AZKiマネージャー・ツラニミズに聞く“VTuber文化に必要なもの” 「目が外に向いているから、ブレずに進める」

AZKiマネ・ツラニミズインタビュー

 2018年11月15日より活動を開始し、8か月連続オリジナル楽曲リリースを始め、これまで4度のワンマンライブを開催するなど、これまで精力的に活動を行ってきた「イノナカミュージック」所属のVSinger・AZKi。彼女を語る上で、マネージャーであり、イノナカミュージック主宰であるツラニミズ氏を外すことはできない。

 これまでVTuberという狭いようで広いカルチャーの中で、突出した活動と誰も思いつかないような企画やライブでAZKiの軌跡を演出してきたツラニミズ氏に、マネージャーとしてこれまでの活動を振り返りながら、VTuberカルチャーに対する思いや、今後の活動に対して話を聞くことができた。(森山ド・ロ)

「きっかけは、完全に渡辺淳之介さんオマージュ」

VSinger・AZKi

ーーVTuber業界に入ったきっかけはなんですか?

ツラニミズ:「新しいオタクの楽園が生まれそうだ」と思ったからです。VTuber業界やVR周りの技術には、インターネットが誕生してからカルチャーとして普及していく流れの再来を感じて、魅力的に見えたんです。インターネットが始まった時に1番インターネットをやっていたのって、間違いなくオタクだと思うんですよ。実生活で自分の周りには、自分の好きなものを共有できる人とか共感できる人がいないけど、インターネットを通して、場所とか時間関係なく、自分の好きなものを共有できる人がいることの素晴らしさが、インターネットの黎明期にはあったなと。

 それを1番はじめに見つけて盛り上げてきたのは当時のオタクで、2000年代後半からSNS(スマホ)の普及が進んでいって、一般の人たちもインターネットに近づくことになって、元々オタクの楽園だったのが、気づいたらオタクの楽園じゃなくなっていった結果、オタクは外に出てリアルのアイドルを応援する、みたいな流れがあったと思うんですよ。そんな中で、また新しくオタクが仮想世界やバーチャルアバターみたいな魅力を見つけて集まり始めた時に、「これってインターネットが盛り上がる時と同じ歴史の繰り返しが起きるんじゃないか」と思って、それがすごく面白そうだと感じたからこそ、この業界に興味が湧きました。

ーーなぜAZKiさんのマネージャーとして活動することになったんですか?

ツラニミズ:きっかけは、完全に渡辺淳之介さん(BiSHなどのマネジメントを手がける、株式会社WACKの代表取締役)オマージュですね。僕は元々アイドルがずっと好きで、特にプロデューサー的な立ち位置の人に興味があって、WACKの活動を見守るようになりました。特に感銘を受けたのは映画『劇場版 BiS誕生の詩』のパンフレットに掲載されていたインタビューで、渡辺さんは「プロデューサーはプロジェクトが良くないと離れられるけど、マネージャーって一蓮托生で、アーティストが売れなければ自分も死ぬみたいなヒリヒリ感がいいんですよね」と言っていて。それぐらいの背負い方をしないと、才能を持っている人の時間を預かる上で、背負う覚悟の重さが変わってくるんじゃないかと思ったんです。だからこそ、自分への縛りみたいなものなんですが、プロデューサーとしてプロジェクトに携わるんじゃなくて、AZKiという人そのものに携わりたいなと思ったので、マネージャーという立場を取っています。

1stワンマンライブ『The Shitest Start』より

ーー確かにVSingerはたくさんいますが、AZKiさんとツラニミズさんのような関係性を持つチームは少ない印象があります。もっとこういう形式が増えるべきだと思いますか?

ツラニミズ:いや、ぶっちゃけ効率悪いと思いますよ(笑)。結局、いろんな人が言っているように、VTuberやVSingerって、リアルなアーティストよりもコストがかかるんですよね。そのぶんビジネスとしては、スピート感を出していかなくてはいけないし、なんだったら1組をずっとやり続けるよりも、複数プロジェクトをやったほうが絶対に生産性が上がります。なので、ビジネスの観点から見れば効率は良くないですし、だからこそ増えることはいいこと、とは言い切れないんですよ。

ーーとはいえ、今のマーケット的には「質より量」でやっているところもあるのかなと。

ツラニミズ:過去のアイドル戦国時代の歴史を遡った時に、今でも最前線で活動しているアイドルグループに紐づいている要素は“複数のグループを運営していること”なんです。48グループ、坂道、ハロプロ、WACKは、1グループだけじゃなくて、複数のグループを運用して抱えていますよね。結局、複数のチャネルを持つことによって、1個のチャネルで引っかかった人がクロスでファンを共有化できて、違うところに流していくことができるから効率がいい。ただし、量を増やせばいいということではなくて、共通の思想やクリエイティブコントロールができていることを踏まえたうえでチャネルが増えることが重要な気がしていて。質を伴った量が増えることが大事なのかなと思います。

ーー質のある量を作ることによって、自分たちの経済圏を持てるし、新しいことをしようと思っても、理解のある人たちが最初から支えてくれる環境ができるからこそ、冒険もしやすいのかもしれません。

ツラニミズ:そうですね。ファンの土壌があるからこそ発射角が高くできる、ということにも紐づいてくると思います。

ーーそもそも、AZKiのマネージャーとして活動するにあたって、最初に描いていたアーティスト像はどんなものだったんですか?

ツラニミズ:これは本人とも1番はじめに話したことで、ちょっとメタ的な話になってくるんですけど、当時のVTuberって、結構設定が分厚かったんですよ。だからこそ、その決めごとをあえて作らないようにしよう、と。アーティスト像が固まるのって圧倒的に分厚いコンテキストをぶつけて理解してもらうパターンと、ファンが作るパターンの両軸があると思っていて、1回目か2回目の打ち合わせをした後、すぐにAZKiから「せっかくやるんだったらオリジナル曲を作りたい」って連絡があって、なるほどなーと思いました。デビュー直後に12曲作ったあの期間って、1番最初は想定していなくて。なんだったらちょっと時間を見て、ゆっくりオリジナル曲とかを考えていこうと思っていたんですけど、本人からそういう話が来たので「ライブを2時間オリジナル曲でやれるとこまで、一気に詰めていったほうがいいな」と思ったんです。

 あと、ちょうどそのタイミングでキズナアイさんのライブが発表されたこともあって、今後はVTuberのリアルイベントが増えてきて、VSingerとしてのライブも多くなっていくと考えたときに、アーティスト像を作り上げるうえで1番重要なコンテンツとして、人の楽曲(カバー)よりも、自分たちの楽曲があることはめちゃくちゃ重要だよね、とも話しました。

ーー確かにあの時期くらいから、VTuberのリアルイベントが増え始めてきた印象がありますね

ツラニミズ:ライブをいっぱいやってても、持ち曲が少ないと、それらを全部歌って終わりになっちゃうんですよね。それって現場を重ねるにあたってのバリューに繋がらないじゃないですか。僕は、ライブに行って「この曲今日は聞けなかったな」「この曲久しぶりに聞いたらやっぱよかったな」みたいな会話がファンの間で生まれることがめちゃくちゃ重要だと思っていて、そこを作るためには、曲の量を増やさないといけないと。

 そもそもの話をすると「1人ひとりに音楽を届けて、ちゃんとその人たちの心に残る存在になり続けよう」という話をしたうえで「ライブごとに表情が変えれるような空気感を作るために、いっぱい曲を作ろうか」とも話した記憶があります。

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