ゲームソフトの高価格化が止まらず “1万円でお釣りが戻ってくる時代”の終焉がもたらすもの

止まらないゲームソフトの高価格化

 3月9日、パッケージ版『DIABLO IV』(以下、『ディアブロ4』)の予約がスタートした。

 ハックアンドスラッシュ系アクションRPGの金字塔として、高い人気を誇る「ディアブロ」シリーズ。約11年ぶりの最新作は、ファンの高い期待に応えられるだろうか。

 本稿では、パッケージ版『ディアブロ4』の予約スタートを入り口に、ゲームソフトの価格について考えていく。“1万円でお釣りが戻ってくる時代”の終焉がゲームカルチャーにもたらすものとは。

Blizzard Entertainmentが贈るハクスラの金字塔「ディアブロ」

DIABLO IV|発売日公開トレーラー

 「ディアブロ」は、米・Blizzard Entertainment社が開発・発売するアクションRPGだ。プレイヤーは、ゲーム内に複数用意されたクラスのなかから1つを選択、そのクラスに準ずる個性を持った操作キャラクターを作成し、ランダム生成のマップを冒険する。キャラクターにはメインハンドやオフハンド、兜、ブーツ、指輪といった複数の装備箇所と、個別の能力・スキルが存在する。それらを自由にカスタマイズしながらキャラクターを強化し、ストーリーの進行、より難易度の高いマップの攻略を目指すのが同シリーズのゲーム性だ。

 特徴的なのは、体験できるイベントや入手できるアイテムもランダムである点。また、ストーリーはクエストの形で程よいボリュームに分割されており、クリアのたびにプレイヤーは拠点へと戻ってくる。こうした性質から、「ディアブロ」は、ハックアンドスラッシュ(※1)を広く浸透させたシリーズとして知られている。1996年発売の第1作『ディアブロ』からナンバリングを重ねるに連れ、支持を拡大してきた海外RPGの金字塔だ。

 今回パッケージ版の予約がスタートした『ディアブロ4』は、前作『ディアブロ3』の発売から約11年ぶりとなる期待作。2019年秋に存在が明らかとなって以降、シリーズファンから動向が注目されていた。発売日は2023年6月6日を予定。対応プラットフォームはPlayStation 5/PlayStation 4/Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Windows)となっている。

※1:hack(叩き切る)、slash(切り込む)という2つの英語からなるRPGのサブジャンル。本来は敵を次々と倒していくことを主目的とした作品群を指す言葉だったが、転じて、ランダムに入手できるアイテムの収集要素を盛り込んだジャンルのことも指すケースが増えてきている。

高価格化するゲームソフト。終焉を迎える“1万円でお釣りが戻ってくる時代”

 発売日が近づき、ひととおりの情報が明らかとなった『ディアブロ4』。3月18日から一部ストアでの予約者を対象(※2)に先行アクセスが実施されることもあり、SNS上にはさっそく同タイトルを購入する人たちの姿があった。

 注目すべきは、その価格について。『ディアブロ4』は、スタンダードエディションが9,800円(税込)、デジタルデラックスエディションが12,600円(税込)、アルティメットエディションが14,000円(税込)となっている(※3)。特別版に関しては、これまでのゲーム市場でもよくあった販売手法である。しかし、通常版の価格が約1万円であることには驚いた人も少なくないはずだ。

 次世代機としてPlayStationが市場に登場して以降長らく、新作ゲームソフトの価格は5,000円台が多く、高くても8,000円ほどだったように思う。しかし近年では、表現能力の向上にともなう開発の複雑化、必要な制作スタッフ数の増加などによるとみられる価格の高騰が目立ってきている。

 参考までに直近の高価格ソフトを挙げると、2023年1月発売の『FORSPOKEN』が9,680円(税込)、2023年2月発売の『ホグワーツレガシー』が9,878円(税込)、2023年3月末発売予定の『ウイニングポスト10』が10,780円(税込)。約1万円という高額な価格設定でリリースされるタイトルも珍しくなくなってきた。古いゲームフリークのなかには、この価格設定を見てスーパーファミコンの時代を思い出した人もいるかもしれない。1万円でお釣りが戻ってくる時代は、徐々に終焉を迎えようとしている。

※2:2023年3月15日(水)23:59までにKADOKAWAグループ公式ECストア(カドカワストア、ebten、キャラアニ.com)で予約した人が対象。

※3:パッケージ版はスタンダードエディションのみの販売。

わかりやすいクオリティへの傾倒が生む分断

『ホグワーツ・レガシー』 公式アナウンストレーラー

 ゲームソフトの高価格化は、各タイトルの評判にもつながっている。販売サイトのレビューページでよく見るのは、受け取れる体験と価格を天秤に乗せ、作品を評価するプレイヤーたちの姿だ。その背景には、「コスパ重視」のトレンドや、日本経済の慢性的な停滞といった社会的要因もあるが、一方で、ゲームソフトが高価格化の一途を辿っていることからくる影響も存在しているに違いない。

 特にここ数年では、リリースから一定の期間が経過したタイトルのダウンロード版が、公式からディスカウント販売されるケースも増えてきた。少し待てばオフプライスでプレイできることも、体験と価格を相対化する風潮につながっているのではないだろうか。

 そうした市場傾向のなかで高価格タイトルに待っているのは、購入者のシビアな目線という逆風だ。先に挙げた直近の例だけを見ても、大きな評価を獲得した作品、「価格の割には」という烙印を押された作品のあいだにある溝は大きい。スクウェア・エニックスは去る3月15日から、『FORSPOKEN』のセール販売をスタートさせている。

 ゲームカルチャーにとってほんとうに大切なのは、余すところのない技術の活用などではなく、ユーザーの満足感にコミットする設計なのではないだろうか。2023年2月に発売された『オクトパストラベラー2』のレビューには、「こういうのでいい」という言葉もあった。3月9日に発売されたアドベンチャーゲーム『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』は、1,980円(税込)という低価格ながら、各所で高評価を獲得している。

 『ディアブロ4』は、その価格に見合った体験をユーザーへと届けられるだろうか。長く広い目で見ると、ゲームソフトの高価格化、つまりわかりやすいクオリティへの傾倒は、制作側とユーザーの分断を生む気がしてならない。

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