KAC課題曲から気鋭の海外音ゲー曲まで 2021年の「音楽ゲーム楽曲」10選とシーンの変遷

2021年の「音楽ゲーム楽曲」10選

家庭用ゲーム(アプリ・PC)

7. Super Oriental Insomniac

アーティスト:fizzd
ゲームタイトル:Rhythm Doctor
メーカー:7th Beat Games

Rhythm Doctor: Super Oriental Insomniac

 もはや音楽ゲームの戦場は日本・台湾・韓国・米国ばかりではない。オーストラリアのSuper Spin Digital『Spin Rhythm XD』(2019年リリース)、マレーシアとペルーの開発者による『A Dance of Fire and Ice』(2019年リリース)、英国発の『Arcaea』(2017年リリース)といった世界各国のデベロッパー・パブリッシャーによる新鋭作が、日本国内でも当然のように遊ばれ、あるいはSteamやiOS/Androidといった国際的プラットフォームで高い評価を得ている。

 その『A Dance of Fire and Ice』の開発元である7th Beat Gamesが、2021年に早期アクセス扱いでリリースしたのが『Rhythm Doctor』。なお楽曲「Super Oriental Insomniac」は2017年のデモ版の時点で収録済であったが、今回はゲームのリリースに合わせてピックアップしておきたい。

 ベースとなっている音楽は東洋的な旋律のEDMだが、なにか様子がおかしい。「楽曲の特定の拍(この曲では7拍目)でボタンを押す」というゲーム上の要請に対して、画面演出に加えて音楽そのものが全力で妨害を仕掛けてくるのだ。グリッチ、ブレイクビーツ、ノイズ、カットアップ、変拍子とその攻勢は熾烈を極め、結果として音楽は先鋭的なドリルンベース~IDMへと変異する。その変貌後の姿がもたらす強烈な違和感こそ、このサウンドの本領にして魅力だ。なお2021年には中国PeroPeroGamesの『Muse Dash』にも、「超・東方不眠症」と改題されて演出ごと移植されている。

 作曲者のfizzdことHafiz Azmanはマレーシアのコンポーザーで、『Rhythm Doctor』ではゲームのコーディングとデザインも手掛けるマルチな才。自らのTwitterアカウントでは、本楽曲後半の高速7/8拍子という趣向について、英国のプログレバンドPorcupine Treeの楽曲「Cheating the Polygraph」からインスパイアを受けたという逸話を語っている。

8. Main Menu Theme

アーティスト:Orzmic Sound Team
ゲームタイトル:Orzmic
メーカー:BTworks

[Orzmic] Main Menu Theme【Music】

 前述の通り盛況を極める世界の音ゲー文化の中でも、中国発の音楽ゲームは『Muse Dash』(2018年リリース)を筆頭として『节奏大师』(2012年リリース)、『MUSYNC』(2014年リリース)、『Nishan Shaman』(2018年リリース)など注目作が目白押しだ。その中国のデベロッパーBTworksから2021年にリリースされたインディー音ゲーが『Orzmic』である。

 『VOEZ』の変動レーンと『Dynamix』の自由度を掛け合わせたような音ゲーで、新興作品ながら11月時点ですでに50万DLを達成したことが明かされている。オリジナル曲の収録にも積極的で、『Cytus II』『Phigros』『MÚSECA』など10以上の音ゲーで名を知られるMYUKKE.ら、日本のDTM系ミュージシャンも多く楽曲を提供している。

 本稿で取り上げた「Main Menu Theme」は音楽ゲームパートでのプレイアブル曲ではなく、ゲーム内のタイトル画面で流れる、いわゆるシステムBGMである。太いシンセと緻密に打ち込まれた電子音を効かせながら緩急を伴うドラムンベース~アートコアを聴かせる、単に背景音として聞き流すには惜しい一曲だ。名目上のアーティストはサウンドチーム名義で、実際の担当コンポーザーは(筆者調査の限りでは)不詳。同じくシステムBGMとして収録された3拍子ハードトランス「Settings Theme」も併せて聴きたい。

9. 안아줘 pit-a-pet

アーティスト:YUKIKA
ゲームタイトル:DJMAX RESPECT V
メーカー:NEOWIZ

💖 Pit-a-Pet

 「最大尊敬」とも俗称される、韓国NEOWIZの『TAPSONIC』シリーズと並ぶ看板タイトルシリーズのPC版。ESTIMATE PACKと称するDLCで7月に配信された楽曲の一つがYUKIKA「안아줘 pit-a-pet」(邦題:「抱きしめて pit-a-pet」)だ。

 YUKIKAこと寺本來可(てらもと・ゆきか)は、韓国発の『アイドルマスター』派生ドラマ企画に日本人として唯一出演したことを契機に渡韓。現地でアイドルグループ活動を続けるうち、やはり韓国のゲーム音楽家にして音楽プロデューサーESTiことPark Jin Baeに見出されて契約を結びソロデビュー。ファーストアルバム「SOUL LADY」(2020)は英国のiTunesストアで1位を獲得した。

 その「SOUL LADY」から、ESTiの音楽レーベルESTIMATE繋がりで『DJMAX RESPECT V』に収録されたのが本楽曲である。シティポップを中心とした80~90sのJPOPを吸収しながら現代流に再解釈、韓国で2017~2019年ごろにブームとなったのちに定着したNewtro(ニュートロ。new+retroからなる造語ジャンル)と呼ばれる路線のダンスポップだ。

 作曲は、やはり韓国のTAKとseibin。TAKは『DJMAX』シリーズや、NEOWIZの開発陣による音楽ゲーム『HIGH5 for Kakao』に楽曲を提供してきた。一方のseibinはESTIMATEに所属するコンポーザーで、『DJMAX』のほか『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』に「サニー ドロップ」や「Palette」を提供したことでも知られる。

10. EMPTY DIARY

アーティスト:peak divide & Rachel Lake
ゲームタイトル:UNBEATABLE
メーカー:D-CELL GAMES

UNBEATABLE OST - EMPTY DIARY by peak divide & Rachel Lake

 『キルラキル』『プロメア』などで知られるアニメスタジオTRIGGERにインスパイアを受けたというグラフィックデザインが印象的な海外PC音ゲーの注目作『UNBEATABLE』。全曲オリジナルをうたう楽曲は、米国ユタ州のユニットpeak divideが書き下ろし、ヴォーカル曲はRachel Lakeが歌唱参加している。

 peak divideは「アニメロックバンド」を自称するが、実際は2000年代以降の色が濃いオルタナティブロック。なかでも一聴をお勧めしたいのが、イントロからキャッチー溢れる叙情メロを伴ってドリームポップに接近する疾走ギターロック「EMPTY DIARY」だ。

 現代の多様化した音楽ゲーム文化の中でも、オルタナ系のバンドサウンド、特にドリームポップ~シューゲイザー成分の存在感はそれほど濃いわけではない。「バンドやろうぜ!」等のメディアミックス系~アイドル系音ゲーを除けば、一定以上のペースでその類の音楽が出現する音楽ゲームは限られる。

 実例としてはコナミアミューズメントの『pop’n music』『GITADORA』シリーズや、コナミデジタルエンタテインメントによる音ゲーと距離の近い企画『ひなビタ♪』『バンめし♪」などにわずかに見られるくらいだ(2021年にはバンド演奏VR音楽ゲーム『BEAT ARENA』も同社からリリースされたが、今後の展開は未知数である)。そのような中で、魅力あるオルタナ系ロックが多く書き下ろされる本作のようなゲームが出現したことは喜ばしい。

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