大きく有利だった試合が「バグ」で仕切り直し……LJL再試合問題から考える“公平なeスポーツ”の難しさ
バグとeスポーツの切っても切れない関係性
ビデオゲームはプログラミング言語で書かれたコードに基づいて自動で進行するので、基本的にeスポーツで審判による判定は(審判のスタッフはちゃんと存在するが)ほとんど必要としないし、(ハッキングなど外部からコードに触れない限り)不正の余地も少ない。
そのため比較的公正さを担保しやすいスポーツともいえるが、プログラミングである以上バグによって意図せぬ問題が生じることがある。サッカーフィールドの芝が一部コンクリートになっていたり、野球のボールの慣性が突然0になってしまうなんてことが、eスポーツにおいてはありうる……そう考えると、「やっぱりeスポーツなどスポーツではない」と思う人もいるかもしれない。
しかし、皮肉にもこの「バグ」という課題はeスポーツの魅力と切っても切れない関係にある。それはeスポーツがビデオゲームを用いた競技であり、そのビデオゲームは日々サービスとして更新され続ける「商品」であり「作品」だからだ。
『LoL』は昨年の世界大会では最大同時視聴者数は7386万人を記録するなど、世界的に人気のあるeスポーツとして知られているが、その『LoL』最大の魅力が尋常ならざるコンテンツの追加だ。『LoL』は2週間ごとに「パッチ」が配布され、その中には新しいチャンピオンやアイテムの追加、既存の要素の見直し、イベントやスキンの拡充など、膨大な量のコンテンツが改変される。言い換えれば、その度にプログラムのコードは書き換えられ、それに伴って当然、バグが発生する余地も増える。
『LoL』はアメリカで2009年にベータ版を開始して以来、約13年に渡ってコードを継ぎ足し、まるで秘伝のタレのようなスパゲッティコード状態で進化を続けてきたゲームだ。だからこそ膨大でありながら洗練され、そして無数の戦略が生まれるゲームとなっており、そこからプロスポーツとしての競技シーンも育ったのだ。たしかに、野球のボールの挙動がある日突然変わることは許しがたいが、新しいボールやフィールドが追加される新鮮さこそ、eスポーツの面白さであるのも事実だ。
また、開発者たちはバグが発生することを覚悟するほどに複雑な仕様でも、それが「面白そう」と思うなら無理を承知で実装することがある。なかでも、プロシーンでよく見られるチャンピオン・サイラスの開発秘話は非常に興味深いので参考にされたい。
もちろんバグは少なければ少ないほど望ましく、ましてプロスポーツとして成立させるのであればバグの発生は看過できるものでない。しかし、人間の手で作られたコードにバグが生じるのは半ば必然であり、それも『LoL』のように複雑なコンテンツを頻繁にアップデートするタイトルが、最も楽しまれるeスポーツとして成長していることを鑑みると、eスポーツの本質とはデジタル上で行うスポーツという以上に、デジタル故に日々拡張し変更していくルールに適応し続ける点(またそれによって稀に生ずるバグ)にあるのかもしれない。
だからこそ、バグが発生した時には選手へのケア、ファンへの説明、そして審判による公平なジャッジが必要となるだろう。後日、LJLでは再試合の原因について説明がなされたが、残念ながら試合当日についてはこうした説明はほとんどなく、ファンはおろかキャスター、選手までも混乱を見せていた。また再試合に至った判断やルール、なかでも、バグの原因が極めて高かった要素の使用可否など、要領を得ない点もある。
今回のバグに際し、選手、コーチ、そして運営スタッフの方々の多大な心労に大いに共感する一方、今後競技の健全さを維持する上で、この事例を活かしたケーススタディにも期待したい。