連載:作り方の作り方(第一回)
「『メガネびいき』は聞き逃してもいい」放送作家・白武ときお×『TBSラジオ』宮嵜守史が語る“新しいエンタメの形”
「昔はこうだった」を若い世代に強いてはいけない
白武:本の中では、宮嵜さんが怖い人だった時期、おそらくバリバリとディレクターをされていた時期のことが書かれているじゃないですか。でも僕からすれば、宮嵜さんは本当に優しいイメージしかないんです。
宮嵜:そう感じるのは、チームを組んだことがないからかもしれない。一緒に組んだ人に対しては相当厳しくしていたと自分でも思うから。だから本を書くことになったときは、求められていないかもしれないけど、僕とよくコンビを組んだ廣重くんと越崎くんにまず懺悔をしたい気持ちがすごくあった。
かつてひどい仕打ちを受けたとか、逆に仕打ちをしたことに心当たりがある人って、必ずいると思うんだよ。でも、仕打ちを受けたことを本に書くのはちょっと違うなと思ったから、してしまったことの懺悔を書こうと思って。
白武:僕が放送作家の活動を始めたのは2013年くらいなんですけど、そのころはすでにメディア業界のハラスメントに対する意識が高まっていたので、必要以上に厳しくされた記憶はないんです。でも、やっぱり厳しい環境下で育った人たちのタフさとかは感じるんですよ。
宮嵜:自分が厳しい状況下で過ごした結果タフになったからといって、その厳しさをこれからの世代に強いていいかといえば、それは違うから。そのことをストレートに言わないにしても、自分たちがアップデートしていかなきゃならないと思うんだよね。
白武:厳しい環境下の影響なのかは分からないですけど、越崎さんは一緒に番組を作っているときに、すごく衝撃を受けて。
真空ジェシカのふたりはめちゃくちゃ面白いんですけど、初見の人にわからない話が多いんです。「まーごめ」とか「さすがにラビー」といった、ファン以外がわからない言葉をできるだけ使わせないようにして、多くの人に楽しんでもらえるように越崎さんがディレクションしていく。ある時、ふたりが話すことなくて、あんまり調子が良くなかったときに、僕だったら「まあ話すことないならしょうがないですよね。こんな日もありますよね」って思うんですけど、越崎さんには収録の途中で止めて「ちょっとこれじゃ流せないから、もう1回撮り直そう」って言うんですよね。
その瞬間が気まずくなっても「良くない時は良くない」って向き合おうとする。ラジオで流す番組としての価値を考えているからこそ、厳しく判断できる。そういう意識とかイズムが宮嵜さんや、TBSラジオが脈々と受け継いでいるものなのかなと勝手に思ってました。
宮嵜:それは越崎くんがすごいと思うよ。別に僕は「しょうもないトークだったら止めて録り直したほうがいい」なんて教えたことないもん。きっと僕だけじゃなくいろんなディレクターと組んでいるうちに、最適解みたいなものを得たんだと思う。彼が担当している『爆笑問題カーボーイ』や『空気階段の踊り場』を聴いていても、僕は全然敵わないなと感じるから。
白武:そういう気持ちもあったからプロデューサー業に専念しようと思ったのかもしれませんけど、宮嵜さん自身はまだディレクターをバリバリ続けたい気持ちもありましたか?
宮嵜:うん。「プロデューサーなんて、なんで自分がやらなきゃいけないんだ」と思ってた(笑)。「この番組のディレクションをできるのは自分しかいない」みたいな自信過剰なところもあったから、プロデューサーという肩書きになってからも、けっこう番組に口を出した。いま振り返ってみると、嫌なプロデューサーだっただろうなと思うよ。
でもそれから、自分はいつまでここに居座るんだろうと考えたら、一気に引かなきゃと思った。年を重ねて自分のことを客観的に見られるようになってきたのもあるけど、やっぱり若い世代の圧倒的な才能を目の当たりにしたことは大きいと思う。
なぜ複数のフィールドでエンタメを作るのか
宮嵜:白武くんは、なぜラジオの放送作家をやりたいと思ったの?
白武:『放送室』で高須光聖さんの存在を知り、放送作家という職業を知ったのが始まりです。ラジオで言うとオークラさんや鈴木工務店さんには凄く憧れましたね。裏方で演者と近い距離で一緒に面白いものを作れたら楽しいだろうなって。でも実際にラジオの作家をやっていくと楽しんですが、僕はラジオを面白くする能力がまだまだ足りないですね。ラジオはめっちゃ聞くけど、やるなら映像のほうが得意な感覚があります。
宮嵜:そうか。いまはテレビとかYouTubeもやってるじゃない。白武くんの視点でそれらとラジオは具体的にどう違うと思った?
白武:以前は「深夜の芸人さんのラジオだったら絶対にやりたい!」と思ってましたけど、いまは「簡単には引き受けられない」と思ってます。ラジオは、担当することの覚悟が違う感覚がありますね。パーソナリティの面白さを深く理解できていないと、番組のためにも担当しないほうがいいなと。読んできた漫画とかゲームとか、共通言語がどれくらいあるかとかも大事だと思って、他に適任の人がいたら紹介しますね。いっぱいラジオやってる人は本当にすごいです。
学生の頃、芸人さんの単独ライブの幕間映像が好きで。内輪ノリとか、共通言語がある状態の人に向けたもの。YouTubeとかはそれに近いところがあって好きです。お笑いライブもやったりするんですけど、配信での売上も立つようになったので、ずいぶんやりやすくなりましたね。
宮嵜:なるほどね。
白武:あとは僕、ひとつのことをやり続けるのが苦手なんです。同じフィールドでずっとやり続けることに憧れながらも、職人的に積み上げていくようなことができてないですね。
宮嵜:いろいろできるのもすごいと思うけどね。白武くんは実行力がすごいから。あの人とこの人を組み合わせたら面白いだろう、というところまで考えられる人は多いと思うんだけど、実際に交渉して本人たちと一緒に作り上げられる。そこのバイタリティが圧倒的に違うと思うんだよね。
白武:でも宮嵜さんも、ヒコロヒーさんの『岩場の女』とか『矢作とアイクの英会話』とか、YouTubeコンテンツも作られているじゃないですか。バイタリティ!
宮嵜:そんなに褒め合わなくてもいいけど(笑)。JUNKの現場を若手に任せると決めたけど、やっぱりどこかでなにかを作っていたい気持ちが抑えられなくて、YouTubeをやっているところがあるかな。
白武:僕は、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』(日本テレビ)の作家に運よくなれて、高校の頃に夢見た作家ライフとしては上出来!って思ってたんですけど、ある時ダウンタウンさんと高須さん、バナナマンさんとオークラさんみたいに、自分の同世代の面白い人たちと一緒にシーンを作っていけたらさらに面白くなるかもしれないと思って。すでにある凄い番組にも参加させてもらいつつ、学ばせてもらったことで自分もそういう番組を作ることを目指そうと。それが26歳くらいのときで、同世代の芸人さんに声をかけて、YouTubeを始めていきましたね。
宮嵜:20代でそこまで考えられるなんてすごいな。白武くんは、どんな目標を持っているの?
白武:コアとマス、どっちにも面白いと思われるものを作りたいです。たとえば漫画の『HUNTER×HUNTER』は、子どもが読んでも面白いし、目の肥えたコアな漫画好きでもベストにあげるような作品。そういうものを目指したいですね。
個人のクリエイター単位でいうと、糸井重里さんや小山薫堂さんは、自分の主戦場以外でもヒットを出していて凄いなあと。僕もそんなふうになれたら最高だなと思います。人生をかけてひとつでも“世界の人が知っているもの”を作れるよう頑張りたいですね。日々、レベル上げです。