なぜ、いま“有線イヤホン”が重要なのか ピエール中野がさまざまなイヤホンを開発して気づいたこと

 オーディオブランドのHi-Unitがロックバンド「凛として時雨」のドラマー、ピエール中野監修のイヤホン“有線ピヤホン”シリーズ第3弾『Hi-Unit 001-pnk』のクラウドファンディングを「うぶごえ」において実施中だ。

 Hi-Unitは過去に同社が企画、開発をサポートしたピエール中野氏監修の有線イヤホン『有線ピヤホン1(HSE-A1000PN)』、『有線ピヤホン2(HSE-A2000PN)』の2モデルを販売。両モデルとも発売以来"有線ピヤホン"の愛称で親しまれ、イヤホン・ヘッドホン専門店e☆イヤホンの年間売上ランキング総合部門において売上数量No.1、ユーザーに限らず、オーディオアワード受賞など、専門家・販売店からも大きな評価を得てきた。

 そんな有線ピヤホンシリーズの最新モデルとなる『有線ピヤホン3(Hi-Unit 001-pnk)』は、有線ピヤホンシリーズだけでなくHi-Unitにとっても初のハイエンドモデルとなる機種。これまで同様にポータブルオーディオに造詣が深いピエール中野氏によって、音質チューニングされており、「聴けば聴くほど音楽に没入できる高解像度と定位」「ずっと聴いていたい低音」を感じられる高品位な有線イヤホンになっている。

 かねてから寄せられていた数多くの「ハイエンドモデル、ケーブル着脱タイプのイヤホンは出さないのか」という声に対し、応える形でスタートしたという今回のプロジェクトについて、Hi-Unitの増田稔氏とピエール中野氏にインタビュー。ハイエンドモデル開発のきっかけをはじめ、クラウドファンディングに取り組んだ理由、2人が有線ピヤホンを通じて実現したいことなどについて、話を聞いた。(Jun Fukunaga)

ワイヤレスイヤホンが台頭するなかで、「有線」にこだわった理由

ーーピヤホンシリーズにはすでにワイヤレスのハイエンドモデルが存在しますが、今回なぜ有線のハイエンドモデルを制作することになったのでしょうか?

ピエール中野

ピエール中野(以下、中野):有線イヤホンとワイヤレスイヤホンでは、有線イヤホンは音の遅延もないですし、やっぱり現状では音質面で優れていると言えます。それと有線イヤホンはケーブルを変えることができたり、カスタムのイヤーピースを作れたりとか、ガジェットとしてのカスタマイズ性だったり、バッテリー切れがないことなどもメリットとして挙げられます。

 それといま、世に流通しているイヤホンのなかでは有線の方が圧倒的にハイエンドモデルの種類が多く、音質もそれぞれ違うので、単純に選ぶ楽しさも多いですね。あと有線イヤホンはファッションのコーディネートのひとつとして、取り入れられる点もメリットのひとつだと言われています。

 もちろん、お互いにメリットデメリットは沢山ありますが、ピヤホンシリーズにしても有線とワイヤレスでメーカーを分けて作っていますし、僕は別物として捉えています。

増田稔(以下、増田):基本的な機能は同じですが、たとえば、音楽を聴いて没入感を味わいたいとき、ワイヤレスはバッテリー切れの恐れがある、有線イヤホンはケーブルが煩わしいなど、それぞれ使う人や目的によってメリットデメリットの感じ方が変わってきます。

Hi-Unit 増田稔

 その意味では有線イヤホンは物理的にケーブルを千切ることさえしなければ、基本的には音楽を聴き続けることができるため、道具としては圧倒的に優位性が高いと言えます。

 それとイヤホンの部材を作る場合、ワイヤレスの部材は有線イヤホンよりもコストが高く、使えるパーツの選択肢も少ないんです。だから、作る側からすると使えるパーツの選択肢が多い有線には自分たちが本当に作りたいものを作りやすいというメリットもありますね。

ーーお二人が考える理想のイヤホンとはどういったものでしょうか?

増田:初代iPodが出た2001年ぐらいにイヤホンに携わり始めましたが、その時は単純に手持ちのCDを全部持ち歩けるようになるのはすごいことだと思いましたし、きっとイヤホンの需要も多くなるだろうと思いました。

 そこからスタートしていろいろな音楽を聴いてきましたが、そのうちに装着感や音の聴こえ方もですが、その時の自分の生活の状況などに合った音に出会える状況を作り出せるイヤホンを作りたいと思うようになりました。

 なので、いまは使ってくれる人たちが感動したり、喜んでくれるもの、もしくはそれに寄り添えるものを作ることが、モノを作るという意味で理想に近いと思っています。

中野:僕のなかでは、音質などを含めて、これまで監修してきたイヤホンが理想のイヤホンだと言えます。それを技術の進化とともに作り続けているので、自分が理想とするイヤホンも常に進化しています。

ーー今回の有線ピヤホンは、これまでよりも高価格帯になりました。価格を上げてでもハイエンドモデルにしたきっかけを教えてください。

増田:元々Hi-Unitは、“求めやすい価格のシンプルプロダクトでユーザーに感動体験を提供する”ことを標榜しているブランドということもあって、低価格イメージが強いと思います。

 ただ、そもそもその求めやすい価格自体が主観に伴うものなので、高い安いという感覚ではなく、1000円〜2000円くらいで購入できるものでも、ここまでの音を出したいというところを突き詰めながら、以前の有線ピヤホンを含めてこれまでイヤホンを作ってきました。

 当然、プロダクトを作る上ではどこかで金額による制限は出てきますし、それを取っ払うことはできません。だから、中野さんにもそのことをご理解いただいた上で、その制限の限界点をできるだけ押し上げながら、そのなかでできることを目指すという話をずっとしていたんですよ。

中野:ただ、ユーザーからの「有線のハイエンドモデルを作ってほしい」という要望も多かったし、僕としても有線ピヤホンのハイエンド化にチャレンジしてみたいと思っていたんです。

 そんなときに増田さんが見つけてきたあるイヤホンの音を聴かせてもらったところ、その音がすごく良かったので、それを基に今回の有線ピヤホン3の開発がスタートすることになりました。

『有線ピヤホン3(Hi-Unit 001-pnk)』

 そこから音のチューニングやイヤーピースの形を変えるなどしながら、製品を作り上げていきましたが、僕らが有線ピヤホンのハイエンドモデルを作るというのであれば、やっぱり既製のモデルと聴き比べた時に魅力的になっていないと意味がないと思ったんです。それで今回は既存のものとは違ったアプローチで、みんなに感動してもらえる音質を作ることにしました。

ピヤホンシリーズだからこそ聴くことができる「音楽リスニング」

ーーそもそもピヤホンシリーズでは、具体的にどういったところに他のイヤホンにはない優位性があるのでしょうか?

中野:ピヤホンシリーズは、オーディオの感覚で音を作り込んでいくという点で他のイヤホンとは異なります。

 例えば、ミュージシャンである僕は、長年の経験もあって、楽器の音作りを始め、レコーディングやライブの現場など、さまざまな場面での音の聴こえ方について、感覚的に理解していますが、そういう感覚がないと音の聴こえ方の正解は見つけづらいんですよ。だから、基本的に他のメーカーのイヤホンは良い音を出すということ自体は志向していても、聴こえ方としてはその正解がわからないから、どうしてもフラットになりがちです。

 でも僕の場合は、これまでの経験からその正解に対する自分なりの答えを持っているし、元々オーディオ好きでもあるので、そこにオーディオとしての楽しみを加えつつ、ピヤホンの音質をチューニングすることができるんです。そうすることで、ピヤホンでは他にはない生々しい臨場感のある音を楽しめるようになっており、そこがこの製品の強みです。

ーーピヤホンの強みに対して、ミュージシャン、その音楽を聴くファンからはこれまでどんな反応がありましたか?

中野:例えば、同じドラマーからは「ドラムの音がそのまま出ている感覚がある」とか、「音に対する色の付け方がめちゃくちゃ上手い」と言ってもらっています。

 ピヤホンでライブ音源を聴いているユーザーさんからは「本当にライブハウスで聴いているような感覚」があると言ってもらえているので、音楽ファンのなかでも特にライブが好きな人にとっては理想的なイヤホンになっていると思います。

 そういう評判が僕のことや「凛として時雨」を知らない人の間でも伝わっている感じがあるし、そのことを考えるとピヤホンの魅力は割と音楽ファンに届いている実感があります。

ーー今回、そのような一定の評価を得ているピヤホンシリーズをファンからの要望があったとはいえ、これまでよりも価格帯を上げてハイエンド化することに不安はありませんでしたか?

ピエール中野:全くなかったですね。たしかにこれまでよりも価格自体は上がりましたが、それでも他のハイエンドイヤホンと比べると全然安いと思ってます。

 実際に10万円以上するイヤホンっていっぱいあるんですけど、それと聴き比べても有線ピヤホン3は魅力的だし、この値段でこれだけのクオリティの音質を楽しめるわけだから、全然お買い得だと思いますよ。だから、本当はもっと価格を上げてもいいと思っているんだけど、そこは増田さんが値上げ反対派だから(笑)。

増田:有線ピヤホン3のクオリティーや価値については、もちろん自信があります。ただ、製品を作って流通させることを考えると、やっぱり僕的にはその不安感はゼロではないんですよね。だから、低価格帯を掲げているブランドとしては、これまでの10倍ぐらいの価格のものを出すわけだから、それだけのものを出すことに対する怖さを僕自身は持っておかないとおそらくバランス的なものも含めて、なにか大切なことが抜けてしまう気がして...…。

 とはいえ、試聴会でもユーザーからの「いいイヤホンですね」という声はかなり多かったので改めて自信を深めたところも当然ありますよ。

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