですね。お二人がともに“普遍的”なものを作りたいと思っている、ポップな作り手としてのスタンスも共通しているのかなと思いました。

橋本:その言葉はすごくありがたいですね。たしかに、僕は伊吹くんの笑いをとって周りを幸せにするコンテンツがすごく好きなんです。最近はやっぱり、“ギスギスしたものが勝つ”という風潮もあって。芸能人の方が不幸になったとか、嫌な一面があるということをことさら強調して取り上げて視聴率や再生回数を稼ぐやり方もあるし、それはそれで作り手の考え方もあるとは思うのですが、僕がいた日本テレビのゴールデン(タイム)はそれを良しとしないところがあって。『有吉の壁』に出てくださる芸人さんも、『マツコ会議』でマツコさんとお話されるゲストの方々も、「出てよかった」と言ってくださる環境を作ることに気をつけていて、それは作り手としてすごく幸せなことだったんだと思います。僕はそこを曲げてまで戦いたいと思わないし、そこを曲げないと勝てないのなら、その時点で負けだと思ってますね。

伊吹:僕も、まったく同じ考えです。SNSでも「炎上系」というのがひとつのジャンルになってしまっているじゃないですか。そこに乗っかるメディアも多い気がしますが、僕はやっぱり明るいニュースが多い方が嬉しいなと思います。

橋本:ネットニュースで誰かを“叩く”ような批判ばかりの記事が並んでいると、心が荒みますよね。あることないこと言われて、当事者だったらいたたまれないなと思うことばかり。でも、それがビュー数を取れてしまう。配信コンテンツには人間の人を妬む気持ちに直接的に訴えかけるようなものも数多くあるので、この先はすごく大変な戦いになると思っています。

伊吹:僕が生まれたころは、まだそういう文化が当たり前じゃなかったんです。でも、いまの小中学生たちは、そういう社会を背景に育ってしまっている子もいると思います。SNSのトレンドがそうなっているから、仕方ないこともあるのかもしれないけど、僕らは見てくださるみんなが前向きになれるような発信をしていきたいと思っています。

橋本:だからこそ、僕らは誰かの嫌な一面を拡張して勝つことはしないし、僕と伊吹くんがいるQREATIONなら、そういうことをしないコンテンツで大きくなっていけると思っています。

橋本和明

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