AirTagがストーカー防止機能を強化 Android版検出アプリも今年後半にリリース

AirTagがストーカー防止機能を強化

 4月末に発売されたApple製忘れ物防止タグAirTagがアップデートすることがわかった。今回のアップデートは、発売直後から指摘されていた仕様上の弱点を改善するものだ。しかし、アップデートしても完璧になるわけではなさそうだ。

警告タイミングがランダムに

 CNETは3日、AirTagのアップデートが始まったことを報じた。今回のアップデートによって、ユーザから同タグが離れてから3日後に通知が表示される仕様が、8~24時間以内のランダムなタイミングで通知されるようになる。

 Appleの公式サポートページによると「知らないうちに追跡されることのないように、自分のものではないAirTagをしばらく持ち歩いていることがわかると、「探す」が教えてくれます。AirTagが持ち主から長時間離れたままになっていると、動いたときにAirTagで音が鳴り始めるので、iOSデバイスを持っていない人でも見つけることができます」、とのこと。この仕様は、AirTagを使ったストーカー行為を防止するためのものだ。そして、通知と警告音が鳴り始めるタイミングがアップデートによって変更されたのである。

 iOS/iPadOS 14.5 以降を搭載したiPhone、iPad、またはiPod touchのユーザであれば、自分のものではないAirTagが近くにあった場合、3日経過後には「あなたが所持中の AirTagが見つかりました」というメッセージが表示される。しかし、当然ながら、Androidユーザにはこうしたメッセージは表示されない(警告音は鳴る)。

 Appleは、Androidユーザにも安心してもらうために、Andoridでも以上のような警告メッセージが表示されるようにするAirTag検出アプリを開発中であることを明かした。このアプリは今年後半にリリースされる予定だ。

ストーカー行為を実験したところ...

 AirTag発売後から1ヶ月程度でアップデートが実施された背景には、同タグを使った悪用の可能性が発売直後から指摘されていたことがある。こうした指摘に関して、Engadget日本版は5月7日付の記事でワシントンポスト紙の記者が行った実験結果を報じている。

 ワシントンポスト紙でテック系記事を担当しているジェフリー・ファウラー記者は、AirTagを購入後、同僚の協力を得て同タグを使った追跡実験を実施した。実験内容は、同僚が所有するAirTagをファウラー記者が1週間持ってあちこち移動してみる、というものだった。

 実験の結果、まず判明したのはAirTagの位置情報検出能力が極めて高いことだった。ファウラー記者の位置は数分に1回のペースに更新され、同記者が自宅にいると同僚は正確な住所を把握していたのだった。

 実験開始から3日後、仕様通りに警告メッセージが表示された。しかし、警告音はあまり大きな音では鳴らず、AirTag本体にクッション等で圧力をかけると音が止まってしまった。

 もっとも大きな懸念点は、そもそも本来の所有者から3日間離れないと警告メッセージが表示されない仕様にあった。この仕様は、3日間はストーカー行為が可能であったことを意味する。

 今回のアップデートで、警告メッセージが8~24時間以内のランダムなタイミングで表示されるように変更された。この変更は、悪用される可能性がある時間を大幅に短縮すると同時に、悪用できる期間を事前に把握できないようする効果がある。それゆえ、アップデートによってAirTagのストーカー行為抑止機能は強化されたと言えよう。

熟知している窃盗犯には無力

 AirTagの本来の役割は、ユーザが財布や鍵といった持ち物をどこかに置き忘れた時にそのありかを知らせてくれることにある。こうした役割に対して、持ち物が誰かに盗まれた時、窃盗犯を特定して盗まれたものを取り返せるのではないか、と期待するのは当然であろう。

 Apple製品専門ニュースメディア『iMore』は2日、AirTagを入れた財布を盗まれたユーザの体験談を報じた。英語圏最大の掲示板サイトredditのユーザ名「u/alumpypieceofpoop」が書きこんだところによると、定期的に通うジムに行った時、普段は車のなかに財布を保管しておくのだが、誤って財布をジムに持ち込んでしまった。AirTagが入ったその財布はGUCCI製で現金100ドルとクレジットカード2枚、そして免許証も入っていた。案の上、財布は盗まれてしまった。

 AirTagが通知する位置情報を調べると、財布はジムを出てニューヨークのとある地下鉄の駅で移動が止まった。窃盗犯はAirTagの存在に気づいていないのではないか、というかすかな期待を抱きながら、地下鉄駅に行ってみるとAirTagだけが線路のうえに捨てられていた。窃盗犯はAirTagの存在に気づいて、移動途中に放り投げたのだろう。こうしてAirTagだけを回収できた。

 以上の体験談から学べる教訓は、AirTagを持ち物につけても、同タグを熟知している悪人の手に渡ってしまえば、持ち物は回収できないことだ。回収に成功するのは、善人の手に渡るか、AirTag所有者本人が見つける場合に限られそうだ。

 AirTagは、忘れ物防止タグの市場でトップシェアを獲得するポテンシャルがある。そうしたポテンシャルがあるにしても、AirTagの能力を過信しないほうがよいだろう。テクノロジーが進化しても、忘れ物をしないいちばんの対策は、所有者本人が忘れ物をしないように気をつけることなのだ。

トップ画像出典:AirTag公式ページより画像を抜粋

■吉本幸記
テクノロジー系記事を執筆するフリーライター。VR/AR、AI関連の記事の執筆経験があるほか、テック系企業の動向を考察する記事も執筆している。Twitter:@kohkiyoshi

〈Source〉
https://www.cnet.com/news/apple-bolsters-airtag-privacy-measures-to-offer-android-detector-app-later-this-year/?PostType=link&ServiceType=twitter&ftag=COS-05-10aaa0b&UniqueID=7F9B6674-C494-11EB-B7F4-84C54744363C&TheTime=2021-06-03T17:52:43
https://support.apple.com/ja-jp/HT212227 (AirTagの公式サポートページ)
https://japanese.engadget.com/airtag-anti-stalker-insufficent-030015066.html
https://www.imore.com/someone-used-airtag-track-their-stolen-wallet-there-was-no-happy-ending

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