『プロジェクトセカイ』『はめふら』『どうにかなる日々』を接続して考える、“性別の組み合わせに囚われず、関係性の多様さを楽しむ作品”への期待
2020年に筆者が遊んだゲームの中でも『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』(以下、『プロセカ』)は、かなりお気に入りの作品のひとつとなった。
本作はスマートフォン用の基本無料アプリゲーム。オリジナルキャラクターたちによる様々な音楽ジャンルを志向する5つの4人組ユニットが、様々な困難を乗り越えて結成され、そして活動していくというストーリーが展開される。彼らの導き手として初音ミクをはじめとしたボーカロイドたちも登場。
リズムゲームパートにはボーカロイドの名曲の数々や、ボカロPたちによる本作のための書き下ろし楽曲が用いられ、声優が演じるオリジナルキャラクターとボーカロイドが一緒に歌い上げる様は、ストーリーパートとの相乗効果もあって、心が踊るような感動がある。
ボーカロイド文化にそこまで積極的に触れてきたわけではない筆者だが、ミクたちに導かれながら、かけがえのない仲間たちとの絆を紡いでいくオリジナルキャラクターたちの成長物語、そしてそこで紡がれる関係性の多様さを、夢中で楽しんでいる。
このゲームの開発・運営を行っているCraft Egg(クラフトエッグ)といえば、代表作に『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(以下、『ガルパ』)がある。『プロセカ』の設計の雛形はすでに『ガルパ』で出来上がっており、こちらもゲームプレイの中で徐々に紐解かれていくキャラクター間に張り巡らされた関係性の妙が、大きな魅力のひとつとなっている作品だ。
『プロセカ』と『ガルパ』を比較すると、最大の違いは『ガルパ』の主要キャラクターはタイトル通り全員女子だったが、『プロセカ』は5つのユニットのうち2組は男女混合ユニットになっている点だろう。
そもそもボーカロイドにもKAITOや鏡音レンといった男子キャラクターがいるため、オリジナルキャラクターも男女混合になるのは、ゲームの設定を考える上で必然的な流れだったという。だが、それが多くのユーザーに幅広く受け入れられ、すべてのキャラクターが男性ユーザーにも女性ユーザーにも愛されているのは、2020年だからこそという気がする。ゲーム内のキャラクター描写の素晴らしさも大きな要因だとは思うが、本作のリリースがもっと早かったら、反応はちょっと変わっていたのではないだろうか。
『はめふら』、『どうにかなる日々』も印象的だった2020年
思えば2020年は筆者にとって、“性別の組み合わせに囚われず、関係性の多様さを楽しむ作品”がそれ以前よりも目立って見えた1年だった。依然、女性同士の関係性を楽しむ“百合”の要素のある作品や、男性同士の恋愛を描く“BL”作品の人気は高いが、特定の性別の組み合わせだけにフォーカスしなくともよいのではないか? という空気が、いくつかの作品の人気から感じ取れたように思うのだ。
『プロセカ』以外で印象深かったのは、2020年4月よりアニメ化された『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(以下、『はめふら』)だ。
『はめふら』はいわゆる“悪役令嬢モノ”ブームの火付け役となった作品のひとつ。乙女ゲーム好きのオタク女子だった主人公が「プレイしていた乙女ゲームの世界の意地悪な悪役令嬢」であるカタリナに転生。悪役として破滅を迎えてしまう展開を回避するために奮闘するが、持ち前の人柄であらゆる登場人物のハートを射止めてしまい、本人も気づかぬうちに男女同性から好意を抱かれる中で巻き起こる騒動を描いた異世界ラブコメだ。
この作品は男女間のロマンスと同じくらい、カタリナと乙女ゲームにおけるほかのライバルキャラ、さらには主人公・マリアとの間でのいわゆる“百合展開”にも力が入っており、原作小説はどちらかといえば女性向けのジャンルながら、アニメ化によって男性ファンも多く獲得した。そして本作のファンの多くは「男女間の関係も魅力的だからこそ、百合展開もより美味しい」または「百合展開も楽しいからこそ、男女間の関係も面白い」のように感じているのではないだろうか。カタリナに明確に恋愛感情を抱き、カタリナと男性キャラとの関係の進展を防ごうと画策する女性キャラ・メアリの存在などは、この作風だからこそ面白いキャラクターの最たる例だ。
また、2020年10月23日より劇場公開されたアニメーション映画『どうにかなる日々』は、短編集だった志村貴子の原作コミックから「女性同士の恋愛」、「男性同士の恋愛」「男女間の恋愛」のエピソードを抜き出し、映像化した作品だった(男女間の恋愛については小学生時代と中学生時代の2篇あるため、合わせて4篇のエピソードからなる映画になっている)。
原作コミックは15年以上前の作品ではあるが、性別の組み合わせのバリエーションを意識したであろうエピソードのチョイスは、いまアニメ化したからこそという気がする。加えて、2018年に『あさがおと加瀬さん。』、2019年に『フラグタイム』と、百合作品のOVAを手掛けてきた佐藤卓哉が監督・脚本を務めている点からも、Craft Eggが『ガルパ』を経て『プロセカ』を制作したのと同じような変遷を感じられる(なお佐藤監督は2021年1月から放送中の『裏世界ピクニック』で、再び百合を強く打ち出した作品のアニメ化を手掛けている)。