抜群の歌唱力と奇想天外さをあわせ持つ、町田ちまの輝かしい“個性”
現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。
メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加している。
デビューから順を追うように紹介してきた本連載。元1期生、元2期生、元ゲーマーズ組の次は2期にわたる元SEEDs組。第2期にあたるメンバーの最後として、町田ちまについて書いていこうと思う。
2018年8月31日に初ツイート、2018年9月3日にMirrativで初配信をしてデビューした町田ちま。ゆるくウェーブのかかった薄ピンクのロングヘアー、小柄の体格にピンクのカーディガンがよく映えるビジュアルで、ペットのゴンザレスと共に多くの配信をしてきた。
YouTubeには当時の初配信がアップされており、なめらかなタッチを感じさせる声色とふわっとしたムードが現在とそこまで変わらないことがわかるだろう。
初配信では「なにかしますか? 歌いますか?」と発案してから、日本国歌・君が代を歌い始め、リスナーの度肝を抜いたのは有名な話である。選曲チョイスの意外性、高い歌唱力、現在につながる彼女の魅力が、すでにこの初配信で揃っていた。
さて、彼女について語るうえで「歌」は外すことはまずできない。「歌がうまい」「声が良い」と感じられる要因は主に2つ、声質そのものの良さとボーカルテクニックの上手さ、これらに分けられる。彼女の場合、その美声で多くのファンを生みだしてきた。
彼女にとって最初の歌配信は、アーカイブ上では2018年9月11日の「#02 マシュマロ食べて歌いまちた」だ。
「Crossing Field」「カタオモイ」に始まり、「少女レイ」「もののけ姫」「一度だけの恋なら」「丸の内サディスティック」「デビルマンの歌」「メルト」「フリージア」など、00年代~10年代のヒットソング、アニソン、ボカロ曲を中心にし、ほとんどが1番のみで終わっているものの、56分で20曲ほどを歌っている。
しかもこの配信は全編通してカラオケ音源などの演奏は一切なし、町田ちまのアカペラで配信されている。現在とはマイクなどの環境も違っており、モコモコしたマイク音質は音楽的にいえばローファイな質感だ。
だがそれが町田の柔らかい声色にマッチしており、そのまま聴いていても心地よいレベルになっている。このような内容の配信を、デビューしてわずか2か月ほどのタレントがしていることが末恐ろしい。
声がいかに良くても、メロディへの抑揚がうまくつけられなかったり、メロディを捉えることができない音痴なタイプではいけない。逆にボーカルテクニックや歌唱が上手くても、声質がイマイチだと聴く人の心に刺さることが少ないし、自身の声質にあったボーカルテクニックを持ち合わせていないと、聴く者の心には刺さらない。
にじさんじには様々なタイプのボーカリスト・歌上手がいるが、町田ちまは単なる美声の持ち主というだけではなく、にじさんじでも指折りのボーカリストの一人でもある。
なめらかで柔らかな声質をうまくメロディに絡ませるようなボーカルテクニック・抑揚のつけかたは元より、声質をより尖らせてクールにしたり、より丸っこくしてバラード向けな声にしてみたりもできる。
これまでに配信してきた歌配信枠は150回を超え、オリジナル楽曲やカバー・歌ってみた動画も50本以上投稿してきた。その配信ペースは、みんながゲーム配信や雑談配信をしているなかでも歌い続けてきた、といっても過言ではないレベルだ。
歌っている彼女の本当の実力を知りたいというのであれば、ぜひ歌枠をみてほしい。毒気の少ないクリーンな美声を存分に響かせる、彼女のボーカルテクニックや表現力を楽しめるはずだ。
現在、彼女は戌亥とこ、朝日南アカネらとともに3人組ボーカルユニット「Nornis」として活動している。デビューした直後にアカペラで唄っても納得させられる歌唱力を持っていたタレントが、毎日のように歌と向き合い、音楽が頭から離れなかったらどうなるのか。そんな大袈裟すぎる言葉が、彼女の歌唱力にはピッタリと似合う。