YouTubeはクリエイターにどのように寄り添ってきたのか YouTube Japan担当者と振り返る15年間【後編】

 2022年6月19日にYouTube日本語版は15周年を迎えた。YouTuberという職業も世間に浸透し、「好きなことで生きていく」姿が人々の憧れとなった現在。YouTubeはこうしたプラットフォームを構築するまでどのような道のりを辿ってきたのか。

 YouTubeで活躍するクリエイター、そしてクリエイターの活躍を支えるエコシステムとのパートナーシップを統括するYouTube Japan クリエイターエコシステムパートナーシップ統括部長のイネス・チャ氏に話を聞いた。

 YouTubeクリエイターがどのようにして社会に認知されていったのか紐解いた前編に続き、後編では、もはや社会インフラのようなプラットフォームに成長したYouTubeが、変化していくなかで抱える“責任”、そしてそこで生み出されるコンテンツの変化について考えていく。

アジアの投げ銭文化に着目し、スーパーチャット機能を導入

ーーYouTubeは2011年にライブ配信の機能を、そして2017年にはスーパーチャットの機能をリリースしました。クリエイターを支援したいファンは投げ銭的な感覚でスーパーチャットを送れますし、クリエイターの新たな収入源になるとともに、コミュニケーションを加速した面もありましたが、導入したきっかけとは?

イネス:もともとライブ配信/ゲーム配信というジャンルには、スーパーチャットに近い文化がありました。そのなかで、YouTubeでは2015年にゲームに特化したチームがいくつもでき、そのなかでクリエイターにヒアリングをしていくと、やはり「YouTubeに直接クリエイターを応援できるような機能があると、ファンエンゲージメントが高まる」という意見が大きくて。いまも社内ではスーパーチャットやメンバーシップのさまざまな活用の仕方について日々勉強している状況ですが、広告収入のプラスアルファとなる収益源をつくることができたのは、クリエイターのみなさんをサポートしていく上で非常によかったと考えています。

“スパチャ2億円”と大きな話題を呼んだ加藤純一の結婚披露宴配信

ーーある意味では気軽に、かつ直接的にクリエイターを支援できる仕組みが、YouTubeという社会インフラのようなプラットフォームにおいて定着したのは、UGCというカルチャー全体にとっても大きいことだったと思います。メンバーシップについては、クローズドなコンテンツが生まれることに難色を示すユーザーも一定数いたと思いますが、うまく着陸できていますね。

イネス:スーパーチャットやメンバーシップの機能をうまく使ってくださるクリエイターさんのおかげだと思っています。なにかひとつ新しいプロダクトを導入する際は、どうしても活用ノウハウがなかったり、雑音が出てきてしまうわけですが、ひとつ言えるのは、YouTubeのプロダクトは基本的に、クリエイターさんのためのものだということです。クリエイターさんがYouTubeのプラットフォームをより活用し、ファンと繋がっていけるようになるために開発しているので、時間はかかりますが、まずはクリエイターさんにしっかりと機能を使っていただき、使い方の事例やノウハウが広まっていくことで、ファンも理解が深まっていき、プロダクトの良さも伝わっていくと考えています。

ーーそれぞれの考え方により、スーパーチャットを利用しないクリエイターもいますし、必要に応じて表現の手段、収益を得る方法が選べることに意味がありますね。

イネス:短尺や長尺、広告収入やスーパーチャット、ライブ機能やオンデマンド配信など、クリエイターによって、どういうコンテンツを選んだとしても、しっかりとファンのエンゲージメントが高められるような機能を整備していく、というのが基本的なスタンスです。クリエイターさんから「これからは短尺が来ますか?」「YouTubeは長尺が一番いいですよね?」という質問をもらうことも少なくないのですが、私たちが「どんな動画がいい」という基準を設けることはなく、どんなタイプのクリエイターさんであっても、YouTubeを通して好きなものが表現できて、ファンに伝えることができるようなプラットフォームでありたいと、常に考えています。

 クリエイターさんによって、長尺がマッチする人もいれば、短尺やライブ機能でプロモーション的に活用するのが適している場合もあり、どんなタイプの発信が有効かは、クリエイター個有の戦略にもよると思います。私が長年YouTubeに関わっていて、とても良いなと思うのは「実験ができる」ということ。自分のチャンネルなので、気軽に長尺にしてみたり、ライブ配信してみたりするなど実験ができる。さらに、ファンの声もコメントを通して直接聞けるので、リアルな感想やフィードバックをもらえますし、アナリティクスを見れば、実験的に出したコンテンツの成果が数値化されて確認できる。このように、クリエイターさんは実験を通して、自分の理想とするコンテンツを作っていけるようなプラットフォームにYouTubeはなっていると思っています。

ーー例えば、YouTueショートがトレンドなら、まずは気軽に試してみればいいと。

イネス:そうですね。逆にショートからYouTubeに入って、機を見て長尺に挑戦する人もいれば、両方並行してコンテンツを作っていく人もいます。いまのトレンドを意識しすぎずに、自分がやりたいことを第一に、それに合うような機能を活用し、コンテンツを制作できる環境をつくっていきたいですね。最近では有名人の方も多くYouTubeチャンネルを開設するようになりましたが、ライブに力を入れる方もいれば、ショートをメインに使っている方もいたりと、本当にさまざまなやり方があるなと感じています。そういう風に工夫されている様子を見ていて、こうやってコミュニティが成熟していき、クリエイターさんのスキルも向上していくんだということを実感しています。

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