連載:作り方の作り方(第一回)

「『メガネびいき』は聞き逃してもいい」放送作家・白武ときお×『TBSラジオ』宮嵜守史が語る“新しいエンタメの形”

これからのエンタメに求められること

白武:TBSラジオやニッポン放送のような放送局と、あとは「GERA」や「Stand.fm」などのラジオアプリもあるし、YouTubeでラジオをやっている人もいて、芸人さんでいえば、いまやラジオをやっていない人が見当たらないくらいになりましたよね。

宮嵜:そうだね。どれも気になるけど時間は限られているから、消化不良みたいになって、もはやストレスを感じてしまうときすらある。摂取することに義務感みたいなものが芽生えてしまって。

 僕の立場としては、エンタメを楽しみにしている人たちが強迫観念にとらわれないコンテンツをどうにか作れないかな、とは思うよね。コンテンツ自体というよりは、どこに置くかとか、どのようにアナウンスするかだとは思うんだけど。

白武:実際、僕は高校時代にPodcastがあったおかげで『メガネびいき』『バナナムーン』を聞いてラジオに夢中になれました。すでにできあがったノリとかワードとか、概念にアーカイブがあったから追いつけた。

宮嵜:そうだよね。だから今後のエンタメはアーカイブ勝負になっていくと思う。僕も性格的に、面白いと思ったものはコレクションしていたいというか、最初から順を追っていきたいタイプなんだよね。いまは『マユリカのうなげろりん!!』(ラジオ関西)を後追いしているところ。

白武:『うなげろりん!!』は面白すぎますよね。1回も聴き逃したくないなって思います。一方で、『メガネびいき』は大好きなんですけど、聴き逃してもいいかなと思える空気がありますね。

 僕が一番長い期間聴いているラジオが『メガネびいき』なんですけど、ずっと聴き続けていられるのは、本でも書かれてましたけど「ラジオのためにエピソードをつくる作業をしない」、自然体の面白さだからなのかもしれないですね。何もないのに面白いっていう一番難しいことをやっている気がします。

宮嵜:これだけ音声コンテンツが増えたからこそ、『メガネびいき』の良さが際立っているのかもしれないね。さっき言った強迫観念の少なさでいえば、理想的なポジションにいるのかも。

 音声コンテンツがこれだけ飽和状態になっている中で、ラジオの生放送は"そのときに生でしゃべっていればいい”みたいな存在になっていくんじゃないかな。

白武:テレビでいえば、スポーツの世界的な大会や『M-1グランプリ』のようにお祭り的で、何が起こるかわからない面白いものはリアルタイムで観ますけど、それ以外は録画で見てしまいますね。

宮嵜:そうだよね。

白武:宮嵜さんは、まだ新しい音声コンテンツの形は出てくると思いますか?

宮嵜:YouTubeで人気の動画って、テレビ的な手法を倣っているものもあるけど、それまでの映像コンテンツの常識を覆したところがあったじゃない。

 内容を絞って、テンポ良く、間(ま)がいっさいなくて。できるだけ効率良くコンテンツに触れたい人が多くなったから、そういう編集方法が生み出されたのだと思うんだけど、昔からやってきたテレビ関係者が観たら、最初は「なんだこの低いクオリティの編集は」と思ったはず。でもそれは結局、過去にやってきた人の感覚でしかないわけで。だから音声コンテンツも、もしかしたらそういう新しい形が生まれるのかもしれないとは思うよね。

白武:そうですね。Spotifyの『聴漫才』とか、『又吉直樹の芸人と出囃子』とか、Podcastだからこそできる内容やターゲットや企画の狭さがあるなと思います。

宮嵜:TBSラジオで、30分工具のことだけを話す『工具大好き』って番組が半年くらい前に始まったんだけど、「まさにこういうのじゃん!」と思ったんだよね。

 たとえばカメラのレンズが欲しいときに、型番をYouTubeの検索窓に入れると、レビュー動画が出てくるじゃない。Podcastもそうやって細かく検索できるようになったら、音声コンテンツにまた違う価値が生まれるのかもしれないね。

 地上波のラジオはタイムテーブルがあるから放送時間の意識が強いし、マスコミだからどうしてもターゲットを広く設定するけど、Podcastであれば聴きたい人が聴くだけだから、狭くていい。むしろ、狭ければ狭いほどいい。聴く人の分母は小さくても、その分母の中でやっていけるのであれば、これからの時代はそういうのが増えてもいいと思う。

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