tofubeats&DJ Qと考える、コロナ禍における“リモートプロダクション”の今とこれから

tofubeats×DJ Q対談 

「音楽の力によって、僕たちアーティストも助けられている」

ーーコロナ禍以降、DJたちはライブ動画配信にいち早く着手し始めました。マネタイズやチャリティ、ファンとのインタラクションなど、ライブ動画配信が提供する価値が拡大する中、今後の音楽シーンにどのような影響があると考えますか?

DJ Q:イギリスだと、大抵のDJはライブ動画配信をやっているね。全てのSNSで配信しているから、新しい音楽やDJをチェックするには最高だよ。だけど、数が多すぎて、誰がいつ配信をしているか、フォローしきれてはいない。ライブ配信は、クラブでプレイする機会がなかった若手DJやアーティストが、今まで得られなかった露出を獲得するためのプラットフォームだと思う。数週間前に僕もInstagram Liveで配信していた最中に、プロデューサーを見つけて、リミックスを依頼したことがあった。僕にとっても、新しい才能と出会えるチャンスが広がったから、音楽シーンにとっては良いことだと思う。

 そのうえで、大事なのは「新世代のアーティストたちは、新しいアイデアを持っている」と認めることだ。テクノロジーも熟知しているから、プロダクションのスキルも斬新し、エネルギーを感じる。過去10年で、若手アーティストが音楽シーンで認知されるためのハードルはどんどん下がってきた。僕が音楽を作り始めた時は、「FruityLoops」(現FL Studio)を使っていたけど、Logicは高すぎて手に入らなかったし、Cubaseの画面はまだ白黒で使いものにならなかったな。今は、誰でも好きなDAWを選べて、楽曲を配信できる時代になった。これは音楽を始めるチャンスという観点からすれば革命的な時代だね。

tofubeats:僕も、音楽が作りやすくなったことは、音楽シーンにとって良いことだと思ってます。あと、自分も一番最初に使ったDAWが「FruityLoops」だったので、Qの話はエモいですね(笑)。

 ライブ動画配信に関していえば、日本でもライブ配信を意識するアーティストの数が増えていく流れは強まると思っています。本格的なライブやDJセットが、配信で見れて、絶え間なく供給されるということは、凄く贅沢な視聴環境ですよね。ただ、僕はアーティストの動画配信も、新たな競争を生むんじゃないかなとも思っています。これまでのオンライン配信は、プロモーショナルな意味合いが強かった。ですが今後は、より商業的、ビジネス的側面が強まって、テレビの視聴率争いに似た構造になっていくでしょうし、時間や視聴者の奪い合いのような競争が激化して、淘汰されるアーティストも出てきたりするんじゃないかと考えています。

ーーライブ動画配信のやり方では、DJ同士がリモートで繋がってバーチャルフェスをやるように、新しい手法も試されていますが、何か新しい取り組みに可能性を感じることはありましたか?

DJ Q:イギリスでは、DJたちがライブ動画配信でNHS(イギリスの国民保健サービス)など医療機関やNPO宛に寄付を募る、チャリティ活動をやっているよ。簡単に寄付できる仕組みを作って、視聴者に寄付してもらうやり方が主流だね。巨額の寄付がDJやMCたちからによって集まっているんだ。

tofubeats:僕も、DJ EZの24時間連続DJライブ配信に感動して、寄付しました。

DJ Q:ありがとう。DJのチャリティ活動は、音楽コミュニティの連帯を強めてくれる効果もあると思っているよ。

tofubeats:イギリスと日本の音楽シーンでは、色々なやり方が違うので、比べられないと思いますけど、音楽から地域や社会に還元しようとする考え方は、共通しているんじゃないでしょうか。僕も自分の会社を通じて、医療関係機関に寄付したりしましたし、これは日本人の国民性だと思いますが、そういう活動をやっている方は多いと思っています。出来ることは小さいですが、音楽の力で集まったものを、地域に還元することは常に意識してますね。

ーー新型コロナウイルスは収束までの長期化が懸念されていますが、すでに音楽シーンから無くなったものや、形が変わらざるえないものも、すでにたくさんあります。アーティストの観点からコロナ禍の先を考えた時、現時点で失われつつあるものや、以前の状態を保つのが難しいものは、何だと思いますか。

tofubeats:コロナ禍の影響で、すでに経営が続けられなくなったクラブが出てきていますよね。そういうクラブは、仮に場所として再開できても、以前のフィーリングやバイブスまでは再生できず、失われていってしまう。それから日本だと、社会における音楽の優先順位はそれほど高くない。だから、補償が受けられなくて、音楽の仕事を失う人も増えると思います。そういう変化は作り手である自分も、意識せざるを得ない状況です。僕だって、ビジネス的な影響は、ゼロとはいえないですから。そう考えると、表面的には、クラブやライブハウスなどの経済再開に期待はあるでしょうが、一度失われたクラブカルチャーのムードや、DJシーンのテンションだったり、クラブに遊びに行く気分を回復させるには、収束までの期間よりも、さらに長い時間を要するのかもしれません。

DJ Q:これからの音楽シーンやクラブカルチャーは、「ソーシャルディスタンス」によって、大きく左右されると思う。クラブが再開すれば、一挙に人が押し寄せるはずだ。だが、その勢いも長く続かないと思う。自宅生活が長期化して、その反動で、遊びに行きたい人は多いだろうが、密集するクラブや音楽フェスティバルで、人と人との距離を保つのは簡単じゃない。イギリスの音楽シーンの将来は、政府の社会再開プランが明確にならなければ、一歩も先に進めない状態なんだ。すでに音楽フェスの多くが中止せざるを得ない状況で、経済的に追いつめられているだけに、さらに苦しい状況にならないかが心配だ。

ーーコロナ禍が収束しても、今後の生活には不安が残るかと思われますが、そんな社会状況の中で、音楽はどんな役割を果たせると思われますか?

DJ Q:新型コロナウイルスが広がってから、人は音楽に、ストレスや不安から開放してくれる癒やし効果を求める動きが高まったね。音楽を聴くことは、メンタルヘルス的にも前向きになったり、日常の憂鬱を解消する手助けになる。音楽は間違いなく、今後の社会の中で、重要な役割を担っていくはずだよ。

tofubeats:僕は音楽制作に没頭することで、新型コロナウイルスが蔓延する日常から、少し距離を置かせてもらっていると感じています。作業していない時でも、大量に買ったレコードを集中して聴いたり、昔のアーカイブを整理してますから。だから、音楽の力によって、僕たちアーティストも助けられているといえるんですよね。

ーーお二人とも今日はありがとうございました。

tofubeats:僕と僕のマネージャー二人とも、DJ QとButterzの長年の大ファンでしたと、ちゃんと本人に伝えられて良かったです(笑)。

DJ Q:ありがとう。早くまた日本に行きたいね。

tofubeats:日本に来たら、僕のスタジオでコラボレーションしましょう。

■リリース情報
「All In」
DJ Q, Gaidaa, tofubeats 
2020年5月22日(金)配信開始
配信はこちら

■関連リンク
HP
Twitter:@tofubeats
Instagram:@tofubeats
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