『乃木坂46 LIVE IN 荒野』に見たバーチャルライブの正統進化 “新時代の到来”感じさせた要素を紐解く

乃木坂46『荒野行動』ライブにみた“新時代の到来”

 1月2日21時より、NetEase Gamesが開発する人気バトルロワイヤルゲーム『荒野行動』にて、アイドルグループ・乃木坂46とコラボしたゲーム内バーチャルライブ『乃木坂46 LIVE IN 荒野』が行われた。

 『荒野行動』としても、乃木坂46としても初の試みとなったゲーム内での同ライブは、イベント前からTikTokを活用した今回のためのコラボ曲「Wilderness world」チャレンジイベントやゲーム内での限定アイテムが用意されたほか、イベント直前にはメンバーの齋藤飛鳥、与田祐希が出演する生配信が行われるなど、『荒野行動』、乃木坂46の双方のファンを盛り上げる仕掛けもふんだんに用意されていた。

 そんな『乃木坂46 LIVE IN 荒野』の本編では、19名の選抜メンバーが出演。そのうち齋藤飛鳥、松村沙友理、山下美月、与田祐希、賀喜遥香の5名は3DCGのアバターに扮して登場し、パフォーマンスを行った。

 約30分ほどのバーチャルライブは、普段のバトルフィールドではなく、今回のための特設フィールドで開催された。ファンはそれぞれ普段、ゲームで使っているアバターで参加し、バトル要素のない特設フィールドでリラックスしながらライブを楽しむことができたが、今回の『乃木坂46 LIVE IN 荒野』で受けた印象は、2020年に行われたバーチャルライブの文脈的に見て、バーチャルならではの魅力を取り入れた“正統進化”と呼べるものになっていたということだ。

 バーチャルライブのオリジナリティについて議論されるとき、「現実にはありえない表現かどうか」が重要視されている。その点から考えると、今回の場合は、ライブステージが近未来を思わせるSFライクな野外会場になっており、空からパラシュートでステージに3DCGメンバーが舞い降りたり、ライブ中にファンのアバターが空中に浮かぶなど、現実ではおよそ再現不可な演出が行われていた。

 また、先述の特設ステージは、昨年、同じオープンワールドのバトルロワイヤルゲーム『フォートナイト(Fortnite)』が、バーチャルライブを盛んに行った「パーティーロイヤル」と同じく、通常のゲームのようにバトル要素はなく、参加したファンが純粋にバーチャルライブをリラックスしながら楽しめるものになっていた。この特設ステージモードには、バーチャルライブを盛り上げるため、リアルの乃木坂46のライブでも見られるファンのコールのためのサイリウムを使ったエモートが用意されるなど、バーチャルの世界でも現実世界同様の楽しみ方ができる仕掛けがあり、体験として、ライブに没入できるイマーシヴな要素があった。

 バーチャルライブは昨年、Travis Scottが『フォートナイト』内で行った「Astronomical」のようなオープンワールドゲームをライブ会場にしたVR空間を使ったものもあれば、配信ライブ用の音楽プラットフォームを利用して現実世界でのライブ映像をXRテクノロジーで強化演出するようなものまで様々な形で行われてきた。今回のバーチャルライブは、「Astronomical」と同じくオープンワールドゲームをプラットフォームにしたものだったが、ファンがバーチャルライブに現実世界のライブと同じようにインタラクティヴに参加できる要素が、ゲームならではの手法で取り入れられていたことも特筆すべき点だ。

 乃木坂46のようなアイドルグループのリアルライブでは、ファンによるコールはまさにインタラクティヴに参加する要素になっているが、今回のバーチャルライブでは、「裸足でSummer」、「制服のマネキン」のようなコールの定番曲も披露された。これらの曲に関しては、先述のアバターのエモートでリアクションを示すこともできたが、例えば「制服のマネキン」パフォーマンス時にはゲーム画面上にコールボタンが表示され、それをタップすることでコールが行えるという、ゲームに詳しくない観客にもフレンドリーな仕組みが取り入れられていた。

 また、「Sing Out!」では、音楽ゲームも登場した。そのゲームに参加すると自身が操作するアバターが乃木坂メンバーと同じ3DCGアバターに変身する仕組みは、ゲームとしての本分を忘れない『荒野行動』の遊び心を感じるとともに、ライブ中にゲームを楽しむという、現実ではありえないバーチャルライブならではの魅力を強く感じた部分だった。

 バーチャルライブではリアルライブにはない再現性もメリットのひとつとして数えられることが多い。今回の場合は、バーチャルライブ終了直後からすぐにリピート配信が始まったが、それによって、ファンは特設ステージ内を移動する、もしくは三人称モードを一人称モードにする、または上空からの視点で視聴するなど、異なる複数の視点で楽しむことができた。

 さらにこれらのゲーム本来の機能を活用した視点切り替え以外に、筆者としては、この再現性が最も大きく働いたのは「Sing Out!」の音ゲーに参加するか否かの部分だ。正直な話、ライブ中の音ゲー要素は体験として新しさがあった一方、ファンとしてはそれに参加することでライブ映像に若干集中できない部分もあったように感じている。しかし、ライブ直後からのリピート配信では、例えば音ゲーに参加しないという選択をすることが、バーチャルライブならではの再現性を活かした、初回とは違う体験を得ることにつながったはずだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる