AIと音楽家はどう共存する? 世界最大のAIプラットフォームの例から考える

 AIの台頭で音楽業界が様変わりしていくことが予想されている。イーロンマスクが共同創業者として参加しているOpenAIのJukeboxの登場をもって、ほぼ人間の介入なしでの創作活動が現実味を帯びるなか、音楽の創作活動においてAIはどうあるべきなのだろうか。

 マレーシアの現地紙「Malay Mail」によると、個々の作曲家の創作活動はAIにとって代わられるのではなく、よりパーソナライズ化されたものとなり得るという。商用、非商用を問わず、SoundrawやMubertといった革新的なAI作曲ツールを使って曲のループを生み出せるようになった現状を鑑みたうえで出した見解だ。

 上記のSoundrawとは楽曲の長さや構成、使用する楽器、テンポなどを自由自在に設定しながらコンテンツに合った音楽を生成可能なAI作曲ツール。一方のMubertは意図を汲み取るとともに、テンポ、長さといった細かな点にも気を配りつつ、ロイヤリティーフリーの素材を使ってコンテンツに合った音楽を生成可能。仕様や方向性に若干の違いがあるものの、主体である人間を尊重し、作曲家の創作活動を陰ながら支え得るツールであることには変わりない。アマ・プロを問わず、創作活動のためにそれぞれに適したサービスを提供可能であるとマレーシア紙は見ている。

 音楽業界におけるAIの在り方をめぐっては、世界最大のAIプラットフォーム「Loudly AI Studio」を運営するドイツ・ベルリンの音楽系スタートアップLoudlyの創業者兼CEOのロリー・ケニー氏もまた非常に示唆に富んだ見解を示している。AIは作曲家とともにある音楽業界の飛躍的成長のカギを握っており、従来の音楽に対する相補的な存在として音楽を強化していくことになるだろうと言及している。

 ケニー氏自身、若い頃から音楽に人生を捧げてきた一人である。10代は音楽に没頭し、20代前半にはアートロックバンドでの活動に従事。アーティストとしてアルバムを数枚リリース、念願の北米ツアーも実現した。その後、テック分野への関心が芽生えたことをきっかけに、Trip AdvisorやOrange France-Telecomなどの世界大手のテック企業での就業を経て、今後はアーティストのキャリアを掘り下げていくことを決意。Just Add Music(JAM)の取締役に就任するとともに、2020年、Loudlyを設立するに至った。

 Loudlyが運営するLoudly AI Studioは800万単位にも及ぶ曲のトラックを用いて学習済みのAIを搭載。たった5秒で商用、非商用を問わずニーズを充足した動画をカスタマイズでき、複雑な音楽の作曲も可能だ。

 Loudlyに関して特筆すべきことと言えば、プラットフォーム上でロイヤルフリーの音楽を提供している点である。2021年3月1日現在、12万点のロイヤルフリーのオーディオファイル、4千点のロイヤルフリーの曲を蓄積。アマの音楽家が容易にロイヤルフリーの音楽素材を使ってカスタマイズ可能な体制を整えることで、クリエイターを取り巻くお金の流れを変えたいという切実な思いがあったという。

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