『サイバーパンク2077』は“失敗作”なのか? 山積みの問題と強烈な魅力のはざまで考える

 以前、『サイバーパンク2077』が通算4度目となる延期を発表した際に執筆した記事において、本作に対する期待を込めつつ、販売/開発元であるCD Projektにおける相次ぐ内部告発の情報を元にしながら、「プロジェクトの管理体制に問題があるのではないか」と指摘した。あれから1ヶ月が経ち、現在に至るまで本作を巡る炎上が続いている様子を見ていると、残念ながらその懸念が当たっていたと認めざるを得ない。

最適化不足のまま、強引に発売を踏み切った『サイバーパンク2077』

 すでに世間的には『サイバーパンク2077』を完全に「失敗作」と捉えてしまっている人も少なくない。以前はゲーマーにとって信頼のおける企業として有名な企業だったCD Projektだったが、今では多くのゲーマーが手のひらを返したように、同企業を強く批判し続けている。

 筆者個人としても、今回の件については擁護し難い。発表から7年という歳月と4度もの発売延期を経たにも関わらず、大量のバグと(特に家庭用ゲーム機における)最適化不足という問題を抱えた状態で発売されてしまったのだから。

 筆者が実際に本作をPlayStation 4環境でプレイした中で経験した問題点(12月22日時点)を挙げると、「事前に公開されたゲームトレイラーに対して著しく画質が下がっており、フィールド上の人物の数も大きく減っている」、「フレームレートは平均して30fpsを大きく下回り、特に車の運転中と戦闘中は大きくガクつく」、「カットシーンや運転中など負荷がかかる場面で時折ゲーム自体がクラッシュし、再起動を要求される」、「NPCやオブジェクトの挙動が時折乱れ、Tポーズの人物や、空中に浮かんだり地中に埋まったりするオブジェクトといった現象が表れる」、「クエストが進行不能になる(再ロードで対処可能)」といった具合である。

 別途購入したPC版(筆者環境 : Intel Core i7-10700 / NVIDIA GeForce RTX 2070 SUPER / メモリ16GB)と次世代機版(筆者環境 : Xbox Series X)では、NPCやオブジェクトの乱れ、クエストの進行不具合など一部のバグは残っているものの、(少なくとも今のところは)ある程度快適にプレイすることができた。その点を踏まえると、本作はそもそものバグの多さに加えて、スペックが低い前世代機に対して明らかに十分な最適化が行われていないことが分かる。この件についてはCD Projekt側も認めており、「前世代機版のパフォーマンスに関する現場からのアラートを無視し、何とかなるはずだと信じて取り組んだものの、間に合うことなく発売タイミングを迎えてしまった」という経緯を明らかにしている(参考 : https://kotaku.com/cyberpunk-2077-execs-say-they-ignored-signals-that-the-1845890606 )。

異例の「返金対応」と「販売停止」 全方面からの信頼を失ったCD Project

 最適化が間に合わないまま発売された本作に対して、発売直後から前世代機版のプレイヤーを中心に不満の声が殺到した。結果として、CD Projektはゲーム業界では極めて異例となる、PlayStation 4版及びXbox One版ソフトに対する返金対応を実施するに至っている。特にPlayStation 4デジタル版については、PlayStation Storeから削除されるという事実上の「販売停止」処分を下され、大きな話題となった(12月23日時点。PlayStation 4版のパッケージ版やXbox One版については引き続き購入可能)。

 今回、特に問題視されているのが、CD Projekt側が前世代機でのパフォーマンスに問題があることを発売まで一切明らかにしていなかったことである。本作については発売前のタイミングで各ゲームメディアにレビュー用のソフトが配布されていたのだが、それはあくまでPC版のみで家庭用ゲーム機版についてはプレビュー版の配布自体が行われておらず、更にゲーム画面については事前にCD Projekt側から提供された画像の使用のみが許可されたため、バグが発生している画像が出回ることがなかった。また、事前に公式YouTubeアカウントで公開されたゲームプレイ映像についても、次世代機と前世代機アップグレード版の内容のみが公開され、前世代機版のゲームプレイについては完全に隠され続けてきたのである。その原因については前述の通り、直前まで間に合わせようとしたCD Projekt側の管理体制があるわけだが、ゲームメディアに対しても、ユーザに対しても極めて悪質な行為だったと言わざるを得ない。

大量の問題を抱えてもなお、強烈な魅力を持つ『サイバーパンク2077』

 では、『サイバーパンク2077』は本当に「失敗作」なのだろうか? 筆者は幸いなことにXbox Series Xを手に入れていたため、現在は同環境を中心にプレイを進めているが、個人的にそうは考えていない。現在進行系で本作を夢中になって遊び続け、通算65時間以上本作をプレイしている身としては、「(次世代機だとしても)問題はあるが、それを遥かに上回る唯一無二の魅力がある」と感じている。だからこそ前世代機版への対応を疎かにし、本作の評判を台無しにしたCD Projektのマネジメントと品質管理体制に対する怒りをより強く抱いている。

 現時点でクリアまで程遠いため、これはあくまで"ファースト・インプレッション"だが、ここからは本作が持つ魅力について書いていきたいと思う。

 前提として、本作は1990年に発売されたテーブルトークRPGである『Cyberpunk 2.0.2.0.』を原作としたRPG作品である。『サイバーパンク2077』に登場する主人公のVやジョニー・シルヴァーハントといった登場人物、物語の舞台となるナイトシティ、「ネットランナー」、「ソロ」、「ノーマッド」、「コーポ」といった役職、世界観や物語設定の多くが原作から引き継がれている。また、ゲーム開始時に選択する、キャラクターのパラメータや本作の特徴でもある3タイプから選ぶキャラクターの生い立ちを示す「ライフパス」についても(削ってはいるが)同様である。

 ビデオゲーム以前より親しまれてきた『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(1974年)等に代表されるテーブルトークRPGは、ゲームマスターとプレイヤーに分かれ、参加者が各自割り当てられた役割になりきって行動し、起きた物事に対して主体的に行動しながら、時には分岐することもある物語を進めていくものであり、テキストや設定が生み出す世界観に没頭しながら、プレイヤーが自身の想像力を最大限に使ってロールプレイを行うという魅力がある(例外はある)。

 やがて、それはビデオゲームとしても作られるようになり、豪華なCGグラフィックや壮大な物語を売りにした現代のRPGへと繋がっていく。だが、一方で「自由度の高いロールプレイ」や「主体的なアプローチ」といった要素は、リソース上の限界という壁の前に薄れていくことが多いのも事実だ。

 そして現時点で、『サイバーパンク2077』はビデオゲームとして、本気でテーブルトークRPG、あるいは「プレイヤーの想像力」に挑んだ狂気的な作品であると感じている。

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