約1000民族から収集した音楽をデータベース化 Global Jukeboxが“民族音楽”を取りまとめる意義に迫る

ーー沖縄民謡や奄美大島のシマ唄についてはいかがでしょう?

サベジ:研究室に奄美出身の成瀬茉倫さんがいます。彼女が歌うシマ唄は沖縄とも本土とも違うんですね。インドネシアの音階と似ているので歴史的な繋がりがあるかもしれない、と言われています。ただ三線がシルクロード経由で沖縄に入ってきて、それが三味線に進化して本土に伝来したのは間違いないと思いますよ。

ーーちなみに北アジアの資料が少ないですが、これはなぜ?

サベジ:冷戦で行けなかったんですよ。この数年で行こうかと思っていたのですが、ウクライナ戦争も始まってしまいました。

ーー「Global Jukebox」のUI開発についても教えてください。

大穀:アラン・ローマックスのAssociation for Cultural Equity(ACE)が作ったもので、90年代くらいに作られたWeb1のインターフェイスを基礎としています。曲の「カントメトリクス」の説明を見ることができるので教育のツールとしても使うことが可能ですね。現在は伝統音楽の知識がどんどん失われています。でも、もう存在しない音楽が録画されていて、どういう風に使われていたかを若者が知り、自分のプレイリストに入れてくれれば音楽の保護につながるんじゃないかなと。

サベジ:僕も自分の5歳と8歳の娘と息子に聴かせています(笑)。自分の文化を失わず、他の文化に触れて多様性を実感してもらうという目的もあります。アイヌ文化は苦しい歴史のなかで音楽が失われかけましたが、今は若い世代が復活させようと盛り上げているんですよ。

 失われた音楽は昔の録音やアーカイブから復元しないといけないものもあるので「Global Jukebox」がその一助となれば嬉しいですね。個人的には日本の「こぶし」が大好きなので、ぜひ「八木節」などの音源を聴いて、みなさんに民謡を歌ってほしいです。

ーー個人的な興味になるのですが「カントメトリクス」でポップスを解析したら、どうなるのでしょう。

大穀:歌の特徴で分類できると思います。グループで歌っているのか、ソロで歌っているのかとか、メロディが上昇系なのか下降系なのかとか。あとはポップミュージックはすべて西洋音楽からの影響があると思いますが、その繋がりを比較してみるのも面白いですね。伝統的なダンスミュージックのリズムとポップスのメロディが混ざっているエリアがあったとして、それと「カントメトリクス」が似ているエリアを発見できたら、ツアーで周るとかもできそうですし。

 J-POPに関しては、どれもベースは一緒だと思いますが、作曲者のこだわりなどは「カントメトリクス」で可視化できるはずです。すでにSpotifyは「danceabillty」「exicitngness」「energy」などを数値化して、レコメンドシステムに組み込んでいます。

サベジ:また音楽サービス「Pandora」は「カントメトリクス」にポップスの要素を入れて「シンコペーションのリズム」や「調性音楽のキー」などの項目で分類していますね。「Global Jukebox」もポップスに適用できる「Urban Strain」という機能があるのですが、そのうち実装できたらなと。

ーー最後に「Global Jukebox」をユーザーにどのように使ってほしいかメッセージをお願いいたします。

大穀:まずは教育ですね。それから僕自身もメタルが好きで、そこにインドの伝統音楽を掛け合わせるのが好きなのですが、音楽家やプロデューサーの方にもアイデアの引き出しとして使ってもらえたら嬉しいです。

サベジ:音楽の多様性と普遍性がよくわかると思いますし、それを理解するために「Global Jukebox」を活用してほしいですね。また今後は民族の末裔の方と共同研究する機会も増やしていきたいと思っています。

<参考>
・比較音楽の歴史
https://psyarxiv.com/b36fm
・サベージ氏の研究室HP
https://www.compmusic.info

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