細田守監督が照らし返すインターネット20年史 『ウォーゲーム』『サマーウォーズ』『竜そば』から読み解く

細田守監督が照らし返すインターネット20年史

2009年:SNS時代の到来

 2009年公開の『サマーウォーズ』は、『時をかける少女』で高い評価を獲得した細田監督の初のオリジナル企画の長編映画で、興行収入16億円を超える大ヒットを記録し、ヒットメイカーとして大きく飛躍することになった作品だ。

『サマーウォーズ』(c)2009 SUMMERWARSFILM PARTNERS

 『サマーウォーズ』の公開年前後は、日本のインターネットが大きく変化した時代だった。具体的には「SNSと動画配信の台頭」だ。

 2021年現在もSNSの代表格であるTwitterとfacebookが日本で普及し始めたのが、ちょうどこの頃である。両サービスともに2008年に日本語版をリリースしており、翌年には有名人アカウントが増加し始めた。また、津田大介氏が『Twitter社会論 新たなリアルタイム・ウェブの潮流』(洋泉社)を出版したのも2009年だ。

 動画配信サイトの隆盛も同時に起きていた。YouTubeはすでに定着し始めていたが、日本製の動画サイト「ニコニコ動画」やUstreamなどが生放送を可能にし、新たな時代のメディアとして注目を集めていた。

 これらのサービスの登場は、社会を変革する大きな可能性として期待されていた。リツイート機能を持つTwitterの強力な拡散力は既存メディアを脅かし、「実名制」のfacebookは責任ある発言と健全なコミュニケーションを促進すると期待され、Ustreamとニコニコ生放送はテレビ局の専売特許だった生放送を一般化した。SNSは社会を変える、そんな雰囲気が漂っていた時代だ。

 それを端的に証明するかのように、アメリカではSNSを駆使して選挙活動を行ったバラク・オバマが史上初の非白人の大統領となった。日本でも既得権益を民衆の力で打破できるのではないかという空気がネット上には生まれつつあった。

 『サマーウォーズ』はそんな時代に、AIの暴走による世界の危機を描いた。OZの世界にペンタゴンが放った実験用のAI・ラブマシーンが暴走し、世界を危機に陥れる。ここでの敵となるのは、『ウォーゲーム』同様、架空の人工知能である。

 両作品とも相手が人間でなく、その脅威を食い止めるのは人間たちのつながりである。夏希と健二は親戚たちや祖母の人脈、そしてOZのユーザーたちの助力を得てラブマシーンを打ち倒すという流れになるが、ここでは割と楽天的にネットユーザーを性善説的に捉えられており、人と人をつなぎ、その集合が大きな力になることを描いていると言えるだろう。それはまさに、SNSが切り開いた、人と人を大量につなぐことの可能性が肯定されているとも言えるかもしれない。

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