かつてデュエリストだった君たちへ 『Inscryption』レビュー

『Inscryption』をプレイすべき理由

 じつは『Inscryption』はカードゲームとして、出来が良いわけではない。最初こそルールを学び、カードを覚え、敗北を繰り返しながら戦略を学べるものの、明らかに強すぎるコンボ、凶悪なシナジーを習得し、ゲームをより簡単に攻略できてしまうことだろう。すでにデジタルカードゲームとして成功した『Hearthstone』や『Slay the Spire』をプレイしていれば、一層そう考えるはずだ。

 しかし、子どもたちが「遊戯王オフィシャルカードゲーム」ではなく「遊戯王ごっこ」をしていたように、『Inscryption』の狙いもまた、単なるカードゲームではない。むしろ、ゲームマスター側からあからさまに提示される「レアカード」の存在や、強力コンボを見つけた時のリアクションを見れば、子どもが小さな頭脳でひねり出した”最強のカード”を探り出した記憶、つまりはデュエリストとしての自我を追体験する作品なのではないか、と思う。

 本作は、カードゲームであると同時に、ビデオゲームの中でアナログゲームをプレイするメタフィクションであり、ゲームマスターから脱出を試みるアドベンチャーゲームであり、得体のしれない呪術的・グリッチ的な演出はホラーゲームでもある。これら複合的な体験をもって、この世界にある体験は「デュエル」にほかならない。

 よってプレイヤーはいつしか封印されしファラオのようにこのゲームを直ちに理解し、おそらく自分が想像するよりも簡単にこの闇のデュエルから脱出し、相手に勝利を突きつけることができるだろう。しかしそれは、実のところこの作品のほんの一部に過ぎない。驚くべきことに、まるでアニメ『遊戯王』が『遊戯王GX』へと移り変わったように、この作品の舞台もまた移り変わっていく。もうこれ以上は語る必要もないだろう。

 そして最後までプレイした方は、きっと気づくだろう。『Inscryption』は全世界のデュエリストと、かつてデュエリストだった子どもたちへ捧げられた、敬虔な祈りそのものであったと。

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