シンガポールのシェアサイクルサービス『oBike』の破綻から学ぶ「エコロジービジネスの難しさ」
自転車は「環境に優しい乗り物」として再注目されている。
確かに、自転車はCO2をまったく排出しない。そのため、世界各国ではシェアサイクル事業が次々に立ち上がっている。スマホアプリでいつでも自転車をレンタルでき、決済もキャッシュレスで行うというものだ。
2017年2月にサービスが始まったシンガポールの『oBike』は、レンタル自転車1台1台にGPS装置と太陽光発電パネルを搭載し、いつでもどこでも手軽に自転車を借りられる仕組みが評価されて急成長した。短期間のうちに海外進出とベンチャーキャピタルからの巨額出資も実現させた。『oBike』こそ、エコロジー社会を実現させる理想的なスタートアップだ……と誰しもが信じていた。
「次世代交通の旗手」としてのシェアサイクル事業
『oBike』は、2018年までシンガポールだけでなくマレーシア、韓国、香港、タイ、ドイツ、オーストラリア等の世界9ヵ国でサービスを展開していた。
世界では2010年代から「より小型でよりエコロジーな交通手段の登場」が叫ばれていた。ガソリンで走る四輪車は大量のCO2を排出する上、その大きさ故に交通渋滞をも招いている。では、普段四輪車で移動している人の何割かが二輪車に乗り換えたとしたら、渋滞もだいぶ緩和されるのではないか? しかもその二輪車が電動か、もしくは人力で走る自転車であれば環境問題も解決するに違いない。
幸いにも、太陽光パネルも蓄電池も技術進化を遂げている。1回の充電で数十km走る電動バイクは珍しいものではなくなった。また、小型の太陽光パネルが実用に足る性能のものになったという点も見逃せない。これらを活用すれば、ガソリン車に代わる次世代モビリティーと斬新な交通システムが実現するはずだ。
『oBike』の革新性は、GPS装置が搭載されているという部分である。
これがあるから、どこに駐輪しても構わない。スマホアプリを見ればすべての自転車の現在位置が把握できるからだ。しかもその装置の電力源は、上述の通り太陽光パネルである。どこから出発してもいいし、どこに駐輪しても構わない。利用料金はもちろんスマホを介したキャッシュレス決済で支払う。
『oBike』がシリーズB投資ラウンドで4億5000万米ドルもの資金調達に成功したのは、2017年8月のことである。4億5000万ドルとは、日本円では約50億円。設立僅か半年のスタートアップは、世界の経済メディアの記者が腰を抜かすほどの資金を頂戴したのだ。
が、『oBike』の凋落はこの時既に始まっていた。
無数の放置自転車
各国の経済ライターが『oBike』への巨額出資に関する記事を書いていた頃、オーストラリアのメルボルンでは市民が怒りの声を上げていた。
市内のあちこちに『oBike』の自転車が置かれるようになったのだ。いや、もはや「置かれる」という言葉では足りない。これは文字通りの放置自転車である。
『oBike』のオペレーションは、駐輪場を確保しなくても実行できる仕組み。それはひとえにGPS装置のおかげだが、どこでも乗り捨てられる『oBike』の自転車は進出先の都市にとっての負担と化していた。ある日突然、外国企業が自分たちの町に数百数千もの商用自転車を持ち込むのである。住民が怒るのは当然だった。
メルボルンでは川に『oBike』の自転車が投げ捨てられ、その回収に当局が動いた。市民の納めた税金が放置自転車の処理に使われた、ということだ。市内のあちこちで朽ち果てる自転車を使ってアート作品を制作する人物も現れた。
そしてこのような現象は、シンガポールでも同様に発生した。