糸田屯が選ぶ、2022年のゲーム音楽配信リリース作品10選
2022年の締めくくりとして、今年配信されたゲームサウンドトラックから個人的なお気に入りを10タイトル選んだ。
『Kamigawa: Neon Dynasty Official Soundtrack』
「ゲームセッション/プレイ時に流す音楽」を想定して制作されたテーブルゲーム(TRPG・ボードゲーム・カードゲームなどの非電電源系ゲーム)のサウンドトラックは、ビデオゲームのサウンドトラックと比べると数が極めて少なく、貴重な存在としてみられているが、近年はメジャー/インディーを問わずその状況に少なからず変化が起きている。2022年は非常に印象的なトピックがあった。
世界最高峰の戦略トレーディングカードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』が、30年近い歴史で初めて公式サウンドトラックアルバムを発表したのだ。本作は2022年2月に発売された拡張セット『神河:輝ける世界』のサウンドトラック。音楽系YouTuberとしても人気を博すマルチインストゥルメンタリスト/ヴォーカリストのジョナサン・ヤングと、日本の伝統音楽とジャズの融合を意識した幅広い活躍を展開する尺八奏者/作編曲家のザック・ジンガーを中心に、TRIVIUMのマシュー・キイチ・ヒーフィーなどの実力派ミュージシャンが参加。エレクトロビートと和楽器の音色をたくみに織りまぜた和洋折衷なシンセウェイヴで世界観を描き出す。 同年4月末には拡張セット『ニューカペナの街角』の公式サウンドトラックも発表された。より詳しい内容はこちらの記事を参照いただきたい。
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』『マジック:ザ・ギャザリング』『Mörk Borg』── テーブルゲームの「音楽的アプローチ」に注目
ビデオゲームのサウンドトラックやコンポーザーを中心に紹介してきた本コラム連載だが、今回はテーブルゲーム(非電源系ゲーム)と音楽の…
『TUNIC Original Soundtrack』
アンドリュー・ショウルディスの開発による『TUNIC』は、『ゼルダの伝説』『DARK SOULS』からの影響や、可愛らしいヴィジュアルと高難易度を盛り込んだクォータービューのアクション・アドベンチャー。サウンドトラックは、かつて『Dustforce』(開発:Hitbox Team)の音楽を手がけたLifeformedことテレンス・リーと、かつてシンガーソングライターのJuliana's Daughterとしても活動したジャニス・クワンの連名によるもの。
2人の電子音楽家の出会いは2013年ごろにまでさかのぼり、互いの楽曲に惹かれたことから始まったやりとりは次第に緩やかなコラボレーションへと発展し、2016年にEP『Umbra』と、2020年にシングル「River, River」を発表。ほどなくして2人は結婚し、公私にわたるパートナーとなった。3時間におよぶボリューム感で展開される『TUNIC』の楽曲は、7年近くにわたって断続的に制作されたという。カラフルでミステリアスな世界観にやさしく寄り添い、ときに遊び心をのぞかせるアンビエント/ピアノトロニカは、さながら丁寧に編み込まれた織物のような印象だ。
『Neon White OST 1 – The Wicked Heart』『Neon White OST 2 – The Burn That Cures』
好評を博したパズルゲーム『Donut County』の開発者であり、音楽家の顔も持つベン・エスポジト率いる〈Angel Matrix〉開発による『Neon White』は、ステージ内に配された「ソウルカード」を駆使してスタイリッシュに駆け抜ける、一人称視点のスピードラン系アクション。鮮烈なビジュアルや、キッチュでストレンジな世界観はKaizenGameWorksの『パラダイスキラー』に近い雰囲気をもっているが、同作が80~90年代を意識したものならば、ローポリゴンのゲームグラフィックやドラムンベース/ジャングルを基調とした楽曲をフィーチャーした『Neon White』は00年代を意識したタイトルといえる。
音楽制作はマット・スティーヴンソンとショーン・ケリーによる超雑食系エレクトロニック・パンク・デュオのMachine Girl(ユニット名の由来は映画『片腕マシンガール』)が担当。同ユニットにとってはじめての、そして満を持してのゲーム音楽作品となった(ちなみにMachine Girlは長沼英樹や寺田創一から強く影響を受けており、『ジェット セット ラジオ』のサウンドトラックをフェイバリットに挙げている)。オリジナルアルバムで展開しているような凶暴性や傍若無人っぷりはある程度セーブしているが、ゲーム本編のスピーディーなコンセプトを消化した、トリッピーで清涼感・浮遊感の強いトラックをアルバム2枚分のボリュームでたっぷり味わわせてくれる。アドレナリンの大量分泌は必至。
『Teenage Mutant Ninja Turtles: Shredder's Revenge Original Game Soundtrack』
カナダの〈Tribute Games〉開発による『ミュータント タートルズ:シュレッダーの復讐』は、1987年のアニメ版「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ」をベースにしたシリーズ最新作であり、往年の『T.M.N.T. ~スーパー亀忍者~』『T.M.N.T. タートルズ イン タイム』のスタイルを強く意識したベルトスクロールアクション。発売一か月で100万本を売り上げ、依然おとろえぬ人気を示した。
メインコンポーザーは、2Dクラシックの「ソニック」シリーズにおける久々の新作として2017年に話題となった『ソニックマニア』(開発:Christian Whitehead、Headcannon、PagodaWest Games)の音楽を手がけたティー・ロペスが務め、おなじみのテーマソングのメロディも織り込みつつ、アクションの爽快感をブーストさせる歯切れのよいファンキー/フュージョンタッチの楽曲で高いテンションを維持している。テーマソングのニュー・ヴァージョンを歌ったマイク・パットンをはじめ、ラッパー/エアロフォン奏者のアントン・コラッツァ、ラッパーのMEGA RAN、ギタリストのジョニー・アトマ(GaMetal)、レイクウォン&ゴーストフェイス・キラー(Wu-Tang Clan)がフィーチャリング・アーティストとして名を連ねていることも見逃せない。