『串カツ田中』がTikTokで“Z世代の来店”を急増させた理由とは? キーパーソンが語り合う「成功の秘訣」

『串カツ田中』のTikTokがZ世代に刺さった理由

 Z世代向けのマーケティングに、TikTokが使用される例は少なくない。

 しかし、その施策が必ず成功しているのか?といった点を突き詰めていくと、“やって終わり”といったケースも散見される。そんななかで、Z世代をターゲットとしたブランディング・マーケティング支援を行う株式会社bienoが串カツ専門店『串カツ田中』とおこなった、『串カツ田中』のZ世代に対する認知拡大・来店促進を目的としたプロジェクトの成功が興味深かった。

 今回、動画の「いいね数」や「コメント数」は、直近の同業他社の施策の約30倍、『串カツバケツ』の売上は204%にアップする結果となるなど、プラットフォーム上だけでなく、実際の購買行動につなげているこの好例について、株式会社串カツ田中取締役営業本部長である織田辰矢氏と、クリエイター・プロデューサーの伊吹氏、株式会社bienoの代表取締役である奥原ゆきの氏を取材。企業側、クリエイター側、マーケッター側が考える“成功の秘訣”を聞いた。

『串カツ田中』×TikTok 異例の施策が成功した理由

左から、クリエイター・プロデューサーの伊吹氏、株式会社串カツ田中取締役営業本部長 織田辰矢氏、株式会社bienoの代表取締役 奥原ゆきの氏。

ーーまずは、Z世代向けのアプローチをしようと思ったきっかけを教えてください。

織田辰矢(以下、織田):『串カツ田中』は大衆居酒屋なので、来てくださるお客様は、やはりサラリーマンの方が多いんです。他方で『串カツ田中』ならではの強みとしては、親御さんが、小さいお子さまを連れて来てくださることがあるなど、ファミリー層にもリーチしているところ。ただ、若年層のなかでの認知度がとにかく低かった。

ーーそれは、アンケートなどの結果から?

織田:そうです。でも、アンケートで「若年層の来店満足度」の項目はすごく高かったんですよね。ということは、知ってさえもらえたら、リピートをしていただける可能性があるということ。伸びしろがあるんじゃないかと思い、この層へいかにアプローチするかというところに目をつけました。

株式会社串カツ田中 取締役営業本部長 織田辰矢氏

ーー数あるSNSのなかで、TikTokを選んだ理由というのは。

織田:強みを伸ばしつつ、認知をしてもらう。そう考えた時に、若者のムーブメントの軸となっているメディア、TikTokがまず思い浮かびました。これまでもYouTubeなどを使ったアプローチをしており、再生数など一定数の成果は出ていたのですが、それが若年層の来店につながっているかどうかといったところについては、確証が得られていない状況でした。そのため、TikTokを通して、あらためて魅力を伝えていくべきだと考えたのです。

ーーYouTubeなどにも挑戦したうえで、TikTokというプラットフォームを選択するに至ったのですね。

織田:ただ、僕も含めて、役員たちは“TikTokでバズる”という感覚も、なかなかピンと来なかったんですよね。最初は、未知の世界でありすぎるが故に、アクションを起こすことにブレーキをかけていた部分もありました。そんな時に、会長からbienoさんを紹介していただいて。「ドカンとバズらせて終わりじゃなくて、その先のブームを作る」と言い切ってくださったので、率直にワクワクしたんです。

株式会社bieno 代表取締役 奥原ゆきの氏

ーー『串カツ田中』さんのお話を聞いた時、奥原さんはいかがでしたか?

奥原ゆきの(以下、奥原):最初は、企業のプロモーションとして鉄板になっている「オリジナルダンス」の動画を作る方向だったんですよね。

織田:そうでした。

奥原:しかし、オリジナルダンスを作ったとしても、それがバズや若者の来店につながるか、といった部分については疑問がありました。実際、Z世代が『串カツ田中』のどこに魅力を感じるのかを弊社のネットワークを使って調査したところ、美味しさはもちろんですが「空間が楽しい」という声が多かったんです。だから、ダンスではなく“楽しい”にフォーカスを当てていこうということになり、そこからは伊吹さんがクリエイター・プロデューサーとして、『串カツ田中』さんならではの魅力をうまく引き出してくださいました。

クリエイター・プロデューサーの伊吹氏

ーー伊吹さんは、今回の施策が成功した要因はどこにあると思われますか?

伊吹:TikTokの施策って、バズらせなきゃ、新しいことをしなきゃというところばかりに目をやってしまうと思うんです。でも、新しいものを無理して作るのではなく、いま『串カツ田中』さんのなかにあるものを、魅力的に見せるお手伝いをしていく。いい意味でも“作り込まなかった”ところが、成功につながったと思っています。

織田:「新しいものを作るには」ということは、弊社としてもずっと考えていたのですが、それが具体的なアイデアに繋がらなかったので、最初に「僕たちが流行らせたいと思うものは、若者には刺さらない」とハッキリ言っていただいたのは、個人的にもすごくスッキリしました。

伊吹:だって、『串カツ田中』さんには、そもそも面白いものがたくさんあるんですよ。テキーラ金魚(※弁当の醤油さしでおなじみの魚型容器にテキーラを入れたもの)だとか、チンチロリン(※サイコロを振って、出た目の数によって価格・サイズが変わる名物ドリンク)だとか。「絶対に若者に刺さる!」と思えるものが存在してくれた。だから、作り込む必要がないと思えたんです。

ーー企業さんからの依頼で、ここまで自由にできるのはなかなか珍しいのでは?

奥原:だと思います。とくに、お話をいただいた時って、クリエイターに自由度がある形を企業さんがまだ認めてくれない時期でもあったんですよ。堅苦しい台本があって……という形での依頼が多かった。でも、クリエイター目線から言うと、自由に作れない時点でクリエイティブではないんですね。『串カツ田中』さん側も、最初は「チンチロリンは絶対に使って」とおっしゃっていましたが、だんだんと「クリエイターさんの目線で考えると、もっと面白いものがあるかもしれない」と身を委ねてくださるようになり。

伊吹:僕たちも最初は、新メニュー開発などしていましたもんね(笑)。途中で、「これは違うね」と気づいて、ボツになった施策もたくさんあります。実際にプロジェクトが始動してから何度もお店に通い、試行錯誤することで、やれること・やりたいことを厳選していくことができました。ミーティングで、「それいいじゃん!」と大笑いして盛り上がる施策は失敗して、「ふふ」くらいのものがバズる傾向もありますしね。

ーー内輪ネタ的なものや、社内では当たり前のことだけど一般の方はあまり知らない内容が入りすぎると、とっつきにくくなるから、ということなのでしょうか。

奥原:そうかもしれませんね。今回はそういったことを回避しつつ、何をやるべきかを考えるにあたって、実際に店舗へ足を運んで調査を続けました。その結果、「接客が良かった」という声が多かったので、「店員さんとの絡みを入れてみましょうか」という話になったりしました。

伊吹:そうなんです。その結果、店員さんがめちゃくちゃバズってましたよね! 店長さんとお話した時に、「僕目当てで来てくれるお客さんがいました」と聞いた時は、うれしかったな。ちょっと、こちらが嫉妬するくらい(笑)。

奥原:コメントのなかにも、「この店員さんに会いに行きたい!」「この店舗に行ってみたい!」という反応が多くて驚きました。ある種の“聖地巡礼”のようなムーブメントまで起こっていて。『串カツ田中』さんが自由にやらせてくださりつつも、現場の状況を詳しく教えてくれたおかげだと思っています。制限がある自由の方が、やりやすいですし。

織田:僕らからしたら、こんなにやってくれるの? と思っていました。

伊吹:これくらい動くクリエイターは、なかなかいないですよ!(笑)

奥原:自分で褒めてる(笑)。でも、ここまで内側に入り込んでくれるクリエイターさんは、本当になかなかいないですよね。

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