【ネタバレあり】『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』金鹿ルート(黄瞭の章)をクリアして感じた“疑問”
クロードの成長や仲間との衝突をもっと丁寧に描けなかったのか
これまで解説したように「黄瞭の章」のクロードは、本編とはやや性格が異なってみえる。しかし、クロードの成長をもっと丁寧に描いてもらえれば、もっと納得感のあるシナリオになったのではないか、というのが正直な感想である。
今作序盤のクロードは、手の内を仲間にも明かさず、仲間からの不信感を買うシーンが多く見受けられた。クロードに隠し事が多いのは本編でも同様だったが、今作では主人公シェズが「心の壁を感じる」と吐露するシーンがある。
また、今作ではクロードの独裁的な指導者としての側面も強調されていた。具体例を挙げれば、自軍の損害を抑えるために、同盟締結中の帝国軍の将校ランドルフを見殺しにするといった非人道的な戦略を実行する姿が描かれた。
この件では仲間からも大いに批判が集まり、これをきっかけにクロードは考えを改めていくことになるのだが、それまでのストーリーでクロードに対して溜まったフラストレーションを一掃するほどの変化ではない。平民であるイグナーツやラファエルを軍議に参加させ、以前よりも仲間を信頼するという方向に姿勢を軟化させてはいるものの、比較的あっさりとした描写になっていることから、表面的な変化に見えなくもない。
もう一つ付け加えるなら、それまでのクロードの行動に対する報いがそれほど描かれていないのも気になるところだ。ランドルフの死後、彼の妹であるフレーチェに襲撃されてはいるものの、これも難なく撃退してしまうのも歯がゆい。
また、このランドルフとフレーチェが関わる戦いをきっかけに、クロードに対する自軍からの批判の声が急速に鎮静化していってしまう。大義があるといえるのか怪しいファーガスへの進攻も支持されるようになり、終始批判的な姿勢を示していたローレンツさえ、クロードを擁護するような言動に変わっていく。
クロードたちは進行した領地からの略奪を禁止するというルールを掲げてはいたものの、やっていることは戦争であり、ファーガスからみれば侵略者そのものである。これを「痛みを伴う改革」と捉えられるならまだしも、金鹿の学級はマイペースで緊張感に欠ける人物が多いため、見様によっては倫理観の欠けた危険な侵略者に映ってしまうのである。
クロードに対する周囲の対応の変化がやや性急なことと、侵略者の立場でありながら妙に能天気な一同の様子から、プレイヤーの心情的に彼らを支持しにくかったのが非常に残念だ。
場当たり的なシナリオ運びが気になる
続いて「黄瞭の章」の評価を下げてしまう理由として、中盤以降の場当たり的な展開が挙げられる。
たとえば、クロード達が帝国に反撃するべく、ベルグリーズ伯領に攻め入るエピソードがある。ここでは、あと一歩のところでベルグリーズ伯を討ち取る寸前まで追いつめるものの、「隣国パルミラから大軍が押し寄せている」という急報が入り、突如として撤退することになる。
さらに、ファーガス神聖王国へ攻め入るエピソードでは、王都フェルディアを完全に包囲した直後に「レスター本国のコーデリア領で賊徒が急増している」という知らせを受け、こちらも突如として撤退することになる。「戦いに勝利する寸前で退却する」というパターンを2度も見せられたことには辟易とした。それならばいっそ、敵を討ち取ることで更なる血みどろの展開を見せてもよかったのではないか、とすら思ったほどだ。
そんな展開が続いた結果「黄瞭の章」では最後まで戦争が終結せず、レアを討ち取った時点でストーリーが終了してしまう。打ち切りのような結末になるだけならともかく、それが先に述べた場当たり的なシナリオ運びの結果なのだからやるせない。
ご都合主義といえば、味方にとって都合よく話が展開していく場合によく用いられる言葉だが、今作は「戦争を終わらせない」という目的のためにストーリーが都合よく動かされていっている印象を受けてしまう。実際のところ、「闇に蠢く者」は戦争を終わらせたくないという意図をもって動いているようだが、それにしても連邦軍の行動にあまりにも一貫性がないように見えてしまうのだ。