西川貴教が語る「ライブ配信」の可能性 ~アーティスト、経営者の目線から紐解く新しいエンタメの形~
いまや、芸能人がYouTubeチャンネルを持つのは当たり前。ShortsやTikTokなどのショート動画も活況だが、コロナ禍でライブ配信サービスが広くユーザーを増やしたことを受け、同サービスへ参入する芸能人が増加していることも、2021年以降のトピックとして欠かせない。
今回、2022年のエンタメを考えるうえで欠かせないであろう「芸能人×ライブ配信サービス」に注目し、実際に配信を行っている人物として、昨年5月より「17LIVE(ワンセブンライブ)」でオリジナル番組『西川貴教のニシナナLIVE』をスタートさせた西川貴教氏を取材。ラジオやテレビなど、様々な媒体で活躍してきた西川がライブ配信サービスに感じる「これまでのメディアとの共通点」と「新しさ」、これまで通りライブやフェスが開催できない期間に生まれた、新たな形でのファンとの交流、アーティスト・経営者目線から見る“ライブ配信サービスの可能性”まで、大いに語ってもらった。
西川 貴教(にしかわ たかのり)
1970年9月19日生まれ。滋賀県出身。
1996年5月、ソロプロジェクト「T.M.Revolution」としてシングル「独裁 -monopolize-」でデビュー。キャッチーな楽曲、観る者を魅了する完成されたステージ、圧倒的なライブパフォーマンスに定評がある。2018年からは西川貴教名義での音楽活動を本格的に開始。俳優、声優、地上波TV番組MCなど多岐に渡り新しい挑戦を続けている。2008年に故郷滋賀県から「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌2009年より県初の大型野外音楽イベント「イナズマロック フェス」を主催、地元自治体の協力のもと毎年滋賀県にて開催している。令和二(2020)年度滋賀県文化功労賞受賞。
2021年5月にT.M.Revolutionデビュー25周年を迎え、現在ライブツアー「VOTE」(滋賀県内25公演/東京/大阪/宮城)を開催中。また今年2月から4月にかけては、西川貴教ライブツアー「IDIOSYNCRASY」(東京/大阪/愛知/北海道/福岡/宮城)を開催予定。
ライブ配信を始めたきっかけは『イナズマロックフェス』
──西川さんの「17LIVE」での番組『西川貴教のニシナナLIVE』は昨年5月から始まったんですよね。
西川貴教(以下、西川):そうです。昨年の5月13日がちょうどT.M.Revolutionのデビュー日で、そこに合わせてという感じでした。
──そもそも「17LIVE」で配信を行うことになったきっかけは、どういうものだったんですか?
西川:一昨年の『イナズマロックフェス』においてイベント規模をどんどん拡大していく中で、「17LIVE」さんから発展的なお付き合いができないかというご提案をいただいて。その当時はイベント自体もそうですが、たくさんのアーティストの権利関係や隣接権の関係をどうクリアしていくかという問題もあったので、「そのときにできることを」ということでイベント後のアフターパーティみたいな形で配信させていただいたんですが、たくさん反響がありまして。そこから具体的にもっと継続的なお付き合いができないかというところから、この配信につながっていきました。
──具体的にどういう番組をやろうと考えましたか?
西川:いまはいろいろとメディアのあり方みたいなもの、たとえばテレビやラジオとの付き合い方もだいぶ様変わりしてきていますし、そんななかで映像を使った情報発信のプラットフォームはSNSを含めてたくさんあるので、ユーザー側も選択肢が多すぎると感じている。そういう部分を自分自身に置き換えて考えたときに、これまで自分もいろいろとやらせていただいてきたなかで、ラジオはいろんな意味できっかけをくれたメディアであって、そのプラットフォームを「17LIVE」に置き換えてもいいんじゃないかというところから、配信内容が決まっていきました。
──番組を拝見して、おっしゃるように往年の『西川貴教のオールナイトニッポン』を彷彿とさせて、僕は懐かしさを感じました。
西川:まさに、最初はそういった形がいいのかなと思って始めたんです。でも、番組を立ち上げてしばらくして、いわゆる第5波と呼ばれる新型コロナウイルスの感染拡大があって、催し物やいろんなことを中断せざるを得ない状況になりました。依然として思ったように活動ができないなか、この「17LIVE」が僕にとって身近なもので、なおかつみんなと繋がることができる、すごく良いツールになっていた気がしていて。特にリスナーと繋がることに関しては、『オールナイトニッポン』を始めた当時はまだファックスが主流で、そこからメールに変わっていきましたが、いまはコメント機能でリアルタイムのやり取りができるので、これまでの既存メディアのように一方的に垂れ流すものを受け止めていただくというやり取りではない。特に昨年末からはGroup Callという新たな機能をたくさん使って、実際に「17LIVE」を楽しんでいらっしゃるアクティベーターの皆さんとコミュニケーションを取るように変わってきているんです。
それこそ、こういった自由なプラットフォームだからこそフレキシブルに動けると思うんですよ。これがテレビだったら企画を通すための編成会議があって、そこから動くと思うんですけど、「17LIVE」だったら「今日はこうしよう、次回はこうしよう」みたいなことがすぐ反映できる。まもなく僕も全国ツアーが始まりますし、そうするといままでのようにスタジオからの配信ができなくなる、でもできないことが足枷になるくらいだったら一回全部なくして、ほかのライバーと同じような形で配信するシンプルなやり方も試してみたくなる。先日、急遽試してみたんですが、慣れていないから配信している側が何度も退出してしまうトラブルもあったりして(笑)。でも、そういう一つひとつが経験値になって、すごく楽しんでいます。
──テレビやラジオと違い、「17LIVE」はリスナー側もライバーになることができるメディアですし、そういった関係性が番組作りにもダイレクトに表れそうですしね。
西川:そうなんです。僕はまだまだフォロワー数もそうは多くないんですけど、それでもいただく反響の中には僕が「17LIVE」を始めたことで「私も始めました」という方が結構多くて。「何やってるのかな?」って観に行ったりしますけど(笑)、いままでは表に立てる人たちというのはごく一部の限られた人たちだったのが、本当に誰にでもチャンスがあって、自分の意見や自分が届けたいものを自分の思ったように届けられることができるというのは、すごく良いことだと思います。
と同時に、たとえば音源ひとつとってもこれまではレコードメーカーに所属したりとか、担当ディレクターがいたり担当A&Rがいたり、そういったところでいろいろと意見を反映させるなど、自分の作品をみんなのもとに届ける手前に納得しなくちゃいけない過程がいくつかあったと思うんです。でも、「17LIVE」ではそれがないぶん送り手本人の責任であったりとか、それをしっかりと受け止める必要も必ず生じるので、何気ないことですけど皆さんがやってらっしゃることに付随する重みも、以前に比べると各自がしっかりと認識されている気がしますし、批評や批判をすればそのぶん自分に返ってくるということが徐々に常識として、皆さんの意識の中にも植え付けられている印象がありますね。
コロナ禍で歯痒さを感じていた音楽活動 ライブ配信の交流がモチベーションに
──実際に「17LIVE」を使ってみて、面白いなと感じる機能などはありましたか?
西川:ギフティング機能かな。コロナ禍前の、それこそ“イチナナ”時代の印象ですけど、ギフティング機能ってライバーが視聴者の皆さんから、ようは投げ銭してもらうイメージでしたよね。海外ではアーティストや配信者が配信の価値を利益に変えるということが、そんなにネガティブに捉えられていなかったんですけど、日本国内での投げ銭みたいなニュアンスや捉え方にちょっとネガティブなイメージが当初あったように思うんです。でも、このコロナ禍に安心安全を担保した状況で、自分が応援しているアーティストなり配信者を、ギフティングを通じて応援するという共存関係は印象としてずいぶん変わってきたし、そういったものが常識化し始めてきている気がします。
──たとえば、ほかのライバーやリスナーとコミュニケーションを重ねることで得るものもかなりあったんじゃないかなと思うんですが。
西川:そうですね。正直、僕は始める前までは「自分の言いたいことだけ言って、やりたいことだけやって、そこに対して責任は負えません」みたいな方が多いんじゃないかと思っていたんです。でも、それこそGroup Callでいろいろお話すると、本当にこの配信を通じて自分が表現したいことを、本当に信念を持って届けようとしているんだなと再認識するんですよね。
いまは第6波と呼ばれる状況になり始めていますけど、そういったなかでゲストを招くことが難しいのであれば、逆にGroup Callでどんどん対応できて、ゲストの皆さんはその場にいてもらって負担なく番組にも参加していただけますし。それになにより、僕にとっては日頃から応援してくれているファンのみんなと、こうして繋がって話せたりすることは純粋にモチベーションが上がるというか。味方がいてくれたり、応援してくれる人たちが喜んでくれるのは本当にうれしいことなんです。
先日、久しぶりに有観客でしっかりライブができましたが、それまではスタッフがいるカメラの前でその向こうで観てくれている、応援してくれている人がいると想像して精一杯ライブをする機会しかなかったですからね……。以前はエンターテインメントがみんなの支えになっているつもりでやっていたけど、特にこの2年間は何かしたいんだけどすると怒られるみたいな歯痒さが付きまとい、「いままで自分がやってきたことって、独りよがりだったのかな」と思う瞬間すらあって……。
正直、悩まなかった人はいないと思うんです。そんななかで、少なからずこういうふうに配信して、楽しみにしている人たちがいて、それに対しての感想をSNSでやり取りしているのを見たりすると、それだけでも少なからず自分を必要としている人がいるんじゃないかなと思えたのは、やっぱり大きいですよね。まだまだこの状況は行きつ戻りつあると思うので、そういう意味でもみんながどこにいたって同じように楽しめる、こういうプラットフォームはどんどん活用されていくといいなと思います。
──特にライブだとチケットが取れた取れないの問題や、住んでる場所の距離の問題もあり、人によって壁が生じることもありますが、「17LIVE」での番組が始まったことで毎週西川さんと近い距離感で交流することができるのは、ファンの人たちにとっても救われた気持ちが大きかったと思うんです。
西川:そうだといいですけどね。これから昨年予定していたツアーが再開する予定ですが、そうなると日程的に公演後に配信も行うことになると思うので、状況が緩和されているのであれば公演が終わったあとに食事に行った先で、配信を観ているみんなと一緒に打ち上げもできますしね。「今日のライブのあそこがどうだった」とか話したり、そこを踏まえてその次の公演では話した内容を反映したり(笑)。今年は少しずつそういうことができればいいなと思っています。
──ちなみに、これまで交流してみて印象に残ったライバーさんはいますか?
西川:配信の時間帯が夜8時からなので、時差が1時間しかない香港の方とタイムラグなく話せたのは印象的でしたね。
──香港の方というは、12月の配信でご一緒していたゆーすけさんのことですね。
西川:そうです。「本当に香港? 足立区なんじゃないの?」っていうぐらいの感覚で普通にできていたのは、すごく面白かったです(笑)。あとは、サンバをやる姉妹。ギフティングをうまく使っていて、ギフティングがたくさん集まったら衣装がアップデートされていくというわかりやすさは、フォーマットとしてゴールが見えているから応援しがいがありますよね。僕はそれが気になって、ギフティングしてくれるみんなに還元する意味で、ネタを書いて番組を盛り上げてくれた子に対してAmazonギフトを投下していく形を取っていたんですけど、それをしっかりと配信の中で完結している典型的な例だったなと感心しました。