糸田屯が選ぶ、2022年のゲーム音楽配信リリース作品10選

糸田屯が選ぶ、2022年のゲーム音楽

『Cuphead - The Delicious Last Course Original Soundtrack』

 

 カナダの〈Studio MDHR〉が2017年に発表し、世界中で人気を博した超高難易度2Dアクションゲーム『Cuphead』。同作の追加ダウンロードコンテンツ『The Delicious Last Course』がついに登場し、新たに制作された30曲を収録したサウンドトラックも配信リリースされた。コンポーザーは本編に引き続き、パーカッショニストのクリストファー・マディガンが担当。

 スウィングジャズを中心に、ラグタイムやバーバーショップ音楽(ア・カペラ)が華やかに彩る音楽性はそのままに、ロココ様式の室内楽やバロック調のシンフォニック曲、ヨーデルを交えたカントリー・ポップなどの新たな要素も加え、ジャズ・オーケストラやフィル・ハーモニックオーケストラ、ブラスバンドやコーラス隊のラインナップも前作から大幅な増強が図られている。数あるボステーマの中でも群を抜いて怒濤の展開を繰り広げる「Baking the Wondertart」は、もはや圧巻というほかない。

『Arcade Paradise Official Soundtrack』

 

 洗濯、トイレ掃除、ガム剥がしなどの雑務をこなしながらコツコツと資金を貯め、さまざまなアーケードゲーム筐体を導入(これらは単体のゲームとしてプレイも可能)し、家族経営のコインランドリーを己の一存のもとにゲームセンターとして華やかに発展させてゆく──イギリスの〈Nosebleed Interactive〉開発による『Arcade Paradise』は、経営シミュレーションにアーケードゲーム文化を組み込んだ斬新な一作。

 90年代のノスタルジーとオマージュに満ちた本作のサウンドトラック制作に際して白羽の矢が立てられた人物は、ビッグ・ビートの雄であるThe Prodigyのライブメンバー(ドラマー)として1997年から2007年にかけて活動を共にし、故.キース・フリントのソロプロジェクトにも参加したマルチインストゥルメンタリスト/プロデューサーのキーロン・ペッパーと、ドラムンベースユニット・Klaxのメンバーであり、サウンドデザイナーとしても活動するベン・ピッカースギル。ドラムンベース、インダストリアル、ヒップホップ、グランジ、オルタナティヴ・ロックなどの楽曲で、アーケードゲームが有象無象のエネルギーを放出し、まばゆくギラついていた時代の熱をよみがえらせている。

『Cursed to Golf Original Soundtrack』

 

 京都に拠点を置く〈Chuhai Labs〉の開発による『Cursed to Golf』は、”ゴルフ煉獄”から脱出すべく、必殺ショットを駆使してトラップだらけのダンジョン的なステージを攻略していく異色のアクションゴルフゲーム。『マリオゴルフ』『スカッとゴルフ パンヤ』『悪魔城ドラキュラ』などへの愛をこめて本作の音楽を手がけたというマーク・スパーリングは、かつてジャズに傾倒し、プロのギタリストを目指していた人物。

 腱炎によりギタリストの道は断念せざるをえなかったが、ゲーム音楽作曲家の道を見出し、Fami TrackerやLSDJなどを用いて1日1曲の制作を続け、2016年7月から2020年3月の約4年にわたって研鑽を積んだ。また、2019年に音楽制作を手がけた『A Short Hike』(開発:adamgryu)は、インディーゲーム業界最大のイベント Independent Games Festival(IGF)の2020年度大賞に輝き、気鋭のコンポーザーとして名を知らしめた。『A Short Hike』ではアコースティカルな楽曲の数々からスパーリングのギタリストとしてのルーツを存分にうかがわせたが、『Cursed to Golf』ではもう一つのルーツである往年のゲーム音楽に立ち返り、ジャズ/フュージョンやメタル、民族音楽のエッセンスを交えたメロディアスなチップチューンを快打のごとく炸裂させている。

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