“デジタル来世”は死を不平等にする? 話題のドラマ『アップロード』のテクノロジーから考える

デジタル来世は死を不平等にする?

 本作の世界では、デジタル来世を様々な企業が営利目的で提供している。サービスの良し悪し、世界観の作り込みなどによって当然価格も異なる。主人公のいるレイクビューは最高級のリゾート仮想世界だが、だれもがその世界に行けるわけではない。貧しい人はそもそもアップロードのためのお金すら払えないのだ。

 主人公のネイサンは、金持ちの彼女に支払ってもらっているため、死後の世界での行動のほとんどを彼女に管理されている。レイクビューのカスタマーサービスの仕事をしているノラは裕福ではないが、レイクビューの素晴らしさを知っているため、父のために社員割引をなんとか適用してもらって、父に死後の世界をプレゼントしようとしている。

 この作品世界では、死は平等ではない。経済格差によって死後の快適さは格段に変わる。レイクビューでネイサンと同じフロアに住んでいるのは富豪ばかりだが、地下の質素な部屋には毎月2ギガバイトまでしか行動できないプランしか選べなかった人々がいる。その地下に暮らす女性がネイサンに、「ここではなるべく動かず、考えない方がいい。すぐに容量を使い切ってしまうから」と助言する。

 どんな金持ちにも貧乏人にも、死だけは平等だったはずだ。しかし、デジタル来世が実現した本作の世界では、死にすら経済格差が生じているのだ。

 上述したNectcomeの脳の保存サービスは、1万ドルだそうだ。それが高いか安いか、判断するのは難しいが、少なくとも誰もがすぐに支払えるものではないだろう。死の恐怖を克服した先に待っているものは、現実の格差社会の延長にすぎないかもしれないと本作は示唆している。

 あなたは死後も、デジタルで生き続けたいと思うだろうか。本作を観て是非考えてみてほしい。「デジタル来世」がもし現実になれば、人間の「一生」は根本的に今とは異なる概念になっているだろうから。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

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