『Project:;COLD』総監督を直撃ーー反響を呼ぶ“SNSミステリー”はどのように作られ、どこへ向かうのか

キャラデザ、動画、ギミック、謎解きそれぞれのキャスティングの意図

ーー反響で言えば、望月さん・川サキさんのお二人を起用したことが、最初のインパクトとして大きかったのではないかと思います。この辺りのキャスティングはどのように決定されましたか?

総監督:今回、バーチャルキャラクターで物語を表現しようと決まった段階で、「作家性の見える絵描きさんに描いてもらいたい」という考えがあったため、望月さんにお願いをすることにしました。

 映像については、実写背景の上で3Dモデルのキャラクターを動かしている川サキさんの動画を見たことが決め手になりました。

ーー他方、謎解きの部分では、きださおりさんや眞形隆之さんといった、リアル脱出ゲーム・人狼ゲームのキーマンが関っています。

総監督:きださんが制作された『沈みゆく豪華客船からの脱出』という脱出ゲームを遊ばせていただいた際、今までの脱出ゲームの概念を覆していると感動しました。彼女には、ユーザーにどういう心の動きを与えるか、という部分でアドバイスをいただいています。

ーーきださんの直近のお仕事でいうと『SECRET CASINO』もまさにイマーシブ(没入感のある、現実と物語の境目のない)な試みでした。

総監督:はい。そういう意味でも、きださんは第四の壁の突破を試みる同志のように感じています。眞形さんには、謎解き要素が必要だと判断した段階から、多岐に渡って手伝ってもらっていました。

【歌ってみた】秒針を噛む/ずっと真夜中でいいのに。coverd by都まんじゅう【みやまん】

ーーキャスティングでいうと「ずっと真夜中でいいのに。」の存在も大きいですよね。最初からずとまよが参加者の目に触れるフック、かつ謎解きのキーにもなっています。

総監督:先ほどの話のとおり、最初は薄かった事件前の要素を厚くしようという段階で、登場人物たちに何か要素を追加しようとなりました。そこで文化祭に向けて有志バンドを組ませよう、なら何を歌うのかと展開を考えるなかで、オリジナル楽曲をボカロPさんに作ってもらうか、それとも別のアーティストが主題歌を歌うといった選択肢が生まれました。そして、今回の作品性にぴったりなずとまよさんへ、最終的にオファーをさせてもらいました。

SNSや融解班の反応はどのように見られているか

ーーSNSを使うことは大前提だったと思うのですが、それはおそらくTwitterを対象にしていたと思います。ですが、現在、融解班同士の交流はDiscordのサーバー上で盛んに行われています。このあたりは予想だにしない動きだったのでは。

総監督:まさに、Discordが使われることは少なくとも当初の設計には完全にありませんでした。実際に始まってみて「あぁ、こういう動きになるんだな」と初めて分かったというか。

 最近のTwitterには「タイムラインを汚してはいけない」みたいなマナー意識があって、結果的に好きな人以外は見ないで済むDiscordへ熱が流れていったのかもしれません。

 Discordは熱量は高いものの拡散性が乏しいため、認知を伸ばすという意味では想定の効果は得られなかったように思います。ですが、Discordの中って楽しそうなんですよね。昔の2ちゃんねるみたいな熱気があって。なので、今後も積極的に続けてもらえたらいいと思っています。

ーーDiscordのサーバーについては頻繁にどういう反応があるかチェックをされているんでしょうか。

総監督:ユーザーの動向は知りたいので、時折チェックしています。それと、ユーザーと同じ熱量で夢中になってるスタッフが「こんなこと言われてますよ」と報告してくれたりして助かっていますね(笑)。

ーー公式アカウントでは融解班の投稿をリツイートしていますが、それは調べて目に入ってきたもの?

総監督:知らない人がツイートを見たときに興味が湧くかどうかで判断してます。ツイート単体で『Project:;COLD』を面白そうと思ってもらえるものをできるだけ選んでいます。

ーー現状の融解班の考察はどうでしょう。核心に近づいている人を見たことはありますか?

総監督:そうですね。多くの人の意見を断片的につなげると、概ねその通りだな、みたいなことはあるかもしれません。

 ただ、この物語は、ある転換点から異常なほど話が変質するので、その全てを予想できている人は、さすがにいないと思います。この物語は、まだ■■■が登場さえもしていないので。

ーーなるほど、面白いですね。それはあくまで運営側から提示しないと絶対に分からない要素だと思うんですけど、逆にいま見つけられるものでまだ見つかってないものもあったりするんですか?

総監督:はい。もちろんあります。

ーーでは謎解きの方はどうでしょう。難易度調整にも難しい部分があったのではないかと思います。

総監督:まさしく、今回一番苦労したところはそこだったと思います。ミステリー小説ならば作品と読者が1対1ですが、今回は、作品と読者が1対数万です。1対1の謎と同じ難易度ではすぐに解かれてしまう。じゃあ1万倍難しいとちょうど良いのかというと、必ずしもそうはならない。難しすぎれば物語の進展が滞り、興味を損なう理由になってしまう。

 我々もなるべく適切な難易度にしようと努力していますが、24時間くらい掛かる想定の謎が、ほんの20分ほどで解かれてしまう……。■■■のアカウントに至っては、想定より1週間も早く見つかってしまいました。

 ある程度の時間調整はできたとしても、やっぱり話題が尽きてしまう問題も出てしまう。謎の難易度や情報の提供速度がどれくらいが適切なのかは、前例のないなかで手探りで試みた部分だったので、現時点ではうまくいっているとは言いかねる状況ですね。

ーーTwitterを使う上では140文字の限界みたいなものもありますよね。そこも苦労されていると思うのですが。

総監督:そうですね。本当は、Twitter以外の様々なメディアを使う構想もありました。キャラクターをTwitterで見せるとなった時、会話を見せるのが難しいので掛け合いをどうやって表現しようかという議論はあって。

ーー様々なメディアを使う構想もあったということですが、基本的にはインターネットの上で全部を完結させられるようになっている、という風に認識しても大丈夫ですか?

総監督:そうですね。ただ、そこも散々議論しました。たとえば昔、2ちゃんねるであった「あんたがた」や、世界でいうと「cicada3301」のような謎解きを仕掛けた人がいました。それらはハワイや韓国などの現地にポスターが貼ってあったりして、そこから新しい情報を得て次の展開に進んでいく仕掛けがある。そういうものが面白いことは明らかだったのですが、コロナもある社会情勢の中で、人を集める仕掛けは極力避けるべきではないか、などのも議論もあって、最終的にはインターネット外で展開するアイデアには消極的になったという経緯があります。

ーー難易度設定はもちろん、物語が展開するスケジュールも存在していると思います。そういったスケジュールは謎解きの成果など反響によって動いていくのでしょうか?

総監督:考察や謎解きによる介入で変わる部分と変わらない部分があります。大枠の展開が不変であることにストレスを感じたりとか、付き合い方が分からないという声があったことも理解しています。

 難しいところではありますが、今回の企画の主旨は新しい物語表現であって、展開の大枠については揺るがない部分が存在します。ただ、参加者皆さんの動向に合わせて流れを変えている部分もあり、現実的にみなさんと一緒に物語を紡いでいるという感覚は強く持っています。

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