誰もがスマホで3Dスキャンを楽しめる現代に、記憶を体験することについて思う
"在るものが失われるとき"のために、3Dデータを活用する試み
先に紹介した「Wist」の面白い部分の一つに、「過去に撮影された映像の中に入り込める」という点がある。記録を記憶のように扱える、まるでSF映画のような技術だと感じた。現実世界に在るものや、すでに失われてしまったものを3D化して、VRグラスを使ってその空間を追体験するという試みは、人のノスタルジーに訴えるところがある。亡くなった人との思い出の映像を3D化してVR空間で見るような体験は、これまでにないものだ。
失ったものをテクノロジーの力で再び表す試みとしてAIを活用する事例もあるが、たとえば美空ひばりをAIとして“蘇らせた”、といったような活用事例は、技術デモとして見たときの驚きこそ感じたものの、個人的にはあまり惹かれない。いなくなった人々の個人的人格が、現代の人々によって消費されるアプローチにも見えるからだ。
しかし今回紹介したWistの取り組みには、人の思い出を取り扱ううえでの「優しい可能性」を感じた。形あるものもなきものも、いずれは失われてしまうと知っておいた方が良いだろう。そのうえで、テクノロジーの力によってそれを少しでも鮮明に、あるいは他者に寄り添えるような形で残せるなら、そんな未来を応援したいものだ。サービスが公開されるのを楽しみに待ちたい。