2021年を代表するバーチャルシンガー・HACHIに聞く音楽的ルーツ 「参考にしているのは、玉置浩二さんとLiaさん」
バーチャルライブ配信アプリ「REALITY」から活動をはじめ、圧倒的な歌唱力と感情に訴えかけるような表現力で、オリジナル楽曲やワンマンライブを成功させたVirtual SingerのHACHI。2021年、最も飛躍したバーチャルアーティストのひとりといっても過言ではないだろう。
彗星の如く現れた彼女は、パワフルな歌声と馴染みやすいキャラクターとのギャップが印象的ではあるが、いまだに謎が多い。彼女がVirtual Singerとしてどのようなルーツを辿って来たのか、そして今後の展望について話を聞くことができた。(森山ド・ロ)
「ここで歌うの面白そうだな」から始まった音楽人生
ーーHACHIさんが歌(音楽)を始めたきっかけはなんだったんですか?
HACHI:そもそも母親が音楽好きで、よくカラオケに連れていってもらったり、子守唄がJ-POPだったりと、昔からたくさん音楽に触れてきました。私も自然と音楽を聴くようになり、歌詞がすごく好きになったり、常に鼻歌を歌っていたりしたんですが、音楽を仕事にはしていなくて、ただ趣味でカラオケをやっているだけでしたね。
ーーそこからどうやってバーチャルの世界に飛び込んだんですか?
HACHI:REALITYというアプリを偶然発見して、「ここで歌うの面白そうだな」と思ったんです。そこからすぐにインストールして、配信しているうちに水谷さん(RK Music)から声をかけていただきました。
ーーREALITYを始める以前から、VTuberやバーチャルタレントのカルチャーについては知っていたんですか?
HACHI:VTuberさんの動画は見ていて、「面白そうな世界だな」と思っていました。
ーー歌配信における対応力はカラオケで培ってきたものなんですか?
HACHI:カラオケがメインですね。あと、「これ歌って!」みたいなコメントを断るのが嫌いなので、どうにか歌ってみようかなって思っちゃいます。だから1番だけ歌える曲が多いんですよ。人からリクエストされた分、知らない音楽にも触れることができるじゃないですか。だから「これ歌ってみてほしい」というリクエストは積極的に受けるようにしていたら、対応できる曲が増えましたね。
ーーこれまで投稿してきたカバー曲の選曲基準はあるんですか?
HACHI:完全に好みですね。その時流行っている曲とかではなくて、自分が聴いてこれは歌えそうだなとか、これは楽しそうだなとか、そんな感じで選んでいます。周りが歌っているかどうかはあまり気にしないですね。バラードが得意なんですが、落ち着いた曲は配信で歌うことが多くて、カバー曲はどちらかというと自分が歌ってみたい曲、チャレンジしてみたい曲を選ぶことが多いです。そこまで深く考えているわけではなくて、「これ歌ってみたいから歌おう!」という感じですね。
ーーオリジナル曲はどうやって出来上がっていくんですか?
HACHI:オリジナル曲はタイアップではない限り、「こういう感じにしてください」と細かくリクエストしています。それこそ1stシングルの「光の向こうへ」は、自分の過去の体験談というか、自己紹介的な曲になっているんですよ。“一人の夜に寄り添う”というのがテーマになっていて、以前、夜眠れないことがよくあったので、その体験をもとに描いています。「明日が来てほしくないな、寝ちゃったら明日が来ちゃうな」と考えてしまって。そんな夜は音楽を聴きながら寝ていたんです。その時に音楽に救われたといっても過言ではなくて、自分も、元気がない人や、落ち込んでいる人を無理やり引き上げる音楽ではなく、寄り添う音楽を歌いたいと思って「光の向こうへ」を作ってもらったんですね。2ndシングルの「Rainy proof」は、失恋曲なんですけど、失恋のシチュエーションを私が先に考えて、それをテーマに曲作りをお願いしました。
ーー「Rainy proof」は聴いていて、没入感がすごい曲だなと思いました。
HACHI:「この曲を聴いたら、みんなHACHIの元彼になる」みたいなことはよく言われますね(笑)。
ーーオリジナル曲の制作は、これからも同じスタンスでやっていくんですか?
HACHI:そうですね。これからは自分のことを歌うというよりは、一曲ごとに物語がある楽曲を作っていきたいなと思っています。「Rainy proof」や「八月の蛍」は、私の話ではなく、私がとある世界線のとある二人の話を歌っているので、そういったストーリー性のある曲も歌っていきたいですね。
ーー影響を受けたアーティストや音楽について教えてください。
HACHI:私はこれまでアルバム単位で楽曲を買ったことがほとんどなくて、唯一CDで買ったのがヨルシカさんの『だから僕は音楽を辞めた』なんですよね。パソコンやCDコンポを持っていなかったこともあり、それまでは曲単体で聴くことが多くて。私、基本的に夏の曲が好きなんだと思います。それでヨルシカさんが好きというのもあるかもしれません。あとは、1曲ごとにストーリー性があって、書かれる歌詞が詩的というか文学的な部分も好きです。文学的といえば、カンザキイオリさんの曲も好きですね。
ーー少し意外でした。
HACHI:ほかには、奥華子さんや失恋系の曲もすごく好きです。恋愛の曲は、どっちかというと実るよりも失恋を歌いたいです。嬉しいよりも悲しい、楽しいよりも寂しいみたいな。苦悩したり葛藤したりしている感情の曲が好きですね。
ーー音楽活動をしているバーチャルタレントの方で、特にこの人が好き、というのはありますか??
HACHI:VTuberは、AZKiちゃんが大好きです。歌声が好きで、瀬名航さんが書かれている「いのち」がお気に入りです。生歌が本当に素晴らしくて、抑揚や感情がバシバシ伝わってくる歌声が本当にすごくて……。先日、ついにオープニングアクトとしてライブに呼んでいただいたのですが、最高でしたね。「真横で推しが直に音楽浴びせてくる!」ってずっと感動していました(笑)。
ーーHACHIさんも感情や抑揚をつけた歌のスタイルという印象は強いです。
HACHI:歌の抑揚やブレスによって、聴いていて情景が浮かぶような曲が好きなので、それを言葉じゃなくて歌で伝えていきたいという思いはあります。自分が歌う時は、ビブラートとか、息の吸い方とか、ここは少し遅らせて歌うとか、いくつか細かいカードを持っていて、それをカードバトルみたいな感じで組み立てるように歌っています。
ーーそれはレコーディングの時に色々試しているんですか?
HACHI:レコーディングの時は、楽譜にめちゃくちゃ書きこむタイプなんです。「ここは止める」とか、「一人でいる寂しさを歌うように」とかメモを書いたりしています。
ーー色々試して、客観的な意見も聞きながら決めていくんですね。
HACHI:そうですね。でも結構録り直すタイプで(笑)。レコーディングの時は本当に申し訳ないんですけど、スタジオでみんなが「これでいいんじゃないですかね」って話している中で、「もう1回いいですか?」とか言っちゃうんですよ。だからスタジオ録音のように、ある程度時間に制限がある状態じゃないと終わらないんですよ。宅録だったら無限に録り直しちゃうので(笑)。
ーーでも、毎回最終的には納得できる着地点に到達するんですよね?
HACHI:たまにですね(笑)。納得がいかなかったら「これでいいよね…...?」と他の人に聴いてもらって初めて納得する、というのを繰り返していますね.。