ウクライナ紛争にゲーム企業とゲーマーはどう立ち向かったのか

ウクライナ紛争とゲーム企業&ゲーマーの動き

いかに東欧諸国は紛争を真剣に解釈したか

 既出の通り、東欧諸国は歴史的、政治的に翻弄されてきた歴史がある。そこでかの国の人々はその痛烈な記憶を形にするべく、多くの優れた芸術作品を生み出した。文学であればイェジ・アンジェイェフスキやヤロスラフ・ハシェク、映像ならヤン・スヴェラークにアンジェイ・ワイダ、ほかにも絵画や音楽など、鑑みれば枚挙に暇がない。そうした東欧芸術のなかに、ビデオゲームもまた連なっている。

 代表的な例は、今回100万ズウォティの寄付を行ったポーランドのCD Projekt REDの『ウィッチャー』シリーズだ。アンドレイ・サプコフスキの小説を原作とする本作は、あくまでファンタジーの世界をベースとしながらも、東欧での伝承をモチーフとするモンスターやロケーションが登場し、さらに大国同士の紛争、民族への弾圧、宗教の偏見などが随所に見られる。まさにポーランドを含む東欧諸国が、常に分裂と対立を繰り返してきた歴史を思わせる世界観が、作品全体に反映されているのである。

『ウィッチャー3 ワイルドハント』

 同じく、ポーランドの11 bit studiosは一層切実に紛争を考えるゲームタイトルとして『This War of Mine』を開発している。こちらは戦時下において武器を持たない市民として生存するサバイバルゲームであり、絶望的に少ない食料や医療品をやりくりしたり、それらを巡って隣人と奪い合ったり、そうした困窮の結果、ストレスによって心身ともに蝕まれていく様子が描かれるなど、紛争が本来持っている性質を徹底して描いて見せた。

『This War of Mine』

 また、同スタジオのもう一つの代表的タイトルである『Frostpunk』は、氷河期の迫る地球にて国家を運営するユニークなシミュレーターだ。限られた物資をどう分配するのか、逃れてきた難民たちを受け入れるべきか、仮に受け入れたとして彼らをどう養うのか、またこうした政治を実現するためには秘密警察を設立するべきかなど、極めて深刻な状況において必然的に「独裁」に至る絶望を、シミュレーションゲームとしてプレイヤーに追体験させる、極めて痛烈な作品となっていた。

 こうした政治や歴史をビデオゲームに落とし込むのは、ポーランドばかりではない。チェコのWarhorse Studiosの代表作『キングダムカム・デリバランス』は、1403年、史実のボヘミア王国などを舞台にした、いわば大河ロールプレイングゲーム。脆弱な一般人に過ぎない主人公を操作しながら、善悪を簡単に判別できない動乱の社会で生き延びようとするゲームプレイは、まさに紛争のまっただ中に置かれた人々が目にするリアルそのものだ。

『キングダムカム・デリバランス』

 これらはごく一部の例に過ぎないが、ポーランドやチェコのゲームスタジオは多くが自国の歴史的、政治的な影響、そこから生じるごく普遍的な人間の本質について、実に精緻に描き、そしてインタラクティブなビデオゲームを通じ、世界中のプレイヤーにこの深刻なテーマを考える機会を作ってきた。故に彼らが訴える反戦へのメッセージ、犠牲者のための寄付活動には、強い意志が込められているように思う。

 もっとも、当然ながら東欧諸国のすべてのゲームが重いテーマを扱っているわけでない。なかでも興味深い例が、寄付活動も行ったチェコのSCS Softwareが開発する、『Euro Track Simulator』シリーズだ。

 こちらはただ現代社会のトラックドライバーとして、日用品やガソリン、機材などありふれた物資を運び、日銭を稼ぐリアルなトラックゲームだ。トラックはいずれもVolvoなどの実車をリアルに再現しており、ヨーロッパの各都市をそのまま反映した世界は実に美しいが、もちろん歴史や政治などのテーマは全く含まれていない。毎日トラックを転がしては、ガソリン代の高騰に怯え、寝不足に苦しむ、本当にひたすら「トラック野郎シミュレーター」だ。(なおマドンナも喧嘩も登場しない)

 しかし、本作を何十時間とプレイした筆者は、本作こそ分断の進む現代でプレイするべきではないか? と考えた。

 実際にプレイしていると、イギリスのロンドンを出発し、ドーバー海峡を渡ってドイツに向かい、そしてオランダで荷を下ろしては、チェコで仕事を受けるころには日が暮れている……というルーチンになる。ヨーロッパのあらゆる場所でコーヒーを飲み、給油し、そして荷物を乗せたり下ろしたりすると、国境という概念が実に希薄になってくるのである。

 それはまさに2019年に発売した『DEATH STARDNING』が、「配達」を通じて世界中の絆を再び取り戻していくのとまったく同じで、トラックドライバーとしてヨーロッパ中に荷物を運んでいくことが、自然にヨーロッパの深いつながりと、そのつながりを支える役割を担えるのである。そんな作品を作ったチェコのSCS Softwareが国際平和を訴えることも、実に説得力があると思う。

 西はフランスから、東はロシアのサンクトペテルブルクまで。今後は最西のポルトガルまで実装予定だ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる