ニュース配信やLIVE機能も大成功、TikTokが次に注目するジャンルとは? GM佐藤陽一に聞く「2021年のビジョン」
2020年のエンタメを語る上で、ショートムービープラットフォーム・TikTokの存在は欠かせない。同プラットフォームからブレイクした瑛人が『NHK紅白歌合戦』に出場するなど、TikTok発のクリエイターがテレビをはじめとするさまざまなメディアやプラットフォームへ進出し、活躍の場をさらに広げることも珍しくなくなった。
そんなTikTokの2020年と2021年について、昨年6月に特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」内の【『TikTok』GM・佐藤陽一に聞く「コロナ禍でショート動画コンテンツがユーザーに与えた影響」】に登場してもらった、TikTokのゼネラルマネージャー・佐藤陽一氏にインタビュー。サービスの広がりとともに意識していたコロナ禍での社会貢献や、エンタメコンテンツ以外にグルメやニュースといった情報の窓口にも使われるようになったアプリの現在、「TikTok LIVE」の実装にともなうクリエイター・ユーザーの変化や2021年の展望について、じっくりと話を聞いた。(編集部)
「TikTok LIVE」がコミュニティ作りに貢献 界隈ごとフォローする新たな楽しみ方も
ーーまずは2020年のTikTokにおける大きなトピックを振り返っていきましょう。
佐藤陽一(以下、佐藤):昨年の春に緊急事態宣言が発令され、在宅時間が急に増えたことで、ユーザー数やユーザー1人あたりの利用時間が伸びました。使い方もより幅広くなって、ノウハウ系や、教育系のコンテンツが出てきたり、外出自粛の影響で、家でできるフィットネスや片付け法など、生活に根付いたものも多くなりましたね。
同時に、社会的責任を強く感じた時期でもありました。医療従事者の方を応援する動画を募集するキャンペーンや、日本財団さんとのチャリティーライブ、コロナによって相次いで中止となった花火大会をTikTok LIVEを通してお届けするなど、常に「何かしら僕らにできることはないか」と考えていました。
ーー自治体や政府との連携も積極的でした。昨夏には、ライブ配信機能「TikTok LIVE」が実装され、クリエイターとユーザーや、クリエイター同士のコミュニケーションがさかんになったことで、他の配信サービスとの差別化も進んだ印象を受けます。
佐藤:「TikTok LIVE」は、クリエイターとファンの方々との交流の場にしたかったのです。昨年の12月には人気クリエイターが一堂に会するイベント『TikTok CREATOR'S LAB. 2020 -REFLECTIONS-』をオンラインで開催し、その前後からクリエイター同士の横の繋がりがさらに活発化したように思います。お互いのLIVE配信やショートビデオに出演するなど、クリエイターのコミュニティが目に見える形でユーザーに認知してもらえるようになったという点で、「TikTok LIVE」が果たした役割は非常に大きいですね。
この機能については、昨年の春先からプロとしてエンターテインメントに関わってきたタレントやミュージシャンといった方々に先行的に利用していただいていて、実績を積み重ねた上で一般クリエイターに公開しました。プロの成功例を作り出してから一般公開へ、という流れがとてもうまくいきました。
ーー界隈ごとフォローする、みたいな新しい楽しみ方が生まれていますよね。もう1つ、2020年のTikTokを語る上で欠かせないのが、TikTokを通じてブレイクする配信者やアーティストが続々と誕生したことです。
佐藤:瑛人さんやYOASOBIさんなど、TikTokからミュージシャンの方の認知が広がっていくのは本当に嬉しいです。彼らが“TikTok発”だというのはおこがましくて、ちょっとしたきっかけを提供したにすぎないのですが、それでもすごく嬉しいですし、おもしろいなと思いますね。
先日のLINE MUSIC高橋明彦さんとの対談でも少し触れましたが、テレビのCMソングと同じように、ある楽曲をつかった動画が沢山アップロードされて、それが多くの人に視聴されることで曲の認知が一気に広がる現象が起こっていると考えます(参考:瑛人・YOASOBIら“スマホ発のヒット”続出の理由は? LINE MUSIC×TikTokのキーパーソンに聞く)。昔からテレビではよく起きていた現象ですが、UGCであっても、その楽曲が使われた動画が多くの人に視聴されることでブームが起きるというトレンドは、TikTokの特徴の1つです。
ーー瑛人さんやYOASOBIさんの紅白出場など、マスメディアへの露出が増えることで、より上の世代にサービスが認知される機会も増えたと思うのですが、それに伴ってユーザーが増加するなどの影響はありましたか?
佐藤:今までTikTokに興味がなかった人たちが、テレビや雑誌などのマスメディアに取り上げられることで、興味をもってくださる例はすごく増えています。
ただおもしろいことに、若い人たちからの支持を獲得した新しいアーティストが出てくる、という勢いが止まることもないんです。むしろその流れは加速していて、両方が相乗効果になっています。
TikTok経由で自動車が売れる事例も 圧倒的な親しみやすさが武器に
ーーほかに2020年で、印象的だったことはありますか?
佐藤:TikTokが広く情報収集に利用してもらえるケースが増えました。料理で言えば、具体的な作り方というより、「何が食べたいか」のイメージ作りに利用されているのが特徴的かなと思います。細かい作り方ではなく、15秒や30秒という短い時間の中で出来上がりまでを一気に見て、「これ食べたい!」と想像を膨らませるようなイメージですね。
TikTokの場合は“親近感”が重視されます。グルメで例えると、居酒屋やラーメン屋さん、定食屋さんのような、生活感のあるお店を魅力的に紹介してくれるクリエイターが増えました。僕自身そういう動画を見ていて、こんなに魅力的に紹介できるのか、と感心しますね。
ーーすごくリアルに近いですよね。着飾っていなくて、ユーザーの求めているものとマッチしているように思います。
佐藤:他に印象的なクリエイターさんの事例を上げるとしたら、「BMWのオネーサン」ですね。山形弁全開の女性ディーラーの方が車を紹介するのですが、「こんな機能があるって知ってた?」みたいな、すごく親しみを感じる動画なんです。聞いた話では、TikTok経由でBMWが何台か売れたそうで、そのディーラーさんに会いにお店に行かれる方もいるようです。おもしろい現象ですよね。
@my_name_is_bmwladies どなたか翻訳お願いします。難易度★★★⭐︎⭐︎ #bmw #2021年初投稿 #モーションシャッター #機能 #とみひろ振袖いちばん館
ーー普段BMWがマスに向けて打つCMの方向性とは真逆ですね。
佐藤:そうなんですよ。ほかにもクレープ屋さんを始めようとしている男の子がクレープを焼く練習をしている動画シリーズがあるんですが、その子が全然うまく焼けないんですよ(笑)。視聴者さんがコメントでコツを教えたりして盛り上がっています。彼がお店を開いたら、応援していた人たちが買いに行く、なんてこともありそうですよね。
ーー一緒に育てる、育っていく感覚なんですね。完成されたものを楽しむ文化もありつつ、アマチュアの成長過程を見守っていく文化も芽生えているという。
佐藤:プラットフォームとして、完成度の高いものとアマチュアの粗削りなものをどちらも幅広く受け入れる許容力があるのは、TikTokの強みですね。両方を楽しむ人が増えているのも嬉しいです。
ーー成功事例も多く、2020年はすごく盛り上がった1年だと思いますが、そんな中で見つかった課題はありますか?
佐藤:課題については、ちょうど「TikTokって『衣・食・住』の『食・住』はあるけど、『衣』が少ないよね」と話していたところです。『食・住』と比べるとファッションが意外と弱いんですよ。若い女性に利用されているイメージが先行したのに、逆に後手を踏んでいる気がします。ハイファッションだと他のサービスにもあるので、TikTokらしく、もうちょっと日常的なものとか、カジュアルだけどちょっとおしゃれなファッション動画がもっとあるといいですね。
ーー逆に言うとそこはクリエイター側が参入する余地のあるゾーンともいえますね。これを見て奮起するクリエイターが出てきたらおもしろそうです。
ニュース配信が驚異の週1億再生以上を記録 エンタメコンテンツと並列表示の新スタイル
ーー2020年後半になると、世間的にコロナが少し落ち着いてきましたね。この頃、ユーザーに目立った変化はありましたか?
佐藤:我々としては、そこまで大きなユーザーの変化というものは感じなかったですね。それよりも、アメリカでのTikTokの行方に関して、心配の声をたくさんいただきました。ただ、現実問題としては、アメリカでの動向は日本でのオペレーションには直接的な影響はありません。日本のユーザーには引き続き安心して利用していただきたいです。
2020年後半の大きなトピックの1つに、ニュースの配信を始めたことがあります。僕らが想像していた以上にアクセスがあり、評判も良いです。昨年の8月から始まって、12月までで13億再生を記録しました。さらに今年に入ってからは、毎週1億回以上再生されるようになっています。
ーーすごいですね! どんなジャンルが人気なんですか?
佐藤:TikTokのフィードには時間的な概念があまりないので、速報性や即時性のあるニュースはあまり強くありません。時間に強く依存しない、少し深堀りしたような、考えさせられるようなニュースが大きく伸びますね。あとは、ローカルネタや動物をとりあげたものも多くの方に見ていただいています。僕らとしても、ローカルニュースにはさらに力を入れていく予定です。
ーー直近では『news zero』さんがTikTokアカウントを開設されましたね。このあたりも、ニュースの拡充を目指してのことでしょうか?
佐藤:『news zero』さんに関しては、もう少し教育的なコンテンツに近いような、若い人たちとニュースとの橋渡しをするような存在になってくれたらいいなと思います。TikTokでのニュースの見られ方にはどんな特徴があるのか、僕らの方でもリサーチしつつ、報道機関と一緒にどんなニュースが求められているのか深堀りしていきたいですね。
ーー先日たまたま取材の機会があったのですが、『news zero』の制作陣も“若い世代がニュースを見なくなっている中で、どうやって引き戻していくのか”を模索されていて、そこにも通じる話だなと思いました。エンタメコンテンツとニュースを並列して表示しているので、若い世代も受け入れやすいですよね。
佐藤:そうですね。タイムライン上に他のエンタメコンテンツと同列でニュースが表示されるのって、新しい体験かなと思います。