東京オートサロン時間差レポート(Vol.1)

新型フェアレディZは見事に“ヘリテイジ”を盛り込んだ一台だ S30Zオーナーが実際にその目で見て思ったこと

 「やっちゃえ」って言ってるわりにはそんなにやってなくない? というイメージな昨今の日産。伊藤かずえさんのシーマをビカビカにレストアした話などはたしかに「やってるね!」と好印象を残したが、先日開催された東京オートサロンで、ついに本命の「やってくれた!」なクルマ、新型フェアレディZが公開された。

 いまやスポーツカーというジャンルは前時代の恐竜的存在であり、どれだけスタイリングを磨いてCd値を向上させても、世間の逆風という向かい風をいなすことは難しくなっている。だからこそ、このご時世に電気モーター無しの400馬力V6ツインターボエンジンを積み、FRレイアウトで6MT、しかも2シーターというありえないクワトロ役満状態での市販を実現した日産に、「やってくれた!」と拍手を送りたいわけだ。

 スペック面以上に注目なのは、そのスタイリングだ。新型Zは見事にフェアレディZの“ヘリテイジ(先祖伝来のもの、遺産)”を盛り込んだカタチになっている。フォルクスワーゲンのニュービートル、BMWのミニ、フォードのマスタングにクライスラーのチャレンジャーと、世界の自動車デザインの中でヘリテイジが潮流となって久しく、販売面でも成功しているのにも関わらず、日本車は何故かなかなか上手くこの流れに乗れていなかった。

 しかし新型Zは、このヘリテイジデザインに正面から取り組んだ。新型ZがモチーフにしているS30型を実際に所有している筆者に“語る口”があるとご理解頂いた上で言うが、新型Zのカタチは素直にカッコイイ。S30型を持っていても「欲しい」し、「並べて置きたい」とも思うほどだ。

筆者が所有する1973年式DATSUN 240Z(Photo/Akio Hirano)

 旧車モチーフのデザインを新車に落とし込んだ場合、まず“違和感”となるのがボディの分厚さだ。現行車は安全面、剛性面をクリアする頑丈なボディを有するために全体が分厚く、それはサイドビューのみならず前後のデザインにも影響する。

 特にデザイン上で大事なフロントマスクにおいて、その厚みをどう分散させるかが見所なのだが、新型Zはフロント先端部分を各方向から絞り込むことで視覚的なボリュームを減らしている。それでも厚みそのものが消えるわけではないので、フロントグリル開口部は大きく、正面アングルの写真を見たときは時は口がパッカーンと開いた感じでやや間が抜けた印象だったが、この“口パカーン問題”は、実車を前にするとやや印象が違った。

 フロントマスク周辺は、全体的な絞り込みだけでなく、実に多彩な面構成がされていて非常に立体的だったからだ。なだらかなカーブとシャープなエッジが絡み合い、「口パカーン」よりも「尖ってるな」という印象が勝った。

 テール部分は、ハッチゲート下端に小ぶりなダックテールスポイラーを配置するあたりはS30型を踏襲しているが、テールレンズのデザインはZ32型がモチーフ。ここもS30型オマージュでいいじゃん、と思いつつ、Z32型のテールレンズもS30型の上下二分割デザインがそのルーツにあるので、DNAは同じというわけだ。

 新型ZはZ33型、Z34型を経てのこのデザインになっているというのも、違和感を与えにくいひとつの要因だろう。S30型の要素が、モーフィングの様にじっくりとZ33型→Z34型を経由してカタチになっているので、唐突な先祖返り感が薄まっているように思える。ちなみに新型ZはZ34型のコンポーネントを流用したビッグマイナーチェンジ車(とはいえ8割は新規設計されているそうだが)なので、型式はZ34型を継続使用。「Z35型」とは呼べないので、各メディアとも「新型Z」で統一しているようだ。

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