冨田ラボと考える“ファンと作り手のコミュニケーション” 音楽の聴こえ方が変わる『冨田ラボスタジオ』の裏側に迫る

冨田ラボと考える“ファンとの交流”

会員は20代〜30代が中心。冨田ならではといえる、ファンとの交流法

──ところで、冨田さんはデビューされてどのくらい経ちますか?

冨田:「冨田ラボ」がちょうど20周年目に当たるんです。だけど「音楽の仕事」ということだとおそらく1986年くらいからスタートしているので、36年くらいになるのかな。

──活動の中で、「ファン」の存在を冨田さん自身が意識するようになったのはいつ頃でしょうか。

冨田:たとえばサポートミュージシャンや、アレンジャーとして仕事をしていた若い頃は、正直「ファンの方はどう思うか」と考える余裕もありませんでした。

ただ、最初にプロデュースをしたアーティストがキリンジで、そのときにかなり良い評価をいただいたんですよね。

メインストリームでめちゃくちゃ売れたというわけではないのですが、非常に熱心なファンがキリンジには付いたし、側から見ていてもその熱心さには驚かされました。それが90年代後半からゼロ年代最初の頃ですね。

 ファンの方々がさまざまな楽しみ方をしているのがわかったし、みなさんの熱量が伝わってきたんです。いま思えば初めて「ファン」を意識したのは、その時なのかなと。

──さらに「冨田ラボ」名義でソロ作品を出すようになり、「冨田さんファン」の存在も可視化されていったのかなと思います。

冨田:そうですね。ただ、僕はヴォーカリストではないので、普通のファンという形とは違って、僕の作る音楽のファンだと認識しています。そういった意味では、冨田ラボ始動以前のMISIA「Everything」の大ヒットは、当時の音楽性を広く認知してもらうひとつのきっかけだったと思います。

それに、冨田ラボはゲストボーカリストをフィーチャーする形が基本なので、その方たちのファンがそこで「冨田ラボ」という存在を知ってくださるパターンもある。そうやって僕の音楽の「記名性」みたいなものを、多くの人が理解し気に入ってくださったのでしょう。それがゼロ年代のファン層なのかなと。

──なるほど。

冨田:そのゼロ年代に、先ほど話した『トップランナー』で「作編曲SHOW」の原型みたいなことをやったのですが、そこでの反応も結構ありました。「楽曲の制作行程を見せる」ということ自体、当時はまだ異例だったし、『トップランナー』という番組の中でも特殊だったと思うんですよね。番組出演が決まった時、特に何かの楽器演奏を際立たせたいこともないし、「何を見せたらいいだろう?」と考えたときに思いついたアイデアで。しかも、専門的なことが分からなくても、見ているだけで面白いと思ってもらえるんじゃないかという気がしていたんです。

 そうこうしているうちに、キリンジやMISIA以降の「冨田恵一プロデュース作品」や冨田ラボ自体をきっかけに、僕の音楽のファンになってくださった方が増えていったように思います。「冨田ラボって、昔はキリンジもやっていたらしいよ?」みたいな声も聞こえるようになりましたし。それはテン年代以降の傾向ですけど。

──キャリアを重ねていく中で、さまざまな世代のファンが付いたわけですね。

冨田:そうなんですかね。『冨田ラボスタジオ』の登録者の年齢分布を見ると20代、30代が中心なんですね。30代がもっとも多くて、次が20代。そこから上下に広がっているので、幅広い方々に楽しんでいただけているようで嬉しいですね。

 20代、30代には、音楽をご自分で作られる方も多いと思いますが、年齢分布を知って「Today's Lab Song」で古い楽曲も紹介するようになりました。

──今回『冨田ラボスタジオ』を設立した背景には、コロナ禍の影響もあるのでしょうか。

冨田:「コロナが理由」というわけではないんですよね。というのは、自分がいいと思う音楽を作って、なるべく多くの方に聴いてもらって、「いい」と思っていただければ嬉しい、というのが基本姿勢としてあるわけです。

それ以外では、何が求められていて、僕の何に反応してくれているのかが正直まったく分からない状態でした。なので、『冨田ラボスタジオ』で配信するコンテンツに対する反応や年齢分布などを見て、ああ、こういう方々が観てくださって、聴いてくださっているんだ」と知りたかったのはあります。それは別に、「コロナがきっかけで外に出られなかったから」ではない。僕自身は普段からそれほどライブもやらないので。

──なるほど。

冨田:でもそうやって音楽を作って聴いてもらう以外に、新たなコンテンツを提供して、そうすることでファンの方がどんなことを考え、何を求めているのかが少しでも知れたらいいなという気持ちが今はありますね。

──ここ最近はクリエイターエコノミーが拡大し、それぞれがメディアを持って活動する「個の時代」ともいわれています。

冨田:そうですね。

──冨田さんはアーティストの中でも「裏方」というか、プロデューサーや作家としての仕事をメインにされているわけですから、いわゆる「アーティスト」のファンとはまたちょっと違うタイプのファンが多いと思うんです。そういう冨田さんのような立場のクリエイター……たとえばデザイナーやライター、エディターといった人たちが「Bitfan」を使ってオフィシャルサイトやファンクラブサイトを作成しファンベースを作ることに可能性は感じますか?

冨田:可能性はあると思います。僕の場合、依頼があったプロデュース作品の場合は、アーティストやメーカーの意向も考慮した上で、ベストな作品作りを考えるわけですが、作品第一であることは冨田ラボのときとまったく変わりありません。

 なので、デザイナーやライター、エディターといった方々が、自分が作った作品に対して僕と同じようなアティチュードであり、しかも記名性の高いものでさえあれば、おそらく作っているご自身も、自分の作品への愛情もあり、それを広めたいという気持ちは強いと思うんですよね。そういう方たちにとって「Bitfan」は、非常に有用なツールだと僕は思っています。

──たしかにそうですね。「このイラストレーターは、どんなツールでこういう色を出しているのか?」とか、「このライターはインタビューの前にどんな準備をしているのか?」とか、知りたい人も多いでしょうし。

冨田:たとえば、いまこうやってインタビューをしている動画から、文字起こし、校正を経て記事になるまでをドキュメントしてみたりとか。でも、そういうのを知りたい方も多いんじゃないかな。「このインタビュアーは、どんなふうにインタビューをして、それをどうテキストに起こして記事にまとめているのか?」とか、「それに対してアーティストはどんな赤を入れてくるのか?」とか。もちろん、許可なくアップしたらダメですが。

──そうですね(笑)。各方面の確認を得た上で、一つのエンタテインメントとしてコンテンツにすることができれば需要はありそうな気がします。

冨田:それこそ「作編曲SHOW」みたいなものだよね。そういうのを面白がる人はたくさんいるんじゃないかな。

──今後、『冨田ラボスタジオ』でやってみたいことは?

冨田:さらにコアなファン層に向けてのコンテンツ……たとえばそういう方々とチャット形式でディスカッションできる場を作ってみるのもいいなと。

 あとは、僕自身に訊いてみたいことを募って、それに応える場をオープンチャットで配信するのも面白そうだなと思っています。あとは、文字通りの「作編曲SHOW」。アイデアがゼロの状態から作編曲にとりかかっていく様子を、最初から最後まで撮影する。目下、そういうことをやっていきたいですね。

■ファンクラブ概要
「冨田ラボスタジオ」
URL:https://tomitalab.bitfan.id/

〈コンテンツ概要〉
・Today’s Lab Song
冨田恵一がその日の気分で1曲をセレクト。
YouTubeと冨田本人による楽曲解説コメントを添えて3日に1回くらいのペースで更新。 

・Nudge! Nudge!
某雑誌にて連載してた『Nudge! Nudge!』のスピンオフともいえる内容、冨田恵一が様々なテーマ(例:ドラマー特集など)に基づき音楽を解説していく連載、1ヶ月に1〜2回くらいのペースで更新。

・冨田ラボ作編曲SHOW
冨田ラボスタジオから、楽曲がつくられていく様子を動画で公開。デモ音源を使用し制作過程を紐解いたり、ゼロから一つ一つの音が重なり作編曲の工程を体感できるその様は、作編曲エンタテインメントとして新たな音楽の楽しみ方が広がります、1ヶ月に1回くらいのペースで更新。

■イベント情報
『冨田ラボ オンライン・ワークショップ<DAWを使った『7+』全曲解説>』
冨田ラボファンサイト1周年記念として、初のオンラインワークショップを開催します!
6月に発売されたニューアルバム『7+』の全曲解説を冨田ラボ・スタジオから中継で
冨田本人が作業に使っているDAW画面を見ながら、お届けします。
配信のチャット欄に書き込んでいただいたみなさんの質問にも答えていく予定です。
※時間の都合上、すべてのご質問にお答えできない場合がございますのでご了承ください。

【開催日時】
全3回
1回目 : 8月18日(木)
2回目 : 9月1日(木)
3回目 : 9月15日(木)
※いずれも20:00スタート
※アーカイヴ視聴はそれぞれ配信日から2週間となります。

【料金】(各回)
ファンサイト会員:1,500yen / 一般:3,000yen

【チケット】
2022年7月26日 18:00より下記リンク先にて販売
https://tomitalab.bitfan.id/contents/61502

■サービス概要
オールインワン型ファンプラットフォーム「Bitfan」
Bitfanは誰でも無料で簡単に、自分のクリエイター活動を加速させることができる新時代のファンコミュニケーション&ファンマーケティングのプラットフォーム。クリエイター/アーティストは公式ファンサイト、月額会員コミュニティ、ブログ投稿、ECストア、チッピング(投げ銭)、チケット販売、ライブ配信、ラジオ配信など、1つのBitfan IDで多くの機能を使うことができます。2020年11月に、革新的な優れたサービスを表彰する「第3回 日本サービス大賞 総務大臣賞」を受賞。「ファンのためにできることを。」をブランドメッセージとして掲げ、クリエイターエコノミーの実現を目指している。
URL:https://bitfan.id/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる