『Spotify』が大幅なUI刷新やAI DJなどを行った背景は? 『Stream On』の発表内容から読み解く

 先日、オーディオストリーミングサービス『Spotify』の大規模なアップデートが自社イベント『Stream On』にて発表された。UI(ユーザーインターフェース)の大幅な刷新や、ChatGPTで話題のOpenAI社のテクノロジーを使用した生成AI「AI DJ」の実装など、これまでのストリーミングサービスとは一線を画す機能を多数追加。また、クリエイターエコノミーを前面に打ち出したアーティスト支援に関する機能についても強化された。

 こうした数多くの機能を実装した背景には、どんな意図があるのだろうか、そして、こうした変化がクリエイターにもたらすものとは。これまでSpotifyの変遷を長く見続けてきたデジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏に話を聞いた。

ディスカバリーの強化を前面に押し出したUI刷新

 今回刷新されたUIについて、Spotifyはその狙いを「クリエイターやアーティストの発見を促進するため」としている。

 「Spotifyというサービスは、ストリーミングサービスのなかでも『ディスカバリー』という表現を初期から使っているんですね。ディスカバリーを強化することで、他社とは異なる価値を提供していく、ということはこれまでもやってきたわけです。つまりディスカバリーとは“Spotify DNA”に根ざしたものであると言ってもいいぐらいであると。なので、今回UIの刷新というのも、その自信の表れであり、アーティストやクリエイターとリスナーの相互発見を生み出すプラットフォームであることをより印象づけるためのものなのだと思っています」

 また、現状の音楽ストリーミングサービスは、コンテンツの“見せ方”に課題が残ると語る。楽曲を聴く前に、アルバムカバーを見てCDやレコードを購入することを「ジャケ買い」と呼んだように、アルバムのカバーデザインも「コンテンツの一部」とみなされてきた。しかし、昨今の音楽のデジタル化やストリーミングサービスの浸透につれ、アルバムカバーはコンテンツの一部ではなく、その楽曲を判別するためのアイコンとしての役割が強くなっている。

 そうした課題に対しても新たな解決策を提示するのが、今回のUI刷新であるという。

「音楽ストリーミングサービスのアプリデザインやUIに関して、根本的な課題があると僕は思っています。たとえば楽曲のアートワーク、いわゆる“ジャケ写”ですね。これを最大限に活かすことができるデザインのアプリが少ないんです。

 これがどういうことかと言うと、アーティストやレコード会社はアートワークを通じてファンに提供したいメッセージがありますが、現在の音楽アプリのUIはそれを最大化できていない。この齟齬が解決されない限り、『アーティストの発見』は思うように促進されないんじゃないかと。そこで、そうした課題へのソリューションとしてSpotifyが提示したのが、縦型フィードへの変更なのではないかというわけです」。これによって、スマートフォンの画像を下にスクロールすることで関連楽曲がショートクリップで表示され、新たな音楽との出会いを視覚でも捉え、より能動的に楽しめるようになったのだ。

「いずれはこの縦型フィードの中に、現在の音楽とポッドキャスト、そこにくわえてオーディオブックも入ってきます。そうなってきた時には、音楽が音声コンテンツとリスナーを取り合うのか、逆に音声コンテンツを経由して新たな層に音楽を聴いてもらえるようになるのか。そういった意味で、今回のUI刷新は音楽制作に携わる人間が注視すべきポイントでしょう」

関連記事