King Gnu&millennium parade楽曲の世界観を体感できる『ヌーミレパーク(仮)』 PERIMETRONに聞く“空間演出”の裏側

PERIMETRONに聞く“空間演出”

 ここからは、PERIMETRONのプロデューサー/クリエイティブディレクターの佐々木集氏、アートディレクター/デザイナーの森洸大氏、デザイナーの荒居誠氏へのインタビューをお届けする。

左から、PERIMETRONのデザイナー・荒居誠、アートディレクター/デザイナーの森洸大、プロデューサー/クリエイティブディレクターの佐々木集

――細かいこだわりが詰まった、見どころ盛りだくさんの空間だと感じました。一番に思ったのが、“終わりのない作業をひたすら突き詰める”という、途方もないことを高い熱量でやっていらっしゃるんだなということ。

佐々木:そうですね。途方もないんですよね。こういう展示って普通、アーカイブをポンポン配置していく作業になるはずなんですけど、この2人(荒居・森)は今回のためにまた新しくグラフィックを上げているんですよ。そりゃ途方もないわって思っちゃうというか……(笑)。

荒居・森:はははははは!

森:PERIMETRONの何が強いのかといったら、熱量なんですよね、実際、もっとヤバいやつはいくらでもいるし、俺個人に関しても、めちゃめちゃ美術を勉強してきたというわけでもないので。じゃあ何で勝負するのかっていうと、やっぱり熱量しかない……ということで、今回もめっちゃ作っちゃいました(笑)。

佐々木:美術用にステッカーを出力したんですよ。いろいろなグラフィックが載っているやつで、数十種あったんですけど、普通にこれ、売りゃいいのにと思って(笑)。

――それだけクオリティが高かったと。

佐々木:それなのに、そのステッカーを貼ったあと、破って、わざわざ汚すんですよ。なんでそんなことしてるんだろう?みたいな(笑)。

荒居:あれは途中、1回訳分からなくなってたと思う(笑)。

――これだけ大きな空間を作り上げた今、どんなことを感じていますか?

森:規模的には最大級の物作りになったので、単純にめちゃめちゃ大変だったし、楽しかったというのが率直な感想です。あと、これは集とも話していたことなんですけど、B1FのPROPS COLLETTIONを実際に見たとき、「結構やってきたな」と実感するとともに「意外と少ないな」とも感じたんですよ。

佐々木:この4年間は、他のアーティストのPVも同時並行で作っていたので、ヌー(King Gnu)とミレパ(millennium parade)のものだけを並べたときに「あれ? これだけ?」という感覚になって。その時々でできる限界をやってきたとはいえ、まだ4年なんだな、と。

森:今回“工事中”というテーマを掲げているんですけど、自分たちの作ったものを見て改めてそれを感じていますね。

荒居:いろいろな人の意見や、何を感じ取ってもらえるのかということが楽しみでもありますし、自分たちとしても間違いなく大きな刺激を受けると思います。そこからまた「次はもっとこういうことをしたいね」というイメージが膨らんでくると思うので、いつかまた、さらに大きなチャレンジができたらいいですね。

佐々木:あと、みんな、大きいものを作る喜びを知ってしまったので(笑)。「3メートルのものが作れた」「それなら次は8メートルのものを作れたら面白くない?」みたいな会話の前提ができてしまったので、今後もきっとやるでしょうね。

――Ginza Sony Parkは銀座駅直結の施設で、現状、地下4層構造です。この特殊な立地・構造の空間に対して、みなさんはどのようにアプローチしていったのでしょうか。

佐々木:現在、銀座駅の構内には、仮設扉のような白いハリボテがたくさんあります。B2Fの壁にはそれに近い素材をたくさん使ってありますし、そういうマテリアルの馴染みは意識しましたね。B4Fのグラフィックはストリートアート方面からのアプローチにあたると思いますが、それも、地下空間・銀座駅直結というところから発想したものです。駅にグラフィックを描いても普通ならすぐ消されるけど、今回はそれを4ヶ月残せるということで。あと、最初、「銀座駅の看板を“ザギン”にしたいよね」と話していたんですよ。だけど「駅の看板はさすがにマズいです」と言われて、そうだよなと思って(笑)。

――その流れで言うと、駅構内にあるアドピラーもかなり攻めていましたよね。King Gnuのメンバーの顔写真が印刷されたもので、メンバーの方が、スプレーで落書きをするところまで含めて作品という。

森:あれも「ヌーやミレパも知らない通勤の方も多いよな」というところから始まったもので。唐突な違和感と「メジャーバンドがなんでこんなアホみたいなことしてるんだ」っていう印象を与えたかったんですよね。綺麗でかっこよくて洗練されたモノばかりじゃ嘘っぽいし僕ららしくないというか。そういうバカもいたっていいじゃないかって思うんですよ。その結果ああなってしまいました(笑)。それでみんなで落書きした次の日ぐらいだったかな。1回そこに立ち寄ったことがあったんですけど、通勤中の人が、もれなく全員見てくれてはいて。

佐々木:「え、銀座かな?」「治安悪いな」みたいな(笑)。その体験も、ちょっと非日常的でいいよね。

森:そうそう。テーマパークという言い方はしているけど、日常と隣接したところにあるからこその面白さというのはやっぱりあると思います。

荒居:地下空間ならではという話で言うと、B3Fは実際に駐車場だったんですよ。

――そうだったんですか。

荒居:あそこに「Plankton」の車を置いたのも、実際あのスペースを見たとき、「ここ駐車場になっているんだ」「じゃああの車を置いたらよさそうだな」と思ったからで。そんな感じで、その場その場で3人が思ったことを、そのまま形にできているところがたくさんあります。自分たちが「面白いな」と思ったものを、見る人にも「面白いな」と感じ取ってもらえたら嬉しいなと思いますね。

――あの車は再現性が高くて驚きました。塗装の剥がれ具合なども含め、外見はMVで見た通りですし、MVでは部分的にしか見えなかった内装までしっかり作り込まれていて。

荒居:再現性はかなり重視して作っているので、ぜひ近くで見てほしいですね。自信を持って、やれるところまでやれたなと思っています。普段僕らは映像をメインに作っていて、そのなかに登場する美術のプロップスも作っているんですけど、一つひとつが映像に映るのは一瞬で。だけど、僕たちはそこ(プロップス)にもちゃんと情熱を注いできたので、今回のように、多くの人に近くでじっくりと見てもらえる機会をいただけるのはありがたいですね。

森:作り手としてこんな幸せなことはないですね。

佐々木:MVが死なないのがいいですよね。プロモーションビデオという名前の通り、MVは元々広告のものでしたけど、俺たちとしては“1回作ったらそれで終わり”という考えで作りたくはなくて。

荒居:でも、それを再評価してもらえるような展示だからね。

佐々木:うん。やってよかったなと思います。

――ソニーのテクノロジーを使えるというのも、今回の展示におけるキーポイントだったのではと思います。“テクノロジーと自分たちのクリエイティブをどう掛け合わせるか”という点に関しては、どのようにお考えですか?

佐々木:僕らのチーム自体は「このテクノロジーが使えるからこういうことをしよう」みたいなプロジェクトはあまりないですね。どちらかというと、「こういう表現をしたい」「じゃあこのテクノロジーを使おう」という考え方に近いかもしれません。

――クリエイティブが一番先頭にあって、そこに付随するテクノロジーがもしもあれば使う、という温度感ですか?

佐々木:そうですね。個人的には、先端の技術を前面に押し出したメディアアートのようなものは、あまり好みじゃないというか。ちょっとドヤ顔感を感じてしまうんですよね。

森:“ドヤ顔感が出ちゃう”というところで悩んだのが、B2FのMUSIC VIDEO COLLECTIONで。最初、「こういうテクノロジーがあります。使ってみませんか?」と提案してもらったんですけど、実際に物として見たとき、ちょっと押しつけがましく感じたので考え直したんです。自分たちとしてはもう少しユーモアがほしかったというか、力を抜いた使い方がいいなと。結果的にあのスペースでは、市販の、犬の餌を入れるお皿とかそのまんま使ってゆるゆるな表現になりました(笑)。

佐々木:テクノロジーを使うにしても、あえてすっごくバカげたことをやるとか、サラッと使ってしまうとか、そういう見せ方の方が性に合っている気がしますね。

――では、聞き方を変えたいのですが、今回「こんな技術あるんだ。ラッキー!」という感覚で使えたテクノロジーはありましたか?

佐々木:Crystal LEDのシステムですね(※B2F「Fly with me LIVE 3D」で使用)。ライブのときはプロジェクターでの照射だったんですよ。だけど、Crystal LEDに対しても3Dの立体物を配置できるということを知り、だったらちょうど使えるんじゃないかと。

――Crystal LEDならば、映像をよりきめ細やかに映すことができますよね。

佐々木:それに(プロジェクタの設置)スペースも削減できますしね。人数制限もあるなか、あの距離感で映像を出すときの最善の選択ができたのかなと思いますし、これは多分、テクノロジーがなければできなかったことかと思います。

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