特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」(Vol.7)

fhána佐藤純一と“オンラインライブ”を起点に考える、創作と人間の本質 「フィクションを信じられるのが、人間の人間たる所以」

 特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」の第7弾は、4人組バンド・fhánaのリーダーである佐藤純一が登場。

 新型コロナウイルスが活動に及ぼした影響や、先日コロナ禍の社会やSNSの状況を踏まえて制作した新曲「Pathos」、7月26日に開催するオンラインライブ『fhána Sound of Scene ONLINE “Pathos”』の話を起点に、配信サービスとして『イマチケ』を選択した理由や、コロナ禍において考えた「創作と人間の本質」、活動を支えた技術や機材、ライブにおけるテクノロジーの活用など、テーマは二転三転。最終的にはアニソンアーティストの活動に対する問題意識にまで発展した、佐藤との対話を楽しんでほしい。(編集部)

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 「コロナによって、資本主義や民主主義というシステム自体が試されている」

佐藤純一(fhána)

――まずは、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、fhánaや佐藤さん個人の活動にどのような影響があったのかを教えてください。

佐藤:まず、予定していたライブが中止になりました。3月に出演予定だったイベントもなくなりましたし、発表前に中止が決まったので世には出なかったんですけど、決定していた海外でのライブも立ち消えてしまいました。レコーディングもスタジオが使えない状況だったので、緊急事態宣言が解除されるまで制作を止めたりしました。3月後半くらいから、「4月に入って、東京がロックダウンされる」という噂があったじゃないですか。

――3月中盤からありましたね。

佐藤:個人仕事を含めた4月納期の案件を巻きで進行して、3月中に録り終えるみたいな動きもありました。結局、緊急事態宣言明けの6月までずれ込んだりしましたが……。

――4月以降は色んなものが止まってしまったと思うのですが、その間はどうしていたんですか?

佐藤:僕自身はfhána以外で楽曲提供の仕事があったので、それを粛々とやっていたんですけど、fhánaとしては止まってしまっていて。そんな中、星野源さんの「うちで踊ろう」を始め、色々なアーティストやミュージシャンがオリジナル曲やカバー曲を自宅で録音、撮影して発信していましたよね。fhánaとしても何か曲を作って公開したいと思い、4月末ぐらいに「曲を作ろう」とメンバーとチームに呼びかけました。そこまでの1ヶ月間、バンドとしての動きは完全に止まっていましたね。

――そのストップしていた1ヵ月間は、大変ではあったと思いますが、個々が色んなことに向き合う期間としても機能していましたか。

佐藤:そうですね。僕自身も、それまでずっと制作やレコーディングに追われる日々だったので、ゆっくり考える時間が生まれたというのは間違いありません。ただ、それどころじゃないと悲鳴を上げている人たちがたくさんいることも事実です。これはfhánaの話から少し外れてくると思うんですけど、このコロナ禍によって、資本主義や民主主義というシステムそのものが試されていると感じました。経済的に余裕のある人は、コロナ禍においても「精神的には逆に充実した」「いろいろ考えられてよかった」と思えるのですが、それどころじゃない人たちもいる。僕の身近なところでは、ライブエンターテイメントに関わる人たちは、ライブができないことで大打撃を受けたりしている一方で、作家の中には曲の発注が増えて逆に忙しくなっている人もいたり、リモートで仕事ができる人たちは平時よりも多忙になっていたりと、職種による差も大きいなと。

――4月時点の「いつ終わるか分からない」という絶望感は凄かったですね。現在もそうですが、半年先、1年先がどうなるかわからない状況で。

佐藤:収入が絶たれるだけでなく、イベントが中止や延期になることで、主催側はマイナスになってしまいますし、会場側も固定費がどんどん出ていくので、相当きついですよね。今回のコロナ禍は経済的な格差だけでなく、職種によってダメージが全然変わってしまうんだと認識させられました。

――そこに対して、経済的なバックアップがあるかないかも含め、社会全体が試されている感じはしました。

佐藤:難しいですよね。民主主義は基本的には何をするにもモタモタと時間がかかる政治体制です。それに対して独裁的な政治体制はスピーディーな意思決定力や実行力がある。今回の危機的状況において、みんなが強力なリーダーシップを求めたりして、でも人類の歴史上、その“強力なリーダーシップ”がいつの間にか独裁に転じてしまった例も多い。そういう意味でも民主主義そのものが試されていますよね。

 SNSも荒れていますよね。不条理に対しておかしいと声をあげたり論理建てて批判することは大切ですが、ただの誹謗中傷や行き過ぎた暴言も目立ちますよね。でもこういうことを言うと「冷笑系」とか「トーン・ポリシング」というレッテルを貼られてしまう。

「世界の複雑さをを、まずは複雑なまま受け止めることが大切」

――世界的な異常事態でSNS全体の温度が上がってしまっている印象です。

佐藤:ところで、 fhánaの「虹を編めたら」の歌詞に「複雑」という言葉が出てくるんですよ。

ーー「虹を編めたら」は、多様性について歌われた曲でした。

佐藤:世の中ってすごく複雑で、あらゆる物事が複合的に絡み合って、結果として悲劇的な事件だったり、パンデミックだったり、運動だったり、何か現象が起こる。そういうときに、何かひとつに原因があると思ったり正解を単純化する人が多いと思うんです。人は誰しも自分にも理解出来る分かりやすい原因があると思ったほうが安心できますよね。そういったことがこのコロナ禍で可視化されたような気がします。これは自戒を込めてでもあるのですが、世界の複雑さををまずは複雑なまま受け止めることが大切になってくると思います。

――そんななかで新曲とライブを発表したわけですが、「スピード感」というところでいえば、じっくり考えて作ることができたでしょうか。

佐藤:いえ、それは結果的にそうなったという感じなんです。様々な偶然や今までの縁みたいなバラバラの点と点が、今回のオンラインライブに向かって、結果的に収束していったというか。新曲を作りたくてメンバーに呼びかけて「Pathos」という曲をつくりましたが、ちょうど同じタイミングでバンダイナムコアーツが立ち上げの準備をしていた新サービス『Mixbox』に向けて何か作りませんかというお話をいただいたので、この曲を提供させていただいたり。それと同時に、3月末くらいの段階で、今回配信する『イマチケ』というサービスを作った、ドキドキファクトリーの代表取締役・久保裕矢さんから「いまこういうサービスを作っているから、それが出来上がったら何かやろう」と連絡があって。

ーー久保さんは佐藤さんとは縁深い方だとお聞きしました。

佐藤:久保さんは僕がfhána結成以前のバンド(FLEET)時代に、所属していた会社の専務取締役で、18年くらいの付き合いなんです。fhánaになってからも定期的にお仕事をしていますし、彼がマネジメントに参加しているSTAND UP! ORCHESTRAには、fhánaのライブやMVに参加してもらったり、アニサマ2019にも僕からの紹介で参加してもらったりしています。

――『イマチケ』からの打診が来たのが3月末ということでしたが、その時期は、まだ他のサービスではあまり有料での配信ライブをやっていなかったような気がします。

佐藤:その時期はまだ、ceroがZAIKOを使ったライブをして話題になったくらいですよね。今回『イマチケ』で配信するのは、久保さんとの繋がりは勿論ですが、『イマチケ』は元々ドワンゴでニコニコ動画を作っていた僕も知っている人たちが携わっているサービスで、大量のアクセスを捌く知見があるんですね。色々な配信サービスが立ち上がるなかで、サーバートラブルの話も結構聞くようになってきたので、その辺りは気にしていたんですが、そういう点では安心感が大きかったです。あとは、チケットを買ってから実際にライブ配信ページまでの導線がシンプルですよね。海外から視聴ができないことは残念ですが、ただ、これはほかの配信サービスも権利問題などを踏まえた課題として持っているものなので、各社が長期的に解決していってくれることを望みます。