KAC課題曲から気鋭の海外音ゲー曲まで 2021年の「音楽ゲーム楽曲」10選とシーンの変遷

 音楽ゲーム史において、2021年は豊穣の年であったと記録されるかもしれない。国内のアーケード音楽ゲームだけを挙げても、タイトー『テトテ・コネクト』やアンダミロ『クロノサークル』という完全新規IPのリリース、セガ『CHUNITHM』やコナミアミューズメント『SOUND VOLTEX』の筐体ハードウェア変更を伴う大規模リニューアル、後述する音ゲーeスポーツの躍進など話題が盛り沢山。アプリゲームや家庭用作品、海外リリースも含めれば、概況だけでも数記事を要する勢いだ。

 音楽ゲームは文字通り音楽や音楽活動を扱ったゲームであり、その豊穣は大量の楽曲リリースを伴うことになる。いまとなっては過去の一時期となるが、音楽ゲームの音楽という存在は、純粋な音楽として着目あるいは言及される機会が限られる側面があった。

 近年、状況は変わり始めている。たとえば2018年に発刊されたコナミアミューズメントの音楽ゲームシリーズBEMANIを取り上げたムック誌『BEMANIぴあ』内のコラムでは、音楽ゲームとゲーム外の音楽文化の関わりにも触れられた。

 2019年の書籍『ゲーム音楽ディスクガイド──Diggin' In The Discs』(ele-king books)においては、音楽ゲームのサウンドトラックのいくつかが純粋に音楽的な観点でピックアップされた。一例としてコナミアミューズメント『GITADORA』や『pop’n music』シリーズの音楽が、それぞれハードロック〜プログレやネオ渋谷系の文脈でレビューされている。手前味噌ながら、翌2020年の続刊『ゲーム音楽ディスクガイド2──Diggin' Beyond The Discs』には筆者も参加し、音楽ゲーム関連盤のレビューを執筆した。

 また、2021年刊の『ハードコア・テクノ・ガイドブック インダストリアル編』(パブリブ)に収録された、日本のハードコアテクノ史の解説文やRoughSketchの筆によるコラム等では、L.E.D.LIGHT-G「HELL SCAPER」やkors k「SigSig」といった重要楽曲を挙げつつ、音楽ゲームとハードコアテクノの関係についての証言が繰り返し語られている。

 そこで本記事では2021年の音楽ゲーム楽曲群の音楽的側面に注目し、個人的に惹かれた10曲をピックアップしながら、今年の音楽ゲームの概況を語ってみたい。選定基準は「2021年、音楽ゲームに収録された」「2021年、音楽ゲームの公式サウンドトラックに収録された」の少なくともいずれかを満たす楽曲とさせていただく(楽曲自体は2020年以前にリリースされたものや、音楽ゲーム以外が初出のものも含まれる)。

  なお本来であれば、『アイドルマスター』シリーズや『あんさんぶるスターズ!!Music』『ブラックスター -Theater Starless-』などアイドル・キャラクター系の音楽ゲームもまた、音ゲー文化の重要なフィールドだ。しかしそれらは単独でも大いに語られるべき豊潤な音楽文化を有する。そのため本記事で半端に取り上げるのはかえって礼を失すると判断し、今回は誠に勝手ながら選出の対象外とさせていただく。どうかご寛恕下さい。

コナミアミューズメント社の音楽ゲーム

1. 世界の果てに約束の凱歌を

アーティスト:Zutt feat.NU-KO
ゲームタイトル:(BEMANIシリーズ)
メーカー:コナミアミューズメント

The 10th KAC共通課題曲「世界の果てに約束の凱歌を / Zutt feat.NU-KO」

 国内アーケード音楽ゲームの雄・コナミアミューズメントが開催する競技大会、『KAC(KONAMI Arcade Championship)』。その第10回大会予選の課題曲として制作されたのが「世界の果てに約束の凱歌を」だ。

 楽曲は同社所属の音楽プロダクションチームBEMANI Sound Team内のユニット・Zuttが書き下ろし。荒れ狂うピアノ、「pop’n music」シリーズのサウンドディレクションを務めてきたPONと声優・佐伯伊織としても活躍するNU-KOによる情熱的なツインヴォーカル。「今まで歩んできたその歴史を振り返り、そしてこれから迎える未来につなげていく」願いを込めたという、音楽ゲームの2分尺フォーマットに高密度で展開が詰め込まれた疾走ポストロックである。

 楽曲の初出は2020年だが、本年1月に「世界の果てに約束の凱歌を -complete box-」と題したデジタルアルバムの1曲として正式にサブスク配信された。同盤には前出KACの各音楽ゲーム機種ごとに編曲されたアレンジ・バージョンも収録されている。アレンジ担当はOSTER Project、かめりあ、m@sumi、Sota Fujimoriら、同社の音楽ゲームに縁の深い社内外コンポーザーたち。

 『DANCERUSH STARDOM』用アレンジであればシャッフルダンス向けのインストEDM、『GITADORA』向けにはやはりインストのロックフュージョンと、各機種に合わせて精鋭ミュージシャンたちの個性と自由度が全開に発揮された編曲群。BEMANIの「いま」を詰め込んだ博覧会会場と化している。

2. チュッチュ♪マチュピチュ

アーティスト:ななひら,Nana Takahashi,猫体質 by BEMANI Sound Team "劇ダンサーレコード"
ゲームタイトル:(BEMANIシリーズ)
メーカー:コナミアミューズメント

 コナミアミューズメントが不定期に実施する音楽ゲーム多機種の連動企画。2013年の「私立BEMANI学園」、2015年の「BEMANI SUMMER DIARY 2015」などの名企画たちの後輩として新たに列席したのが、今夏に開催された「BEMANI 2021真夏の歌合戦5番勝負」だ。1998年に初代『ポップンミュージック』で歌手デビューしたSana(新谷さなえ)をはじめとする、BEMANIに歌唱提供歴のある28人のヴォーカリストたちが集結。サウンドはコナミアミューズメント/コナミデジタルエンタテインメント内のBEMANI Sound Team人員が担い、いずれ劣らぬ魅力と癖に溢れたヴォーカル曲群による饗宴を成した。

 本稿では、劇団レコードこと広野智章が変名義「劇ダンサーレコード」として提供した「チュッチュ♪マチュピチュ」を選出したい。彼の得意とする民族音楽調はイントロわずか4秒で化けの皮を脱ぎ去り、「マチュピチュちゅきちゅき」「マチュピチュまじ神」などと軽いノリのギャル口調でマチュピチュを賛美しまくる中毒系ディスコの正体を現す。

 ヴォーカルはコンポーザー新井大樹とのユニット・猫大樹名義で『jubeat』を中心に楽曲提供を行ってきた猫体質、かめりあとの名コンビで『beatmania IIDX』『SOUND VOLTEX』等に歌唱を執ってきたななひら、SOUND HOLICとのコラボを中心に約70曲もの作詞・歌唱をBEMANIに提供するNana Takahashiの3人だ。

 「BEMANI 2021真夏の歌合戦5番勝負」楽曲の本稿執筆時点での音源化は、前出の「世界の果てに約束の凱歌を」と同様、アプリゲーム『beatmania IIDX ULTIMATE MOBILE』内の独自サブスクリプションサービス内で配信されたデジタルアルバムのみ。買い切りのDL販売や物理盤のリリースを望みたい。

3. One for All

アーティスト:RoughSketch
ゲームタイトル:beatmania IIDX
メーカー:コナミアミューズメント

【BPL 2021】セカンドステージ第9試合・第10試合 SILKHAT vs レジャーランド / SUPER NOVA Tohoku vs GAME PANIC

 2021年の音楽ゲームの一大トピックが、eスポーツとしての音ゲーの躍進だろう。コナミアミューズメントは『beatmania IIDX』を競技対象としたeスポーツリーグ『BEMANI PRO LEAGUE 2021』(BPL 2021)を実施。最終決戦の配信番組は同接1万人を突破し、『DanceDanceRevolution』『SOUND VOLTEX』へも対象機種を拡大した次シーズンが予告されるなど大盛況を博した。

 セガ/Colorful Paletteも2021年秋、賞金総額130万円を掲げた大会『プロジェクトセカイ Championship 2021 Autumn』を開催している。海外でも、たとえば中国でアーケードゲーム事業を展開するWahlap Tech(华立科技)による賞金付き大会『Wahlap E-sports Championship』では、対象機種にセガ『maimai』が選出されている。

 前出の『BPL 2021』ではHuΣeRとkors kのコラボによるテーマソング、ヒャダインこと前山田健一による応援ソングのほか、リーグを構成する各チームにもイメージミュージックが書き下ろされた。コンポーザーにはBlacklolita、かめりあ、Yuta Imai、MKら、同社の音楽ゲームにも縁の深いハードコアトラックメーカーたちが名を連ねている。

 いずれ劣らぬ佳曲たちの中でも、イメージミュージックとしての魅力でHommarjuによる「Hat Surprise」と並んで群を抜いたのが、RoughSketchがチームROUND1に描き下ろした「One for All」だ。歪んだキックによる極太なビート、キャッチーなシンセメロ、熱狂を高める「One for All!」のコール、どれを取っても高強度な極上のフレンチコアだ。

 『BEMANI PRO LEAGUE』は音楽ゲームのリーグ戦という新たなエンタメ形態のありかたと魅力を示すとともに、同リーグが「新しい音楽が生まれる場」としての機能を音楽ゲームから継承していることをも、華麗に実証してみせた。

各社のアーケード音楽ゲーム

4. 創世のコンツェルティーナ

アーティスト:大嶋啓之
ゲームタイトル:CHUNITHM
メーカー:セガ

 同じく2021年のAC音ゲー界隈における大きな話題といえば、アミューズメント施設向け市場で高い人気とインカムを誇るセガ『CHUNITHM』シリーズの最新作『CHUNITHM NEW』だ。

 筐体仕様をリニューアルし、競合であるはずの他社タイトルともコラボして人気曲の移植を実現するなど、国内AC音ゲー文化そのものを牽引し振興に寄与する一大作品となっている。同作のリリースイベントに合わせて公開されたセガの音楽ゲームチーム代表・コハDこと小早川賢による、アーケード音楽ゲームという存在への想い溢れるメッセージは多くの反響を呼んだ。

 稼働初期の絢爛な楽曲ラインナップから、ここでは大嶋啓之による楽曲「創世のコンツェルティーナ」をピックアップする。大嶋は2005年の美少女ゲーム「少女魔法学リトルウィッチロマネスク」で商業デビュー。ニューエイジ~ワールドミュージックやエレクトロニカをメインジャンルとするコンポーザーで、近年では『天穂のサクナヒメ』のBGMを全曲担当したことでも知られる。

 本作はコンサーティーナ(アコーディオン類似の蛇腹楽器の一種)による郷愁を誘う旋律に包まれる、9/8拍子主体のアイリッシュ・バンドサウンド。アイルランド文化を織り込んだ舞台作品『リバーダンス』や、やはりコンサーティーナが特徴のインストバンドTALISKへのリファレンスをさらりと含ませ、民族音楽の確かな素養と『英雄*戦姫』などの仕事で培われた手腕がいかんなく発揮されている。

5. Ouvertüre

アーティスト:USAO & DJ Genki feat. ルーン(CV:河瀬茉希)
ゲームタイトル:WACCA
メーカー:マーベラス

USAO & DJ Genki feat. ルーン(CV:河瀬茉希)「Ouvertüre」MV

 匿名掲示板コミュニティに端を発し、音楽ゲームに影響を受けた新鋭~中堅アーティストが多く参画、日本発のハードコアテクノ・シーンであるJ-COREの大いなる牽引役となっている音楽レーベル〈HARDCORE TANO*C〉。2019年にローンチされたマーベラスによるAC音ゲー『WACCA』は、このHARDCORE TANO*Cレーベルがサウンドプロデュースを務めている。2021年8月には最新作『WACCA Reverse』へのバージョンアップが成された。

 そのナビゲートキャラクターであるルーンのテーマソングとしてリリースされたのが「Ouvertüre」だ。楽曲の制作担当はHARDCORE TANO*Cクルーの主要メンバーであり、コナミアミューズメント『beatmania IIDX』やセガ『オンゲキ』等にも楽曲提供を行うトラックメーカーUSAOとDJ GENKI。二人は2018年のレーベルツアーでアンセムチューン「Shiny Memory feat. Yukacco」を共作した経歴もある。

 「Ouvertüre」ではキャラクターをヴォーカル名義として台詞を差し挟むなどキャッチーさを醸しつつ、そのサウンドはゴシックなメロに全く遠慮のない重厚なディストーション・キックが効いたド本格ハードコアテクノ。音楽ゲームとの相互作用を保ちつつ現在進行系で進化を続けるJ-COREシーンのポテンシャルと、音楽ゲーム楽曲という独特のフォーマットに特化された構成が掛け合わされた、『WACCA』のマニフェストにして本領を遺漏なく示す逸品。

6. カハタレの鳥

アーティスト:Retro – Rhetorica
ゲームタイトル:CHRONO CIRCLE
メーカー:アンダミロ

『Chrono Circle』 プレイ映像 / カハタレの鳥 (Hard 7+)

 記事冒頭で既述の通り、2021年の国内アーケード音ゲー完全新作としてタイトー『テトテ×コネクト』と並び立ったのが、12月に正式稼働したばかりの『CHRONO CIRCLE』だ。現時点では、ラウンドワン社の運営するアミューズメント施設限定の稼働となることが明かされている。

 本年公開の映画『ディア・エヴァン・ハンセン』に登場したことでも話題を呼んだダンスゲーム『Pump It Up』シリーズで名高いアンダミロ社による、『maimai』『ちくたくコンチェルト』『Lanota』といった先行作を想起させる円形画面が特徴の音楽ゲームである。

 興味深いのがサウンドディレクションの方向性で、なかでも収録曲リスト中でひときわ耳にとまるのが「カハタレの鳥」。退廃と希望という相克する要素をひとときに含有させた文芸の香り漂う歌詞を歌い上げる、ジャジーでプログレッシブな歌モノ変拍子ドラムンベースだ。

 もともと「カハタレの鳥」は、コンポーザーのm@sumiとヴォーカリスト/作詞家として活躍するmami(有形ランペイジ)が制作した楽曲で、2019年にsasakure.UKが主催したイベント『nebulas』で限定販売されたEPが初出音盤。2021年8月にリリースされたフルアルバム『彼岸譚』にも収録されている。

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