『Spotify』が大幅なUI刷新やAI DJなどを行った背景は? 『Stream On』の発表内容から読み解く

『Stream On』の発表から読み解けること

音声コンテンツにも訪れるAI時代の波 OpenAI社のテクノロジーを採用した「AI DJ」機能が実装

 今回のSpotifyのアップデートで登場した生成AI「AI DJ」も注目される。「ChatGPT」で話題のOpenAI社のテクノロジーが使用されており、タイムリーな実装となった。おすすめ楽曲の提案や、ちょっとした楽曲解説などを音声でしてくれるという本機能。実装の背景について、ジェイ氏はUIの刷新同様に自然な流れであると評する。

「これまで、そういったおすすめ楽曲というのは、ユーザーの好みや聴取行動を反映して自動生成されるアルゴリズムプレイリストの形で提案されてきたんですよね。それが、これからは『AI DJ』によって、よりパーソナルな音声によるコミュニケーションで提案される。

 この『パーソナライズ』というのも、先ほどお話ししたディスカバリー同様に、Spotifyが長らく取り組んできた技術です。これまでも『Discover Weekly』や『Daily Mix』のような、パーソナライズされたプレイリストを開発して、アルゴリズムを用いてユーザーに『おすすめ楽曲』を提示してきたわけです。こうした動きをふまえれば、AIを活用したパーソナライゼーションの強化という分野に向けるSpotifyの関心が高いものだということは予想できます。

 とはいえ、Spotifyも現状では『AI DJ』の実装によるユーザー拡大はあまり考えていないと思いますので、技術に対する投資なのだと僕は見ています。現状で『検索』機能にはある程度投資をし終わったなかで、『次はどこに投資すべきか?』ということを考えた際に、生成AIの方向に向かうのは自然なことでしょう。これまでもアルゴリズムは活用してきたわけですから、その派生としてこれ以上ない投資先ですよね。日本でも実装されるのが楽しみです。

 では、技術に対する投資の先、つまりSpotifyが求めるリターンとはなんなのだろうか?それはAIを活用したアドネットワークの構築にあるという。

「たとえば、生成AIを活用した音声ガイダンスのような機能を実装できれば、究極的にはそれを広告商材にできるので、SpotifyもビジネスとしてのAI活用を狙っているのではないでしょうか。将来的には、AIでパーソナライズした広告を我々のアドネットワークでは配信できますよ、という企業向けの展開も想定していて、その第一歩として『どういう情報を生成できるのか』『どういった指向性があるのか』を実証するための“実験”でもあるのかもしれません。

 先ほど僕は『SpotifyはAI DJでのユーザー拡大は狙っていないだろう』とお伝えしましたが、収益を増やすことには繋げられるので、そちらが狙いなのだと思っています。AI DJによってユーザーが増えなくとも、広告によって収益構造をより強化していくということは考えられますから」

 AIを活用してユーザーが求めるコンテンツを提示して満足度を高めつつ、一方で出稿するスポンサーの費用対効果を高めてしまおうというわけだ。

クリエイターツールに数多く追加された新たな機能 より密接なファンコミュニティとの繋がりを強化する施策が多数

 今回のアップデートでは、2つの大きな変更のほか、「Spotify for Artists」「Spotify for Podcasters」といったクリエイター向けツールの新機能も続々とリリースされている。なかでもグッズ販売やライブ情報の提供強化、トップリスナー向けの施策など、聴くだけでない音楽の“体験価値”の強化にも力を入れていることが目立つ。こうした変化について、Spotifyの狙いと、それによって何がもたらされるのか。ジェイ氏に解説してもらった。

「グッズ販売、つまりSpotifyのなかにアーティスト個人のECサイト連携を設けられるようになるというのは、アーティスト目線からしても嬉しいアップデートだと思います。グッズ販売の収入はアーティストにとって大きいものですからね。

 海外だと顕著ですが、新譜をリリースするたびにグッズ販売をおこなう例も珍しくないですし、販売手法も異なります。日本のように既存のECプラットフォームを利用することもありますが、のではなく、自分たちのオフィシャルWEBサイトで直接販売するアーティストが圧倒的に多いんです。Spotify上のアーティストページで、日頃から自分の音楽を聴いてくれているファンに直接プロモーションできるというのは、非常にプラスですよね」

 ジェイ氏は、アーティストに対して金銭を投じても惜しくないと考える“濃いファンコミュニティ”との導線が、日々使っているアプリという手軽な媒体を介して形成されることの利点を評価し、そしてもっと国内アーティストはグローバルな手法を参考にするべきであると続けた。

 また、こうした仕組みについて将来的に追加されるとしたら、どんな機能があればよりよくなるだろうか。ジェイ氏は下記のようにコメントする。

「グッズではないですがライブのチケットなどもそこで販売できるとなお良いですよね。僕も音楽を聴いているアーティストが『ライブをやります』とSpotify上でチケットを販売していたら、買うと思いますし」

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