『ファミリージョッキー』から『ウマ娘 プリティーダービー』まで――“ウマのゲームミュージック史”を振り返る

家庭用競馬ゲーム リリースラッシュ

競馬貴族

 90年代の家庭用競馬ゲームのリリースラッシュは目を見張るものがあり、ゲームボーイで約20本、スーパーファミコンで約30本、プレイステーションとセガサターンで合わせて70本近くのタイトルが発売されたが、サントラCDが制作されたタイトルは前述の『ダービースタリオン』『ウイニングポスト』『ギャロップレーサー』のみであった。未音盤化だが音楽面で注目したいタイトルをいくつかピックアップしたい。キングレコードから1993年8月に発売されたゲームボーイ用ソフト『勝馬予想 競馬貴族』は、シンガーソングライターの畑亜貴が音楽を手がけた競馬予想ソフト。1992年にフリーランスの音楽家として独立後、コナミの『魍魎戦記MADARA2』『ロケットナイトアドベンチャーズ』などの音楽制作に携わっていた頃の一作であり、ゲームタイトルのイメージを優雅な響きで表現した楽曲は畑のソロアルバムの作風にも少なからず通じるものがある。

ダービージョッキー

 かつてはゲーム開発も手がけていたアスミック(現・アスミック・エース)は、『馬券王』シリーズで早くから競馬ゲームに参入したメーカーだ。1994年2月に同社から発売されたスーパーファミコン用ソフト『ダービージョッキー 騎手王への道』は、GRC(グラフィックリサーチ)の職人的サウンドチームが音楽を制作したジョッキー育成シミュレーション。鈴木陽子、益子重徳らによるポップでハリのあるフュージョンサウンドは、当時のスーパーファミコンの競馬ゲームの中でも頭一つ抜きん出た印象だ。鈴木と益子が引き続き参加した『ダービージョッキー2』(1995年9月発売)では、後にコナミで『ZONE OF THE ENDERS』シリーズ、プロキオン・スタジオで『ルミナスアーク3 アイズ』などの音楽制作に携わる桐岡麻季がサウンドディレクター(兼コンポーザー)を務めた。牧歌的な色合いがグッと増しており、こちらも充実の内容だ。

Maki Kirioka Interview: From Konami to Procyon Studio
【VGMO -Video Game Music Online-|2010年3月15日掲載】
http://www.vgmonline.net/makikiriokainterview/

 1995年に音声実況付き競馬メダルゲーム『GI-CLASSIC』(後述)を発表したコナミは、1996年3月にスーパーファミコン用ソフト『実況競馬シミュレーション ステイブルスター 厩舎物語』を発売し、家庭用競馬ゲームにも参入した。1997年3月にはプレイステーション用ソフト『Breeding Stud ~牧場で逢いましょう~』を発売。音楽は、翌年に『みつめてナイト』でサウンドディレクターを務め、その後BEMANIシリーズで名を馳せる村井聖夜が手がけ、ハートウォーミングなメロディが紡がれる牧場の四季の楽曲がとりわけ素晴らしい仕上がりだ。続く『ブリーディングスタッド2』(1998年7月発売)では『悪魔城ドラキュラ』シリーズなどで知られる山根ミチル、『ブリーディングスタッド'99』(1999年11月発売)では大園哲也(現・Magical Garden Entertainment代表)が、アコースティックな音楽性を継承した。

『ファイナルハロン』

FINAL FURLONG

 ナムコ(現・バンダイナムコアミューズメント)は90年代半ばにアーケードでスポーツ体感シミュレーションシリーズを精力的に展開した。スキーをテーマにした『アルペンレーサー』、スノーボードをテーマにした『アルペンサーファー』、人力飛行機をテーマにした『プロップサイクル』、水上バイクをテーマにした『アクアジェット』に続いて1997年7月に稼働した『ファイナルハロン』は、馬の形をしたライドにまたがるジョッキー体感ゲーム。音楽はOtotoこと高橋みなもが担当。現在はバンダイナムコ研究所のサウンドクリエイターとして技術開発に携わる高橋が、入社2年目に手がけたタイトルが本作である。アメリカ南部の草競馬をイメージし、全編でバンジョーをかき鳴らしたカントリー調サウンドは、かつての『ファミリージョッキー』から地続きなイメージだ。1997年10月リリースの『ファイナルハロン アーケードサウンドトラック 007』には、ボーナストラックとして実況中継入りヴァージョンやリミックス、村中靖愛のバンジョー&ペダルスティールギターと岸本一遥のフィドル演奏によるアレンジヴァージョンが収録されている。1998年3月には続編『ファイナルハロン2』が稼働。『エアーコンバット22』『タイムクライシス』『アルペンレーサー2』など、アーケードゲームを中心に手がけていた中村和宏と、ナムコ入社1年目の中鶴潤一がサウンドに携わった。

遊びの力は社会を変えることができるのか? バンダイナムコ研究所に聞く”FUNGUAGE”というデザイン戦略
【Real Sound|2020年6月12日掲載】
https://realsound.jp/tech/2020/06/post-567565.html

『GI』シリーズ

 競馬ゲームの歴史において、競馬メダルゲームは避けて通れない存在だ。コナミ(現・コナミアミューズメント)から1995年に発表された『GI-CLASSIC』に端を発する『GI』シリーズは、同社の看板タイトルの一つ。育成要素を導入し、磁気カードを採用した『GI LEADING SIRE』(1999年12月稼働)。「繁殖」システムを導入した『GI-WINNING SIRE』(2002年3月稼働)。音声合成機能で実況パートを強化した『GI-TURFWILD』(2003年稼働)。『EX』『GX』『JUDGEMENT』と四代にわたるリニューアルが重ねられた『GI-HORSEPARK』(2005年夏稼働)。複数店舗と連動し、全国オンライン対戦を可能とした『GI-Turf TV』(2010年9月稼働)。「競走馬カードゲーム」を搭載した『GI-GranDesire』(2013年3月稼働)。「ビクトリーJACKPOT」「ビクトリーメダル」「プレミアム育成」を搭載した『GI-VICTORY ROAD』(2016年1月稼働)と続き、2021年現在は『GI-WorldClassic』が稼働中だ。かつては公式サイトの製品紹介ページで『GI-CLASSIC』シリーズと『GI-LEADING SIRE』の楽曲が一部試聴できたが、サイトのリニューアルにともない公開を終了した。また、初期シリーズの楽曲を収録したサントラCDは、『GI-LEADING SIRE』の公式サイトで開催されたインターネットランキングの記念品として抽選でプレゼントされたのみで、現在ではレアアイテムである。近年のシリーズの楽曲は、アーケードマシン展示会ジャパンアミューズメントエキスポ(JAEPO)のコナミブースで配布されたCD『KONAMI MEDAL BGM SELECTION』に一部収録されている。

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