VRアーティスト・せきぐちあいみがテクノロジーの力で表現したいこと 「得意なものがなかった私に、VRは力を与えてくれた」

せきぐちあいみがテクノロジーの力で表現したいこと

 様々な表現方法が存在するなかで、デジタルツールを使いこなし作品を生み出すデジタルアート。NFT(=non-fungible toke:非代替性トークン)の爆発的な流行も後押しし、改めてその価値が再定義され、注目されるアーティストも増えてきている。特集「Roots of Digital Creators」ではそんなデジタルアーティストたちのバックグラウンドに迫っていく。彼らは、どんなものに影響を受け、育ち、作品を生み出しているのだろうか。

 VRアーティストとして世界的に活躍するせきぐちあいみ。自信のNFTアートが高額で落札されたことで注目を浴びた彼女が、そもそもアーティストを志したきっかけとは。幼少期のエピソードから、VRアートとの出会い、今後テクノロジーの力でどんなことを表現していきたいかまで話を聞いた。

演技、ダンス、YouTube……紆余曲折のVRアーティストとして活躍するまでの道のり

ーー現在はVRアーティストとして活躍されているせきぐちさんですが、以前はYouTuberとして活動されていたんですよね。公式チャンネルを遡るとYouTube黎明期の2010年ごろから動画をアップしています。

せきぐちあいみ

せきぐちあいみ(以下、せきぐち):まだYouTubeの動画に広告すらつかない時期から投稿していました。そもそも私はなにかを創ったり表現したりして世の中に出ていきたいという思いが昔からあって、当時YouTuberとしての活動を始めたのも、名も無いうちから参入できる場所としてインターネットに可能性があると思っていたからなんです。わからないなりにニコニコ動画とかUstreamとかいろいろなサービスに手を出してみて、そのなかで一番しっくりきたのがYouTubeでした。

 いまとなっては、VRアーティストとしての活動もあって「テクノロジーに強い人」と思われがちですが、もともとデジタル領域に詳しいわけではなく。もともと何かに長けている人間でもないんです。だからこそいろんなものを自分に取り入れて工夫していかなきゃいけないという思いから、直感で可能性があると感じたものはとりあえず試すようにしてきました。昔からのなんでも触って、試してみての繰り返しが、いまの私に繋がっているんだと思います。

ーー「なんでも試してみる」活動のなかで挫折の経験などはなかったのでしょうか?

せきぐち:もちろんなにかを始めるときに否定はつきものでした。クラウドファンディングも日本で導入されはじめたころに挑戦したことがあったのですが、「お金目的じゃん」と言われたりしたことも。それでも学べることはたくさんあったと思います。クラウドファンディングもいまではみなさん使うようになっているし。間違っていなかったかなと。

 あとはいろいろと試してきたことで直感力も養われたとも思っていて。様々なものに挑戦して、その分失敗を重ねたことで、「今後注目されるんじゃないか」と選んだものが現実となることはありますね。NFTもそうでした。でも、そもそもあまり計画的なタイプではないので「これが必ず来るから」というモチベーションで続けられるわけではありません。だからYouTubeもVRアートも、今後を見据えて挑戦したところもありますが、純粋に楽しいという気持ちは常に持っていました。

ーーそもそもいまのアートに繋がる絵はいつから描き始めたのでしょう。

せきぐち:物心ついたときから好きで毎日のように描いていましたね。だから幼稚園のときの将来の夢も「絵描きさん」でした。でも、当時の大人にそれを言うと苦い顔をされていたのをいまでも覚えています。「それはなろうと思ってなれるもんじゃないんだよ」とやんわり言われていたような気もします。その大人たちに対して「えっ、でもピカソっているよね?絵描きだよね?」と小さいながら疑問に思っていましたが、そういった抑圧からだんだん夢を持つことは消えていって。幼少期に、大人が良くも悪くも正しい固定観念を植えつけて、それで視野が狭くなってしまう子ってたくさんいるんだと思います。それがまさに私でした。

ーー親としては苦労しない道に進ませたいということもあるのかもしれませんが、表現することの機会を奪ってしまうことにも繋がるわけですね。

せきぐち:そうなんです。そういった幼少期を経て、中学ではいじめられたこともあって、自分の全てが拒絶された感覚に陥りました。「自分は世界からいらない存在なんだ」と思うようにもなって、何に対しても存在意義が感じられなくて。とても辛い時期でした。

 でも、そこでたまたま演劇体験をする機会があって。自分が表現したことで人に何かを届けられるってなんて幸せなことなんだと感じることができて。やっとステージに立つことができたことで、今後も表現することを続けていきたいと思ったんです。

ーーせきぐちさんのこれまでのお芝居や音楽、現在のアートなどの活動は、そこから繋がってきたんですね。

せきぐち:そうですね。音楽も演技もYouTubeも、いろんなことに手を出してはいるんですけど、根本には「自分が表現したことで人に何かを届けたい」という思いがあるんです。

VRアートで描いたからこそ気付けた「日本の伝統のすごさ」

ーーVRアートに初めて出会ったときの印象を教えてください。

せきぐち:初めてVRの空間で絵を描いたとき、本能が「これだ!」と求めている感じがしました。「楽しい。魔法みたい」と童心に戻って夢中になって。最初はもちろんあまりうまくできなかったのですが、練習をして疲れても、もっとやりたいという気持ちと、これまでの活動のなかでも一番心と脳が喜んでる感覚があって。

ーー様々な表現活動をしてきたなかで一番と感じたのはなぜでしょうか。

せきぐち:たとえば、ダンスをしていたとき、センスのある人に追いつこうとひたすら練習ばかりしていました。でも上手な人たちって、単純にダンスが好きなだけなんですよね。きつい練習が終わってもクラブに踊りにいく。一方で、私は上手くなるために練習をしている。本当に好きなことって頑張ることの延長戦上にはないんだなと思ったんです。

 VRアートは、これまでのダンスや演技とは違い、心から楽しいと思えたことに加えて、自分の心が踊ることをもっといろんな人に届けたい、届くはずだという自信にも繋がった初めての経験でした。いまではそれが自分の生きがいでもある仕事にも繋がっている。そういうものに出会えたことはとても幸運だと思っています。

ーーせきぐちさんのVRアートの作品には和をモチーフにしたものが多い印象を受けます。これにはどういった意図があるのでしょうか?

せきぐち:庭園や神社、仏閣など思いやりと感謝の気持ちを大切にしている日本の文化、日本の考え方がすごく好きなんです。モチーフとしたのはそういった理由からなんですが、VRアートに取り入れてみたら空間をつくるうえですごく参考になったんですよ。

 庭石の置き方、木の生え方、橋のかけ方など、どこから見ても美しい景色を創っている。日本の伝統的な美的感覚は空間を大切にしているんだなと、VRアートとして描くことで気づいたんです。実際の庭園や神社は、テクノロジーの力ではなく、人間の思い通りにならない自然の力で成し遂げているから日本の文化は本当にすごいですよね。空間的美意識が高い日本人はメタバース領域で活躍していくんじゃないかなと期待しています。

ーーせきぐちさんはVRアートをライブペイントでも表現していますが、なぜパフォーマンスを取り入れたのでしょうか?

せきぐち:VRは広がってはいますが、まだまだ認知されていないところもあり、子どもやお年寄りでも直感的に理解してくれるようにするのはどうすればいいんだろうと考えたときに、VRアートを創る過程が見られたら楽しいんじゃないかと思ったんです。「なんかよくわからないけどすごそう」と最初はそのくらいの興味でもいいからもってほしくて。そうやってVRのようなまだまだ難しいと思われがちなものが伝わって、どんな人でも楽しめるものに変わってくれればと思います。

ーーお話を聞いていると、せきぐちさんはアーティストでありながらエンターテイナーとしての意識も高いなと思いました。まず人を楽しませたいということが前提としてあるんですね。

せきぐち:そうですね。私が思う「アーティスト」は、自分を表現するということがありつつも、作品を楽しんでもらいたいという思いも強いからなのかもしれません。人に届けることでやりがいを感じているので。

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